第22話 プログレスの勇士たち①

 プログレスのギルドホーム1階。

 中央にあるテーブル上に豪華な料理が並び、それを6人が囲んでいる。


 今日はベント・イニオンの歓迎会ということで、ギルド・プログレスの勇士全員が集まっていた。


「はじめまして。ベント・イニオンと申します。先日プログレスの勇士になったばかりの新参者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」


 ベントがペコリと頭を下げると、5人の拍手が歓迎してくれた。


 ベントはほかの勇士の質問に答える形で自分がここに身を置いた経緯を語った。

 シエンス共和国の科学省に開発者として勤めていたが、期待に応えられず追い出されたこと。

 リゼを助けたお礼にプログレスに迎え入れてもらったこと。

 今後はウィルド王国を便利にするための開発者としてやっていきたいので、資金稼ぎのためにランク2ndの依頼をこなしつつ、あくまでプログレスのギルド職員として在籍すること。


 シエンスの侵略については伏せておいた。

 そのせいでベントが語った経緯も真実と異なる部分があるが、事情を知っているグイルとリゼは何も言わなかった。


「なるほどねぇ。だから白衣を着ているのねぇ」


 その声はジオスとの決闘で決着がついたときに拍手をしていた女のものだった。


 今日はフードをかぶっていない。エメラルドのように美しい緑の髪は非常に長く、腰下まで流れている。

 左耳の上には白い花飾りを着けているが、その装飾品よりも耳が特徴的で目を引かれる。


 彼女の耳は、肩幅よりも長く尖っていた。


「あ、自己紹介しなきゃだね。あたし、アルチェ・ウィンドルっていいます。見てのとおり、エルフだよ。よろしくねぇ」


 エルフという名は太陽系の地球由来の呼称である。


 元々は長耳族と呼ばれていた種族だが、特徴的な耳の形のほか、普通の人間よりも五感が優れていて屋外や森でも室内と同様に生活できること、普通の人間の10倍近い長寿であることなどが地球の創作で描かれるエルフに似ていることから、いつからか長耳族はエルフと呼ばれるようになった。


 彼女の着るドレスは髪と同じくエメラルド色をしているが、露出度が高いうえに密着していてボディーラインがはっきり出ている。

 一見すると遊び人のように見えるが、エルフは軽装を好み、常に身軽にしているのが普通らしい。


 ほがらかな笑みとともに小刻みに手を振ってきたので、ベントは軽く会釈を返した。


 頭を上げたベントの視線は自然とその横に吸い寄せられた。

 そこにはエルフのアルチェよりもずっとインパクトのある容姿があった。


「お、次は俺か? 俺はフォルマン・ニットだ。よろしくな」


 そこにいたのは狼の頭をした男だった。


 鼻先から口、ほおの辺りまで白い以外は全身がグレーの体毛に覆われている。

 姿勢はまっすぐで直立二足歩行を標準とする人間の体型をしている。


 声だけ聞けば人間の男と区別はつかない。

 見た目も頭部や手などの露出した部分が狼であること以外は人間と変わりない。


 黒革のベストとグレーのマントを身に着けているので、体毛の色も相まって、夜になると闇に紛れて見つけるのが難しそうだった。


「あんまり見られると照れるぜ。そんなにウェアウルフが珍しいか?」


 彼はウェアウルフだった。

 この呼称も太陽系の地球由来のものである。


 元々は立狼族と呼ばれていた種族で、人間より力が強く、好戦的な者が多い。

 聴覚と嗅覚に優れ、特に嗅覚はエルフの数倍あると言われている。

 夜目も利くので夜に活動する者も多い。


 それがベントがシエンス時代に文献で得た情報だった。


「いえ。よろしくお願いします」


「おう、よろしく!」


 フォルマンはニッと笑った。


 狼特有の黄色く鋭い目と大きな体つきには威圧感があるが、意外とフランクで人がよさそうだった。


「あ、次は僕ですね」


 フォルマンの隣にいた小柄な青年が顔の高さまで手を挙げていた。


 青みがかった黒という珍しい色の髪をしているが、エルフでもなくウェアウルフでもなく人間である。


 青いベストの上から紫色のケープをまとっていて、いかにもプログレスの勇士という見た目をしていた。


「僕はクレム・エディオといいます。僕もまだプログレスの勇士になって1年しか経っていない新人なので、仲良くしてもらえると嬉しいです」


 クレムがペコリと頭を下げたので、ベントは軽く会釈を返した。


「クレムは1年経ったか。もう新人とは言えんな。後輩もできたことだし、ランク3rdを目指して――」


 親戚のおじさんのようなことを言いだすフォルマンの口を、アルチェが上下から挟んで閉じさせた。


「いいじゃんねぇ、クレム君。ベント君は職員なんだから、戦士としてはいちばん新人だもんねぇ」


 ギルドメンバーのことは基本的に勇士と呼ぶが、職員ではなく戦闘要員であることを強調したい場合には戦士と呼ぶらしい。


 クレムは肯定も否定もせず笑って誤魔化した。

 戦士としては年齢もランクもいちばん下なので、できるだけ敵を作りたくないのだろう。

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