第19話 凶獣リノセロの討伐報酬

「ベント殿、凶獣リノセロが届いたぞ!」


 受付でリゼと話していたベントが声の方に振り向くと、ギルドマスターのグイルが開けた扉を押さえて手招きしていた。


 ベントとリゼがギルドホームの外に出ると、そこには鉄の台車に乗った凶獣リノセロの死体があり、その横でたくさんのラダがへばっていた。


 ラダというのは太陽系地球の牛と似た動物で、ウィルド王国では主に物資運搬用の使役動物として扱われている。


 ラダのように疲れ果てた様子の騎士がベントを見つけて近寄ってきた。


「ベントさん、凶獣リノセロをお届けに参りました」


「あなたはたしか、伯爵さんの騎士のポティスさんでしたね。ご苦労様です」


「はい。改めてよろしくお願いいたします」


「よろしくお願いします」


 ベントがポティスと握手を交わしていると、横にグイルがやってきた。リゼもいる。


「私は依頼の達成処理と報酬の用意をしてきますね」


 グイルはリゼがギルドホームに入っていく様を見送ると、台車の上の凶獣リノセロをまじまじと観察した。


「これはすごいな。解体作業もだいぶ骨が折れそうだ」


「専門家に依頼しようにも、凶獣リノセロの解体経験のある人なんてそうそういないでしょうし、頑張って自分たちでやるしかないですね」


 騎士ポティスがグイルの隣に並んで一緒に凶獣リノセロを観察しはじめた。


 ベントはふたりが語り合っている様子を後方から眺めている。

 ボーッとしているわけではない。凶獣に関する知識が少ないので、ふたりの会話からギルドにおける凶獣リノセロ評を確認しているのだ。


 しばらくすると、リゼがパタパタとかわいらしい駆け足で戻ってきた。


「ベントさん、これ、報酬の1万ルドです」


 今回の凶獣リノセロの討伐報酬は1万ルドである。


 ウィルドの通貨・ルドは、太陽系地球で一般的な通貨のドルと似た相場である。

 ベントに馴染みのあるシエンスの通貨・エンスに換算すると、100万エンスほど。

 つまり1ルドは約100エンスである。


「ありがとうございます。それにしても、凶獣を1匹討伐するだけで1万ルドももらえるんですね」


「いえ、凶獣リノセロの討伐報酬としては1万ルドは少ないほうです。依頼元のディティカ村の財力ではこれが限界とのことなので、今回は人助けと思って許してあげてください。その代わりと言ってはなんですが、凶獣リノセロの素材は非常に稀少なので高値がつきます。そちらも含めれば相応の稼ぎ高になると思います」


「なるほど。素材も含めた利沢が凶獣リノセロ討伐報酬の相場というわけですね」


 ベントとリゼが話していると、素材の話を聞きつけたグイルたちが合流してきた。


「凶獣リノセロの素材は売れば高いが、装備品にするのもいいぞ。凶獣リノセロほど硬い生物はいないから最上級の革装備が作れる」


 グイルの隣で騎士ポティスが大きくうなずいている。


「そうですね。非常に貴重な素材なので、売っているところすら見たことがありません。売っていたとしても高価すぎて上級貴族並みの財力を持つ勇士でなければ買えません。リノセロ革装備なんて、自分で凶獣リノセロを狩れるランク1stか、本当に上澄みのランク2ndの勇士しか持っていませんよ」


 ふたりの男が子供のように目を輝かせている。ぜひリノセロ革装備を見たいという期待感に満ちている。


「あ、すみません。全部売ります」


 ベントの言葉にグイルと騎士ポティスは一瞬固まった。

 だがすぐに笑顔に戻った。少し苦笑めいた笑顔で、ふたりは本心を押し殺しているようだった。


 ベントはふたりが理由を聞きたいかもしれないと思い、言葉を付け足した。


「私はあくまで研究者という職員側の人間なので、戦うための装備は必要ありません」


 さすがに原始的な装備なんて必要ないという根の部分を口に出すことはしなかった。


 逆にリゼのほうはワクワクしているように見える。


「ベントさん、これ全部売ったら20万ルドは固いですよ! もしかしたら30万とか40万とかいくかもです。どれほどの売値がつくのか予想がつきませんっ!」


 目を輝かせるリゼの隣でベントが考えていることは、ついついエンスに換算してしまうから早くルド相場に慣れなければいけないな、ということだった。

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