第20話 決闘、ジオス・アウトロ①
ついにベント・イニオンとジオス・アウトロの決闘日を迎えた。
場所はギルドホーム裏手の一帯。
ギルド・プログレスが所有する土地で、ベントの研究室を設置する予定の空いた土地である。
ジオスはブレストプレートやレガースなど、全身を鋼鉄製の装備で固めており、決闘開始時にかぶるであろうアイアンヘルムを脇に抱えている。
腰には大きいトゲトゲ鉄球と持ち手の棒を鎖でつないだ武器のモーニングスターをひっさげ、背中には大盾を背負っている。
その装いは凶獣討伐用の完全武装と見られる。
ベントは黒いシャツと黒いスラックスの上から長丈の白衣を羽織っていた。
白衣の前を開放し、腰の位置にはポーチを着けている。
白衣の左右に付いているポケットが膨らんでいるのは、単に両手を突っ込んでいるからという理由だけではない。道具をそこに入れているのだ。
そんなふたりから少し離れた位置には見物人が並んでいる。
プログレスの勇士と思しき紫色のケープが数人並んでおり、その中にはリゼもいた。
モーヴ・コミス伯爵と彼に仕えている騎士のイ・ポティスもいる。
そのほかには偶然通りかかった領民が何事かと興味を示している。
見物人の集団の中から紫色のケープの男が前に出てきた。
決闘の仕切りと見届け人を務めるギルドマスターのグイル・マステルである。
決闘を開始するにあたって、グイルが改めて決闘の条件を読みあげる。
【勝利条件】
相手を戦闘不能状態にする、または戦意を喪失させる。
【決闘方法】
武力による戦闘。武器制限なし。
【決着後の処遇】
ジオス・アウトロが勝利した場合、ベント・イニオンはジオス・アウトロの奴隷となる。
ベント・イニオンが勝利した場合、ジオス・アウトロはギルド・プログレスから追放とする。
両者ともこの条件に不服がないことを確認すると、グイルは右手を高く上げ、ギルドマスターらしい威厳のある声を発した。
「決闘、はじめ!」
号令と同時にジオスが両手に武具を構えた。
左手に盾、右手にモーニングスターを握っている。
対するベントはポケットに両手を突っ込んだまま動かない。
ジオスの動作を観察する。
ジオスの戦闘スタイルは、突撃してきた相手を盾で弾いてバランスを崩させ、無防備になったところにトゲ鉄球を叩きこむものらしい。
だからというわけではないが、ベントはジオスに近寄らない。
そもそも遠距離型なのだ。
ジオスは自分から近づくしかない。
以前やられた謎の攻撃さえ防げば、この貧弱そうな男は一撃でやれるはずだと思っているだろう。
「オラァ!」
ジオスが怒声とともに突撃してきた。が、その瞬間にベントは撃音波銃をポケットから取り出し、ジオスに向けて発射した。
音はない。
何らかの物体が発射された形跡もない。
しかしジオスはベントが銃を取り出した瞬間に盾を顔前に構えていた。
ジオスは足を止めたが、倒れはしなかった。
盾のおかげで直撃は免れている。
それでも彼はそこはかとない不快感に襲われているはずだ。
「どうだ? おまえの攻撃を防いだぞ! なんか言えやコラァ!」
ベントは無表情と無言を貫いている。
ジオスは顔前に盾を構えてベントの様子が見えない状態のまま突撃を再開した。
このまま突っ込んで盾でなぎ倒し、そこにトゲ鉄球をぶち込もうという算段だろう。
ベントは動かなかった。
ジオスがどんどん自分に近づいてきて、いよいよ盾に接触するという瞬間になっても動かなかった。
「えっ!?」
ふたりの距離がゼロになったとき、見物人たちがどよめいた。
ジオスがベントをすり抜け、盾タックルの勢いで前につんのめった。
「それは幻惑迷彩による幻影です。光学的に相手の視認像をズレさせています」
ベントはジオスの横にいた。
ベントが手に持つ道具をジオスに向けたので、ジオスは慌てて顔前に盾を構えた。
ベントが構えたのは黒いスプレー缶だった。
ベントは盾の向こうにいるジオスの頭上に向けてそれを噴射した。
赤い霧状の粒子がジオスの頭上で少し滞留し、重力に従って降りていく。
「うげぇっ! なんだこれっ! 毒ガスか!?」
どんなに顔を隠しても、呼吸をすれば赤い霧を吸わざるを得ない。
ジオスはモーニングスターを手放し、両手で持った盾で霧を払いながら後退した。
「それは催涙隷属スプレーです。長くなりますが、詳しく説明しましょうか?」
ベントはそう言いながらしゃがみ、ジオスのモーニングスターに白い缶のスプレーを吹きつける。
「おい、何してんだ!? やめろ!」
ジオスは赤い粒子が舞っている中に突っ込み、モーニングスターを拾ってすぐにその場から離れた。
「ゲホッ、ゴホッ、オエェッ!」
ベントはいま撃音波銃を手に持っていない。
ジオスは盾を下げてベントをにらみつけた。
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