第47話 質と量の戦争③
「はいはい。それで? 説明はまだ続くの?」
「はい。AIイヤホンのほうですが、欲しい情報を自分だけに聞こえるよう教えてくれます。骨伝導で伝えるため、自分にしか聞こえないし、外部の音もさえぎりません。ちなみに情報の伝達方法はコンタクトレンズのARによる文字出力にも切り替えが可能です。コンタクトレンズ、イヤホン、スーツ。これらAI装置3つのことを総称してAIマネジメントシステム、通称
そこでようやくベントの説明は終わった。
まともに説明を聞いていたのは鷲鼻のイーゴルだけで、すきっ歯のギャットは地べたにあぐらをかいて土いじりをしていたし、なで肩のストロキンはサーキュレーターを外して横になっていた。
すきっ歯のギャットがのっそり立ち上がり、ベントに向かって声を張った。
「なげーよ! 最初は手の内を明かすなんて馬鹿なやつだと思っていたが、結局、自動で回避していることが分かっただけで何の収穫もなかったじゃねーか。おい、ストロキン、おまえはさっさと起きろ!」
なで肩のストロキンが慌てて体を起こした。
それから思い出したかのようにサーキュレーターを肩に担いで装着した。
幹部3人衆はそれぞれ持ち武器を構えた。
すきっ歯のギャットはナイフ、鷲鼻のイーゴルは鞭、なで肩のストロキンは投げ針。
「ところでみなさん、武器に毒を仕込んでいませんか? 武器の殺傷力が殺意と釣り合わないんですよね、鞭はともかくとして」
「安心しろ。全員、麻痺毒だ」
武器は毒ナイフ、毒鞭、毒針だった。
「ギャット、オラ、疲れた。これ重いんだ。早く終わらせよう」
なで肩のストロキンが言うと、すきっ歯のギャットはすぐに答えた。
「そうだな。AIが動作の補助をしてくれるといっても動くのは生身の肉体だ。回避にも限界がある。全員でかかるぞ。おまえら、オイラに当てるなよ」
「わかってるよ」
「もちろんだ」
すきっ歯のギャットは毒ナイフを構えてベントに飛びかかった。
縦に、横に、斜めにと素早く切りつける。
ベントの体は自動でそれをすべて避けているが、そこに鷲鼻のイーゴルの毒鞭がまっすぐ飛んでくる。
味方を巻き込まないよう、ベントだけを的確に狙って直線的に打ってくる。
さすがにふたりぶんの攻撃となると、ベントの体も無理な体勢を強いられる。
しかし、ベントの組んだAIがベントの体を壊すような動きを
そこへさらに、なで肩のストロキンが2本の毒針を放ってきた。
いまの体勢からの逃げ場はないが、エアスーツの軽金属製の射風パーツで受けることで毒針を弾き飛ばした。
ベントは姿勢を戻したが、3人の連携攻撃は止まらない。
ただ、幹部3人衆の
「おい、ベント・イニオン。なんでそんなに澄ましていられるんだ? 超音波攻撃も赤いスプレーも封じた。おまえにはオイラたちを攻撃する手段はないはずだ。それなのにおまえ、勝機があるどころか、勝利を確信しているみたいじゃねーか。どういうことだ!」
「それは私も対策しているからですよ。私への対策に対する対策を」
毒鞭が引き、毒針をかわしたその瞬間、ベントはすきっ歯のギャットへと肉薄した。
すきっ歯のギャットは不意を突かれながらも毒ナイフを振るが、当然それは当たらない。
ベントがすきっ歯のギャットのフルヘルムに触れた。
ただ触れただけではない。何かを付けていた。
そのことに気づいたすきっ歯のギャットが、それをつかんで引きはがそうとする。
しかしビクともしない。
「おい、何をした!」
すきっ歯のギャットは毒ナイフを腰に戻し、両手でフルヘルムの異物を引っ張る。
ほかのふたりもそちらが気になるようで、毒鞭と毒針の攻撃も止まった。
「あちっ!」
異物は熱を発する。
すきっ歯のギャットが反射的に手を離すが、ベントの狙いは手のヤケドなんかではない。
「あちっ、あちぃいいいっ!」
フルヘルムが熱せられている。
すきっ歯のギャットは急いでフルヘルムを脱ぎ捨てた。
彼の視界が開ける瞬間を見計らって、ベントは円形に並んだ6つの銃口を向けた。
「ぐわああああああああっ!」
撃音波銃から発せられ共振した超音波が、すきっ歯のギャットに直撃した。
彼は両手で頭を抱えて崩れ落ち、地べたに転げてもんどり打った。
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