第41話 面談という名の尋問①

 エアバイク改の製造工場がついに完成した。

 コミス伯爵の計らいで竣工式しゅんこうしきがおこなわれた。


 ベントは竣工式など必要ないと言ったが、コミス伯爵がぜひにと言うので、今回は彼の顔を立てることにした。


 竣工式が終わってコミス伯爵やプログレスの関係者たちが解散すると、ベントは残ったバーキングの勇士たちを集めた。


「これより工場の稼働を開始します。みなさんにはさっそく働いてもらいますが、そのまえに人事に関するお知らせがあります。ジオス・アウトロ、前に」


「はい」


 ジオスがベントの前までやってきて、バーキングの勇士たちの方に向き直った。


「本日付けでこのジオス・アウトロをエアバイク改製造工場の工場長に任命します。ジオス、今後あなたにはエアバイク改の製造における全責任を負っていただきます。作業者の監督と製造ラインの管理をしっかりと頼みましたよ。もし何か問題が生じた場合は監督者として責任を取っていただきます。もし誰かがミスをすればあなたも連帯責任を負っていただきます。それをわきまえて、しっかりと工場長の任を務めてくださいね」


「はい……」


 ジオスが監督するのは荒くれ者の集まりとして名高いバーキングの勇士たちである。誰かが問題を起こす可能性はかなり高い。


 そんな環境で責任者に任命されることは、上昇志向の高いジオスでも頭痛の種でしかないだろう。


「それからみなさん、バーキングのギルド離脱届はもう出しましたか? まだ出していない人はいますぐ提出してください。もしあとから出していない人が見つかったら重い処分を科すので覚悟しておいてください」


 半分くらいの勇士たちが離脱届を出しにベントの前にやってきた。


 彼らはルーズではあるが、ベントに対しては従順になっている。緑のケープをまとっている者はひとりもいない。


 ベントは離脱届の枚数を確認すると、まとめて大封筒に入れた。


「これは私からバーキングのマスターさんに出しておきます。これでもうあなたたちは勇士ではありません。エアバイク改製造工場の従業員です。いいですね? はい、それでは業務にとりかかってください」


 業務内容については昨日までにじゅうぶんにレクチャーしている。


 製造自体は機械が自動でやってくれるので、従業員は装置に命令を出したり、出来上がったエアバイク改を検品したりするだけである。


 従業員の質はあまり高くないが、ベントはエアバイク改の品質については心配していなかった。


「じゃあ、俺も現場に……」


「待ってください、ジオス。あなたには確認したいことがあります。事務所に来てください」


 ベントはジオスを連れて事務所の隅にあるパーテーションで仕切られた一角までやってきた。


 向かい合うソファーの間には低いガラステーブルがある。

 ベントは奥のソファーに座り、ジオスを対面に座らせた。


「私はこれからバーキングに行きます。だから、バーキングのスタンスを確認しておく必要があります。ジオス、あなたがバーキングの勇士を引き連れてプログレスを襲撃に来た理由を正直に説明してください」


 ジオスはガラステーブルに視線を落としたまま語りだした。


「理由はふたつある。あんたの言うとおり、ひとつはプログレスを追放された報復だ。もうひとつはプログレスがバーキングの縄張りに入った報復だ。すべて俺の独断でやったことだ」


 言い終えてもジオスは視線を落としたままだった。


 ベントはわずかに顔をしかめた。


「追放の報復は簡単に認めましたね。でも重要なのはそっちではありません。縄張りの意趣返しはあなたの独断ではありませんよね? だってリゼさんが子爵領を通ったのはあなたがバーキングに入るまえだったんですから」


「いや、俺の独断だ。俺が元プログレスだから、忠誠を示すためにやったことだ」


「ジオス、保身のために嘘をついていませんか?」


 プログレスの襲撃を指示したのが誰か。

 それがバーキングのマスターかどうかで、プログレスに対する敵意の度合いも大きく変わってくる。


 ベントが持ち込む離脱届の及ぼす影響が変わってくる。


 報復がマスターの意思ならば、離脱届で報復の失敗を悟り、その場でベントを捕らえようとするだろう。


 もちろん、プログレスの勇士であるベントが子爵領に入った時点で縄張りを犯したとして捉えようとしてくるだろうが、その場合とは捕らえる目的が異なってくる。


 通りすがりのポディネズミなら命までは取らないだろうが、明確に仇をなす害獣なら命の保証はない。

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