第42話 面談という名の尋問②

 ジオスは視線を上げない。口をつぐんでいる。


 盲信隷属薬で服従させても命令で言うことを聞かせられるわけではない。所詮はすり込み効果で互いの関係性を変化させただけなのだ。


 嘘をつく人間というのは相手が親だろうが上司だろうが嘘をつくものである。


「仕方ないですね……」


 ベントは白衣のポケットから黒く四角い道具を取り出した。端から銀色の金属棒が2本ほど飛び出している。


 ベントはその2本の金属棒をジオスの頭頂部に押し当てた。


「あがががががっ!」


 ジオスの全身が痙攣けいれんした。白目を剥き、舌を出して小刻みに震えている。


 数秒後、ベントはその黒い道具をポケットにしまった。


「はい、ジオス。あなたが私に話したくないと思っていることを全部話しなさい」


 ジオスは何が起こったのかわからない様子でポカンとしていたが、ベントの言葉は理解したらしい。


「プログレスの襲撃を計画して隊を編成したのはギルドマスターのカリナーリ・アルテ。計画から実行まですべて俺の独断でマスターは知らないことにするよう厳命された。あと、プログレスのメンバー情報やあんたの使う道具のこともすべてマスターに話した。あんたの道具への対抗策も提案した」


 ジオスは心の内に隠していたことを洗いざらい吐き出した。


 バーキングのギルドマスターに対する恐怖心からくる秘密と、ベントからの糾弾きゅうだんを恐れての秘密、両方が含まれていた。


「おい、なんで俺は全部しゃべってんだ……?」


「これを使ったからです」


 ベントはポケットからふたたびスタンガンのような道具を取り出し、ジオスに見せてやった。


「これは?」


「バカ正直ショックです。通称、バカショック。脳に電気ショックを与えて局所的に脳神経をショートさせ、本音と建前を使い分ける思考回路にねじれを引き起こします。これによって本音と建前を逆転させられるので、相手の本音を聞き出すことができます」


「はあ……よくわからん……」


 ジオスは脳の処理が追いつかないせいで、自分が受けた仕打ちに対する怒りが思考の外に追い出されてしまっているようだった。


 ベントはそのままジオスから情報を引き出した。

 バーキングのギルドホームの位置、おおよそのギルドホーム待機人数、幹部の情報、ギルドマスターの情報など。


「わかりました。私は早めに昼食をってからバーキングに行ってくるので、あなたも現場に戻って業務を開始してください」


 ベントが立ち上がり、事務所を出ていこうとする。

 その背中にジオスが声をかけた。


「ひとりでバーキングに行くなんざ正気じゃねぇよ! ギルドマスターのカリナーリ、あいつはヤベェやつだ。あんだけ粗暴な連中が集まっていて誰ひとり逆らわねぇ。おめぇ、怖くないのかよ!」


 ベントは顔だけ振り返って面倒くさそうに答えた。


「私が戦う相手として念頭に置いているのはシエンス共和国なんですよ。たかが一ギルドのマスターなんて取るに足りません」


「そうかよ。おまえの身なんか案じたくねぇが、いなくなられると困るんだよ。中毒体質にされちまったからな。だからちゃんと帰ってこいよ」


「あなたの中毒体質は因果応報ですよ。他人のせいにしていないで、自分の浅はかな行動をかえりみなさい」


 ジオスは逆恨みして報復しようとしたからこういう状況になってしまったのだ。彼がベントに返せる言葉はない。あるはずがない。


 だがそんなことはベントにはどうでもいいことである。


 さっきまで顔だけ振り返っていたベントは、強い足取りでジオスの正面まで戻った。


 ベントの顔はいつもどおりの無表情だが、その表情はかすかに怒気をはらんでいた。


「あと、ジオス。社長の私が敬語で話しているのに、なんであなたがタメ口を利いているのですか?」


「え……すみません……」


「それから工場長が社長を『おまえ』呼ばわりしていては、部下たちも序列を軽視してあなたの言うことを聞かなくなりますよ」


「すみませんでした、社長……」

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