第27話 バーキングのギルドマスター①(ジオスSide)

 バーキングのギルドホームは大きかった。


 しかし汚かった。


 ヒビ割れた石の壁はひとつも補修されていないし、所々にコケがまとわりついている。

 玄関扉に彫られているウィルドの狼ことリコスの意匠も耳や鼻が欠けていた。


 プログレスのホームは小さかったが、ログハウスみたいで洒落ていたし、清潔感があった。


 ホームだけでギルドを選ぶのなら、誰もがバーキングよりプログレスを選ぶだろう。


 しかしジオスはプログレスに強い恨みをいだき、バーキングのギルドホームの門をくぐった。


 ジオスのえりをつかんで引きずっているふたりの男は、扉をバンッと力任せに開け放ってホームの中に入った。


 ホームの中はだだっ広い空間だった。

 テーブルや椅子などほとんどない。


 ただし人は多い。

 床に座ってジャンクフードをむさぼる者、床に寝ていびきをかく者、殴り合いの喧嘩をしている者。

 それぞれ自由に過ごしている。


 ホームの奥には一段高いスペースがあった。

 そこには調理台が並び、大きな冷蔵庫が鎮座し、壁の棚を調理器具がビッシリと埋めていた。


 ジオスはそこに向かってホーム内を引きずられた。


 男たちはジオスを離し、段の上を見上げた。


「マスター! バーキングに入りたいってやつを連れてきやした!」


 男が声を張ると、壇上の物陰にいた料理人が顔を突き出してジオスを見下ろした。


 緑のシャツの上に白いエプロンを着て、その上から緑のケープをまとっている。


 だがその雰囲気からして、絶対にただの料理人ではない。


 肩上まで伸びる深緑の髪をオールバックに固めたその男は、深緑の瞳と尖った耳を持っていた。


 どう見てもエルフなのだが、凶獣よりも狂暴な雰囲気をまとっている。


「俺をバーキングに入れてくれ」


 ジオスは立ち上がり、料理人姿のエルフを見上げてそう言った。


 エルフの男は前に垂れた数本の毛束をかき上げて笑みを浮かべた。


 骨格からして男だが、化粧で顔は白い。

 吊り上がった口角、むき出しの歯。


 その笑顔は狂人のそれだった。


「あらぁ! あなた、プログレスの子じゃない。グイルちゃんはお元気? そろそろウチのモンを痛めつけてくれたお礼の挨拶に行かなきゃって思っていたのよねぇ」


 しゃべり方はオネエだった。


 しかし彼がまとう雰囲気に対して恐怖をいだくことはあっても、笑える要素は微塵もない。

 立ち回りを間違えるとどうなるかわかったものではない。


「マスター……いや、グイルは元気だ。ルーキーと楽しそうにしている」


「ふーん。もしかして、あなたボクちんを煽ってる?」


 白い顔が視線を鋭くすると、ジオスの背筋に悪寒が走った。


 しかしそれを恨みの炎で焼き尽くし、しかと自分の意思を伝える。


「そんなつもりはない。俺はジオス・アウトロ。プログレスを追放された男だ。あいつら、いままで俺のおかげでもっていたのに、恩を忘れて誰も引き留めなかった。俺はプログレスに、あのルーキーに復讐したいんだ」


「だったら復讐すれば? 復讐したいと思った瞬間にそれを実行に移さない抜けはいらないわよ、バーキングには」


 その言葉にジオスは怯んだ。


 だがこのまま言い負けて追い出されるわけにはいかない。


「それを実行するための力が足りない。だからここに来た。数の暴力が必要なんだ。ランク2ndの俺でさえ押し負けるバーキングの〝数〟が欲しい。あんたもプログレスにお礼したいんだろ? 俺はプログレスの情報を持っている。それを全部提供してやる!」


 バーキングのマスターは目を上に向けてパチクリ高速でまばたきをした。


 それからふたたび邪悪な笑みを浮かべると、段の上から飛び降りてきた。

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