第45話 質と量の戦争①
ベントを取り囲むバーキングの勇士たちは、大半がジオスと同じフルヘルムをかぶっていた。
さすがに全員は用意できていないようで、ちらほらと顔を出している勇士もいる。
このまま帰れそうにはないので、ベントは仕方なく対処することにした。
方法はジオス襲撃時と同じ。
エアスーツで空を飛び、上空から催隷スプレーを噴射。
それから波銃でスプレーの赤い粒子の凝集をほぐし、霧を拡散させる。
「いぎゃあああああ!」
「うがああああああ!」
「ぐぬぉおおおおお!」
緑のケープたちが地べたに転げてもがき苦しんでいる。
ひとまず邪魔者を無力化したが、彼らは何度でもベントの前に現れるだろう。
それを防ぐには、彼らのマスターにそういう命令を下させるか、あるいはジオスたちのようにひとりずつ盲隷薬を飲ませていくしかない。
しかしこの有象無象に大量の盲隷薬を使うのはもったいない。
エアバイク改製造の労働力も足りている。
どうしたものかと思案していると、一部の赤い霧がベントの方へと返ってきた。
霧はベントを避けるように左右に別れていった。
ベントの飛行は風を噴射しているので、霧が避けていくのは当然である。
ベントが霧の来た方向、ギルドホームの入り口を見下ろすと、そこにはなで肩のストロキンが立っていた。
フルヘルムをかぶっているが、特徴的ななで肩で彼だとわかる。
その両肩にはそれぞれ大きなサーキュレーターがのっていた。
彼の両脇には、すきっ歯のギャットと鷲鼻のイーゴルが並んでいた。
ふたりもフルヘルムを被っているが、体格と雰囲気でそのふたりだとわかる。
赤い霧は送風によってほとんど遠くへ押しやられたが、すでにほとんどの緑ケープを無力化しているので問題ない。
ベントは地上へと降りて、彼ら3人の前に立った。
「おやおや、幹部3人そろってお見送りですか?」
「んなわけねーだろ!」
すきっ歯のギャットが声を荒げた。
それに驚いて横にいたふたりがビクッと体を跳ねさせた。
対するベントは、軽い皮肉を言ったつもりが思いのほか強くキレられたので、呆れてため息をついた。
すきっ歯のギャットは口調を落ち着かせ、自分たちが登場した理由に言及する。
「ベント・イニオン。勇士をごっそり引き抜いたおまえを素直に帰すわけがないだろ。あたかもバーキングの勇士たちが自主的に書いたかのような顔をしてギルド離脱届を持ってきたが、どうせおまえが無理やり書かせたんだろうが」
さらに鷲鼻のイーゴルが続ける。
「ジオスたちの報復は失敗したということでしょう? だったら縄張りのぶんもまだ済んでいないことになるわね」
なで肩のストロキンは何を言うでもなく、体を揺さぶって両肩の巨大送風機の位置をなおした。
いまは送風を止めている。
「つまり、報復として私を痛めつけたいわけですね? それはマスターさんの命令ですか?」
「マスターはお忙しいお方だ。バーキングの勇士としてなすべきことは、俺たちが自分で判断する」
あれだけ強い忠誠心を示していた幹部たちが、マスターの意に反することをするはずがない。
ギルドマスターという立場上、表だって手を出さないだけだ。
「バーキングの勇士として、ということは、マスターさんの意思ということになりますね」
「だから違うって言ってんだろうが!」
ふたたびすきっ歯のギャットが声を荒げた。
それでベントが怯むことはない。
「それを否定するのなら、あなた方はマスターさんの意に反することをしていることになりますよ」
「マスターを絡めようとするのはやめろ! いまおまえの前に立ちふさがっているのはオイラたち3人だ」
「そうですね。マスターさんを引っ張り出すには、ここにいる幹部3人をとっちめるのが早いでしょうね」
ベントのその言葉に、幹部3人衆の怒りは臨界点を突破したらしい。
すきっ歯のギャットは両のこぶしを硬く握って震わせている。
鷲鼻のイーゴルは怒気のこもったため息を吐きだした。
なで肩のストロキンは黙ってサーキュレーターのスイッチを入れた。
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