第24話 ベントの武器解説①

「それで、どの武器について知りたいのですか?」


 ベントが言うと、フォルマンが食い気味に反応した。


「決闘で使った順にすべて教えてくれ。最初は銃みたいな武器だったか? ジオスが『防いだ』と言っていたが、俺にはただ銃を向けただけで何もしていないように見えた。あのとき、あの武器を使っていたのか?」


 ベントから情報を聞き出そうとするフォルマンの熱意はすごかった。

 好奇心と情報屋魂の相乗効果で狼の体がずっと前のめりになっている。


 ベントは話の焦点になっているものを白衣のポケットから取り出した。

 6つの銃口が円状に並んだ銃である。


「これのことですね。これは撃音波銃といいます。通称、波銃です」


「うおっ、常に持ってんのか!」


「ええ、護身用として標準装備していますよ」


 フォルマンは目の前に危険物が出てきたかのように身を引いた。

 だがすぐに姿勢を正し、改めて波銃の詳細な説明を求めた。


 ベントもそれに応じる。


「この波銃は超強力な超音波を何重にも共振させる銃です。何重にもというか、銃口が6つなので6重ですね。これをくらうと聴覚と三半規管が麻痺し、立てなくなって無力化されます。人も凶獣もたいていは一撃で行動不能になるでしょう。波銃は超音波を撃っているので、当然ながら弾丸のたぐいは見えません。それから、発射される音波は指向性なので、周囲には影響を及ぼしません。だから安心してください」


「お、おう。そうなのか……」


 フォルマンはあごに手を添えて波銃をまじまじと観察している。

 そんなフォルマンの肩にアルチェが肘を置いた。その視線はベントの方を向いている。


「ねえねえ、それって盾で防げるの? ジオスが盾で防いだって言ったとき、けっこうつらそうな顔をしていたんだよねぇ」


「まあ、共振の直撃は防げると思いますよ。でも6つの超音波のうち盾からはみ出したぶんが不快感を与えていたはずです。超音波は回折するので」


「へぇ、なるほどぉ」


 アルチェは大きくうなずいているが、理解していないことを誤魔化しているようにしか見えなかった。


 そんな彼女を尻目に、今度はクレムが質問した。


「あの、ベントさん。ジオスさんが盾で突進したときにベントさんを通り抜けたのはどういうことですか? 幻影とか何とか言っていたと思いますが」


「あれは幻惑迷彩です。胸部に装着した装置のスイッチを入れると、光を屈折させるバリアが全身を覆います。そのバリアが光学的に相手の視認像をズレさせるんです。実体の私はその幻影のすぐ隣にいました。ジオスが通り抜けたあとすぐに幻惑迷彩を解除したのですが、みなさんジオスの方を見ていたので気づかなかったようですね」


「な、なるほど……」


 ベントの説明を聞いたクレムはふむふむと何度もうなずいている。きっと理解するために脳内で咀嚼そしゃくしているのだ。


 フォルマンとアルチェも同様だった。


 最初にそれを終えたフォルマンが次の質問をする。


「で、そのあとに使った赤い霧みたいなスプレーは何なんだ? たしか黒い缶だったと思うが」


「あれは催涙隷属スプレーです。通称、催隷スプレー。オレオレシン・カプシカム・ガスを主成分として合成し、霧状化したスプレーです。ガスは香辛料に多く含まれるカプサイシンが主成分となっています。もしあれを吸い込むと、視覚、嗅覚、味覚が麻痺し、その状態が2時間ほど続きます。ちなみに噴射された霧は重いので1秒ほどで地面に落ちます。大気中に長く留まらず拡散もしないので、強風でも吹かない限り周囲に被害はありません」


「ねえ、隷属ってどういうこと?」


 アルチェがずっと気になっていた様子で尋ねた。


 ベントは淡々と質問に答える。


「ヘロインから抽出した依存性物質を合成しているので、依存性が非常に高いのです。スプレーをかけられた者は、スプレーをかけられたい気持ちとかけられたくない気持ちで葛藤することになります。迷うということは選択肢を確保しておきたいということなので、スプレーの所有者から離れると不安になり、付き従うようになります」


「奴隷化スプレーじゃん!」


「そうです」


 ベントがあっけらかんと答えたので、その場にいる全員が表情を引きつらせた。


「でもヘロインの禁断症状にあるような、筋肉痛や関節のきしみ、震え、下痢を繰り返す、といった直接的な健康被害はないのでご安心ください」


 空気が凍りつくのを感じて、ベントはさりげなく補足した。


 だがそれで「なんだよかった」と言う者はひとりもいなかった。

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