第31話 領主・コミス伯爵との懇談
「追放とはどういうことですか? それ次第では契約の話やら何やらすべて事情が変わってきますが……」
コミス伯爵はテーブルに散った紅茶を自分のハンカチで拭き取りながら尋ねた。
「それではふたつ目の本題に入りましょう」
ベントは自分が追放された経緯をコミス伯爵に話して聞かせた。
シエンス共和国がウィルド王国を投核弾で攻撃し、国を乗っ取ろうと画策していること。
ベントが投核弾の開発を邪魔していたこと。
それが理由で追放されたこと。
それからベントはコミス伯爵にシエンス共和国議会の録音データを聞かせ、話した内容が真実であることを示した。
「この話を知っているのは私とコミス伯爵、それからプログレスのギルドマスターであるグイル・マステル、同受付のリゼ・ティオニス、この4名のみです。この件に関してはいま述べた4人のみの秘密にするので協力してください。いま王家に報告したとしても、王家が先走って余計なことをしてしまうかもしれません。シエンスの侵略は私が阻止するので、その準備ができたら、頃合を見て王家に伝わるよう情報をリークします」
この件についてコミス伯爵に情報を共有することは、グイルとリゼには伝えてある。
あとはコミス伯爵が盲目的な正義感に囚われず、情報を内に秘めてくれるかどうかが問題だった。
コミス伯爵はふたたび両手で顔を覆って天井を仰いだ。
今度は唸り声のオプションも付いている。
しばらくそうしていたが、何かを決意したらしい顔をベントに向けた。
「わかりました。元々ベント殿がいなければ知り得なかった情報なので、ベント殿が王家にリークしたタイミングで私も知ったことにします」
「ありがとうございます。コミス伯爵ならそう言っていただけると確信していました」
ベントが腰を浮かせて手を差し出すと、コミス伯爵がそれに応じた。
コミス伯爵はまだ渋い表情をしているが、ベントが無表情なので、一見して温度感に差はない。
ベントはソファーに腰を下ろすと、カップに口をつけた。
「ベント殿。協力はしますが、いくつか確認させてください。まず、王家には秘密にするのに、なぜ私には話したのですか?」
コミス伯爵が尋ねてきたので、ベントはサッと喉を
「先ほどの契約で投資していただいて稼いだ資金を、シエンス共和国の侵略対策にも使うからです。投資を打ち切られると、シエンスを止められなくなります。そのときはウィルド王国の王都が消し飛び、ウィルド王国の領地はすべてシエンス共和国のものになるでしょう。だから、ビジネスの都合を度外視して投資をしていただきたいのです。もちろん、コミス伯爵の利益はお約束します」
国家存亡のかかったベントの活動支援を、コミス伯爵だけが負担しなければならない。
それも、誰にも知られずに、である。
だからこそベントはさっきの契約でコミス伯爵に莫大な利益を約束した。
コミス伯爵はベントに協力するために身を切る必要はない。
「それともうひとつ。シエンスの侵略を止めるあてはあるのですか? 投核弾というものについて聞く限り、防御のしようがない超破壊力の兵器のようですが……」
「あります。実はシエンス共和国が所有するとある装置に私の開発品を仕込んでいます。それをウィルド王国内からでも動かせるようにできれば投核弾の脅威は取り除けます」
「そうですか……」
コミス伯爵はベントがボカした部分の深掘りはしなかった。
目処が立っているということで納得してくれたのだ。
コミス伯爵が確認しておきたかったことはその2点だけらしい
彼は顔に出していた緊張を和らげ、雑談のテンションで追加の質問をした。
「ベント殿、もし私がシエンス共和国の侵略のことを秘密にできないと言ったらどうするつもりだったのです?」
グイルとリゼの名前を出した時点で、ベントにはコミス伯爵が協力してくれる確証があったはずである。
コミス伯爵からすれば、なぜそのような確証を持てたのかが気になるのだ。
「もちろん、そのときの対応は考えていましたよ。ただ、その具体的な内容については伏せさせていただきます」
そう答えながら、ベントは盲信隷属薬の存在はたしかコミス伯爵には知られていなかったはず、などと考えていた。
コミス伯爵は首をひねっていた。
当然ながら彼にはベントの考えていた対応が何なのか想像がつくはずがない。
しかし、踏み込むべきでない領域が直感でわかるのか、これ以上の深掘りはしてこなかった。
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