第26話 ベントに追放された男(ジオスSide)

 ジオス・アウトロは南下していた。

 ウィルドのロバことダロスに乗って、ひたすら南下していた。


 決闘でベントに負けてギルド・プログレスから追放となったわけだが、ジオスにとっていちばんの問題は、ギルドがひとつの領にひとつしかないということだった。


 プログレスに未練はないが、勇士を辞めるつもりもなかった。

 ギルドの勇士として凶獣を狩って生きていくのなら伯爵領を出ていくしかない。


 ディティカ橋を通って川を渡り、子爵領に入った。


 もうバーキングの縄張りである。


「おい、てめぇ、プログレスのジオスじゃねえか?」


 バーキングは縄張り意識が強いことで有名だが、まさか子爵領に入った瞬間に絡まれるとはジオスも予想していなかった。


「俺はもうプログレスじゃねえ」


「お、そうだったなぁ! 新人に負けて追い出されたらしいなぁ!」


 緑のケープを羽織った男がそう言って腹を抱えて笑う。

 うしろの男も同じく笑いだした。


「お? なんだ、なんだ?」


 緑のケープの勇士が近くにあるアニペラス村からぞろぞろと出てきて仲間からジオスの話を聞き、その勇士たちも腹を抱えて笑った。


 緑のケープの勇士はまだ村から出てくる。

 出てきては話を聞いて笑う。

 波紋が広がるように伝言ゲームで笑いが伝播していく。


 ジオスは大量の勇士に囲まれ、大笑いされている。


 バーキングに入ろうと思って子爵領に入ったのだから、彼らに手荒な真似をするのは避けたい。

 だがギルド加入後のことを考えると、舐められるのもよくない。


 何より、プライドが許さない。


「うるせーっ! 俺はバーキングに入る! おまえらの上に立つ! 俺を笑っていいのは俺より強いやつだけだ。笑いたいやつはかかってこい!」


 ジオスは気合を入れて叫んだ。


 バーキングを三大ギルドの一角たらしめる理由は、全ギルドのうちダントツで勇士の数が多いことに尽きる。


 突出した強者はいないが、ギルドに所属する勇士のほとんどが相手の強さを無視して考えなしに突っ込んでいく。


 数は暴力になる。

 一人ひとりが強くなくても、集団が相手となるとランク2ndのジオスでも苦戦は必至である。


「おらぁあああああ!」


 誰も「かかれ」などとは言わない。

 我先にと突っ込んでいく。


 100人くらいの集団が躊躇なくいっせいにジオスへと襲いかかる。


 ジオスは背負っていた得物を構えた。


 トゲに覆われた武器。それはモーニングスターではない。金棒だった。

 精神的な問題でモーニングスターを持てなくなり、持ち武器を金棒に変えたのだ。


 ただ、トゲトゲで覆われているのは相変わらずだった。


「おらっ! おらぁあっ!」


 ジオスは金棒でバーキングの勇士たちをバシバシとぎ払っていく。


 しかし、金棒の動きがだんだんにぶくなってくる。


 一度の薙ぎ払いで金棒にかかる体重がふたりぶん、3人ぶんと増えていき、やがて金棒は動かなくなった。


「弱小ギルド出身がイキッてんじゃねーよ!」


「俺たちを倒したきゃランク1stでも連れてこいや!」


 ジオスはボッコボコに殴られた。

 完全に無力化されたあとも、100人近くいる勇士たちに数発ずつ殴られた。


 ジオスはもはや自分の足で立てる状態にはないが、それでも意識は保っていた。


 ギルドホームに帰ろうとするバーキングの勇士たちに、かすれた声で呼びかける。


「待てや……。俺を、バーキングに、連れていけ……」


 その言葉を無視してぞろぞろと歩いていく者が多いが、数人は足を止めて振り返った。


「北のフレダムにでも入れよ。プログレスは最弱ギルドなんだから、どこの小ギルドに入ったってステップアップだろうが」


「あはははは! ステップアップって、おめぇ、難しい言葉知ってんだな」


 そのふたりは小突き合いながら去っていった。


 だが別のふたりがジオスの前にやってきた。


「なぁ、こいつバーキングに連れていかねーか?」


「なんでだよ。俺たちで運ぶの? めんどくせーだろ」


「マスターに調理してもらうとこ、見てみたくないか?」


「なんだよ、それ……。おもしろそーじゃねーか!」


 ジオスには訳がわからなかったが、どうやらバーキングに連れていってもらえることになったらしい。


 ジオスは自分の乗ってきたダロスに乗せられ、バーキングのギルドホームへと運ばれた。

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