第18話 ジオスからの果たし状
通常、凶獣の討伐依頼で報酬を受け取るには、何らかの形で討伐したことを証明しなければならない。
それは凶獣の頭部を持ってくることでもいいし、凶獣が絶命したことが明らかな写真でもいい。
ベントはコミス伯爵を送ったあとで凶獣リノセロを解体して持ち運べるだけの素材を持ち帰ろうと考えていたが、コミス伯爵が運搬を手配してくれるとのことで、それに甘えることにした。
凶獣リノセロを討伐した翌日、ベントはリゼに呼ばれて受付まで足を運んだ。
「凶獣リノセロが届きましたか?」
「あ、いえ。そっちはまだです。今回お呼びしたのはジオスさんとの決闘の件です。ジオスさんから決闘の条件の提示があったので、ベントさんにその確認をしてもらいたくて」
「ああ、そっちですか」
ベントはジオスが出してきた果たし状に目を通した。
【勝利条件】
相手を戦闘不能状態にする、または戦意を喪失させる。
【決闘方法】
武力による戦闘。武器制限なし。
【決着後の処遇】
ジオス・アウトロが勝利した場合、ベント・イニオンはジオス・アウトロの奴隷となる。
ベント・イニオンが勝利した場合、ジオス・アウトロはギルド・プログレスから追放とする。
ベントは果たし状の記載で気になったことをリゼに尋ねた。
「リゼさん、勝利条件の戦闘不能というのは落命も含むのですか? 決着後の処遇を見る限り、相手の命を奪ってはいけないという条件に読み取れるのですが」
「戦闘不能に落命は含みませんが、ウィルド王国における決闘の大前提として、闘うなかで勢い余って命を奪ってしまった場合、自損事故扱いになって過失致死罪も適用されません。ジオスさんはベントさんに高い殺意を持っていたので、命懸けのつもりで挑んだほうがいいと思います」
ジオスは当然ながら自分が勝利することを前提としてベントに決闘を申し込んでいるが、万が一の場合に備えて決着後の処遇に生殺与奪を含めなかったと考えられる。
リゼはベントの様子を伺いながらソワソワしていた。
ベントにはその理由が察せられた。
「決着後の処遇がまったく釣り合っていませんね。等価なものを賭けようとしないなんて、ジオスは恥を知らないのですか?」
リゼにとって、この決闘の調整業務は相当なストレスになっているだろう。
ベントがこの不公平な条件を飲むはずがなく、そうなるとリゼからジオスにその旨を伝えなければならない。
想像するだけで胃が痛くなりそうなものである。
実際、リゼは顔色が悪い。
それでも彼女は健気にベントを気遣ってくれる。
「ベントさんが同意しなければ決闘の条件は再考となるので安心してください。それじゃあ、この決闘条件は一旦破棄して――」
「あ、待ってください、リゼさん。私はそれで受けますよ」
「え?」
リゼは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。合理的な人間が了承するような条件ではないので、彼女が驚くのも当然である。
ベントはその表情がおかしくて、少しだけ表情を崩した。
ベントはリゼが納得できるよう理由を説明する。
「賭けにはオッズというものがあります。私とジオスとでは勝利の確率があまりにも違うので、その条件でもじゅうぶんに釣り合うと思います。さっき釣り合わないと言ったのは、あくまで自分が勝つ気でいるジオス視点での話です」
リゼは呆気に取られていた。
あまりにも予想外の返答だったのに、その理由に納得させられたことが予想外だったのだろうとベントは推察した。
リゼはいつもの元気な笑顔に戻り、握った両手を顔の横で揺らして言った。
「ベントさん、さすがです。
「リゼさん、それは
「はわわ!」
ベントの指摘にリゼがぴょこんと跳ねた。口を両手で覆ってほおを赤らめる。
リゼが照れて笑うと、釣られるようにベントも破顔した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます