第16話 凶獣リノセロの討伐②

「仕方ありませんね……」


 ベントは波銃をポケットにしまい、反対側のポケットから別の銃を取り出した。

 銃口がパラボラアンテナ状になっている。これもまた特殊な銃であった。


 ベントが引き金を引くと、凶獣リノセロはその場にバタリと倒れて地面を揺らした。目は半開きになり。開いた口から舌が垂れて地面についている。

 呼吸に合わせて体を上下させている以外はいっさい動かなくなった。


「あ、あの、ありがとうございます」


「いいえ、まだです。トドメを刺さなければなりません」


 ベントはそう言うと、自分の首に巻いていた黒いネクタイを外して手に持った。

 するとネクタイがピンと伸び、鋭い剣になった。


 凶獣リノセロの開いた口にその黒い剣を差し込む。

 剣は抵抗なく入っていき、そして剣を引き抜くと凶獣リノセロの口から大量の血が噴き出した。


 凶獣リノセロはそのままピクリとも動かなくなった。


「あの……死んだのですか……?」


「はい。口内から脳を刺しましたので」


 戦士風の男は剣を納め、脱力して両肩を落とした。


 そのうしろからもうひとりの男が前に出てきた。


「いやはや、助かりました」


 その男は貴族の身なりをしていた。

 白くて光沢のある滑らかな素地のシャツの上に、金の装飾の入った黒い革のコートを羽織っている。

 50歳くらいと思われるが、艶のあるダークブラウンの長髪は先のほうがカールしていてシャレている。


 その男が紳士的な物腰でベントに問いかけてきた。


「えっと……シエンスの方ですか?」


「シエンス出身ですが、いまはウィルドでプログレスに所属しています」


「ほお、プログレスにこんなに強い勇士がいたとは……。失礼ながらお名前を伺っても? あ、私はモーヴ・コミスという者で、この地の領主をしています。こっちは騎士のイ・ポティスです」


 ここは伯爵領なので、この地の領主ということは、このモーヴ・コミスという男はすなわち伯爵である。


「私はベント・イニオンと申します」


 領地に住まわせてもらっている身として、ベントはいちおうペコリと頭を下げておいた。


「それにしても見事でしたな。よければどうやってこの凶獣を倒したのかお聞かせ願えますか?」


「構いませんよ。最初に凶獣リノセロを足止めしたのはこの撃音波銃。通称、波銃という武器です」


 ベントは白衣のポケットから波銃を取り出し、コミス伯爵に見せた。


「不思議な形の銃ですな……」


 コミス伯爵は6つの銃口が円状に並んだ銃をもの珍しそうに観察している。


「この6つの口から発射される強力な超音波を共振させてぶつけることで、標的の聴覚や三半規管を麻痺させることができます。たいていの凶獣は一撃で行動不能になります。でも凶獣リノセロはタフなうえに防御もしていたので、次にこっちを使いました」


 ベントは波銃をしまうと、今度は銃口部分がパラボラアンテナ形状になっている銃を取り出した。


「ほう、これはさっきのとは違うものですかな?」


「こちらは人間以外を無力化する波長の超音波を発生させる超感覚刺激波発生装置を小型の銃にしたものです。通称、GES銃。ちなみにGESというのは《Generator of Extrasensory Stress wave》から取っています。こちらは波銃と違って共振させる必要がなく、発射された超音波を浴びた時点で人間以外は完全に無力化されます」


 コミス伯爵の表情からして、ベントの説明は半分以上理解できていなさそうだった。


 ベントははなから自分以外の人間が完全に理解できるとは思っていないので、コミス伯爵の納得を待たずに黒いネクタイを見せて次の説明を始めた。


「そして最後にトドメを刺したのはこの形状記憶ネクタイです。特定の部分を直接触って体温の熱を加えると、ナノ合金繊維が記憶していた形状に変形して超硬質に固まります。このネクタイは剣の状態を記憶しているので、もし刃こぼれしても熱を加えなおすことで一瞬で元に戻ります」


 やはりコミス伯爵の頭上にはハテナが浮かんでいる。

 冷静さを取り戻すとベントの開発品が欲しいなどと言われかねないので、ベントはすぐに話題を変えた。

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