第28話 バーキングのギルドマスター②(ジオスSide)

「ボクちん、カリナーリ・アルテ。あなたにボクちんをマスターと呼ぶことを許してあげる。おい、幹部ども! 顔見せな!」


 カリナーリが叫ぶと、3人の男女が方々からすっ飛んできて横一列に整列した。

 全員が眼帯をしている。


「こっちから順に、すきっ歯のギャット、鷲鼻のイーゴル、なで肩のストロキンよ」


 名前の頭にふたつ名のようなものが付いているが、それぞれふたつ名どおりのすきっ歯と鷲鼻となで肩だった。


 鷲鼻だけ女でほかのふたりは男である。


「幹部とかあるのか。俺も幹部にしてくれ!」


「おい、調子に乗るなよ!」


 すきっ歯のギャットがかぶせる勢いで釘を刺してきた。


 肩にドンとカリナーリの手が乗り、すきっ歯は口を閉じて萎縮した。


「貪欲なのは嫌いじゃないわ。でもあなたには無理ね。彼らほどの覚悟は示せないでしょうから。この3人に共通することがあるでしょう? それが何か言ってみな」


「ふたつ名があること……?」


 ジオスは困惑しながらもそう答えた。


 萎縮する幹部に反してマスターが優しい雰囲気を出しているのは、不気味以外の何ものでもない。


「そうね。幹部になったらボクちんがじきじきにふたつ名を授けるんだけど、もっとわかりやすい共通点があるでしょう?」


「全員、眼帯をしている……」


「そう、正解! じゃあ、なんでこの子たちは眼帯をしていると思う?」


「怪我をしたから? 怪我をしてまでギルドに貢献することが幹部の条件なのか?」


 幹部3人は哀れむような、嘲笑するような視線をジオスに向けた。

 それは甘ったれた子供を見下すような目だった。


 カリナーリは目を閉じて首をゆっくりと横に振った。


「ハズレ。正解は、儀式をしたからよ」


「儀式……?」


「忠誠を示す儀式。この子たちはみんな、ボクちんへの忠誠の証として、自分で好きなほうの目玉をくり抜いて、それをボクちんに捧げたの。そしてその眼球をボクちんが目の前で食べる。生で。それが儀式。ジオスちゃん、あなたにそれができる?」


「…………」


 ジオスの右手がヒクッ、ヒクッ、と震える。

 迷っているのだ。忠誠を示そうかと。


 しかし、その手が腰より高く上がることはなかった。


「まあ無理よねぇ。今日初めて会ったのに、忠誠なんて誓えるわけがないわよねえ。でもいいわ。幹部にはしないけど、プログレス襲撃隊を編成したら、あなたをその隊長に任命してあげる。ただし、全責任はあなたに負ってもらうわよ。プログレスの襲撃を計画して隊を編成して実行に移したのは全部ジオスちゃんの独断。ボクちんは知らぬ存ぜぬ。それでいいわね?」


「ああ、それでじゅうぶんだ」


「あ、ちゃんとバーキングに喧嘩を売ったお礼は伝えてね」


 よい落としどころだと思った。

 ジオスはそれで満足だった。


 意外とすんなり自分の復讐が果たせそうで、その顔には自然と笑みが浮かんだ。

 汗でビショビショの顔に。

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