第15話 凶獣リノセロの討伐①
ベントはウィルドのロバことダロスに乗って西方へ向かっていた。そのダロスはプログレスが飼っているイーゼルちゃんである。
ダロスは警戒心が非常に強く、凶獣の接近に敏感なので、ダロスに乗っている間は基本的に凶獣に襲われる心配はない。
ベントはイーゼルちゃんの体力に気を遣いながら地図を眺めた。
凶獣リノセロの依頼はギルド・プログレスの西方にある漁村、ディティカ村から依頼されたものだった。
凶獣リノセロはここ伯爵領では基本的にディティカ山に生息しているが、最近は山から下りてきてディティカ橋の近くに現れるらしく、ディティカ橋付近で行商人が襲われる被害が出ているらしい。
ディティカ山はプログレスからは南方に位置するが、ディティカ村からディティカ橋、そしてディティカ山へとたどったほうが被害をもたらしている件の凶獣リノセロを見つけやすいと判断したのだった。
リゼはベントがこの依頼を受注したとき、最後まで心配していた。
「本当に大丈夫ですか? 凶獣リノセロの討伐はジオスさんでもなかなか受注に踏み切れないほど難易度が高い依頼ですよ」
ベントは凶獣リノセロについては文献から情報を得て知っていた。
凶獣リノセロは太陽系地球のサイという動物に似ている。
体毛のない灰色の皮膚は鉄鎧のように硬く、短い尻尾が特徴的。
そこまではサイとほぼ同じだが、いくつかの特徴がサイとは比較にならないほど凶獣リノセロを危険な存在たらしめている。
凶獣リノセロは鼻先に1本、ひたいに2本の超硬大角があり、最大120 km/hにもなる速度で突進する。
凶獣リノセロの突進は厚さ5cmの鋼鉄をも貫く脅威の破壊力を有する。
さらに体重が5t近くもあるので、少しのしかかられた時点で人間は即死してしまう。
そこまでは知っていたが、ベントは新たな情報が得られないかとリゼに話を聞いた。
そのときのことを思い出す。
「リノセロは皮膚がとっても硬いので、重量武器でなければ傷もつきません。でも重量武器を使う勇士はほとんどが素早く動けません。リノセロの攻撃は基本的に防御できないので、回避できるだけの素早さは必須です。だからリノセロはランク2ndでもごく一部の人しか討伐ができない強力な凶獣なんです」
凶獣リノセロ。自分の意思で動き回る5tの重量物。
ベントは最初、凶獣リノセロを移動手段や使役生物として飼えないかと考えたが、近くに存在しているだけで危険なので、飼うのはあきらめることにした。
ディティカ村に着いたベントはイーゼルちゃんを休ませた。
村の入り口付近に生えている野草を食べさせ、買ってきた水を飲ませる。
そのあと、ベント自身も食事処に入って昼食を済ませた。
ディティカ村は建物がまばらで閑散としていたが、漁村なだけあって魚料理はうまかった。
「イーゼルさん、またお願いしますね」
休憩を終え、ベントはふたたびイーゼルちゃんに飛び乗った。
川沿いに進んでディティカ橋へと向かう。
強い日差しに刺されながらしばらく進んでいると、ようやくディティカ橋が見えてきた。
だがそこでイーゼルちゃんが足を止めた。進むのを嫌がっている。
ダロスがこういう反応をするということは、周囲に凶獣がいるということである。
「わかりました。あなたはここで待っていてください」
ベントはそこで降りてイーゼルちゃんを岩場の陰に隠れさせた。そのまま川沿いを上流に向かって歩く。
しばらく行くと、ディティカ橋と思しき橋がベントの視界に入った。
その近くにはふたりの人影があり、そのふたりの横で2頭の褐色動物がうずくまっている。
その動物はおそらくウィルドの馬ことアローゴ。どうやら怪我をしているらしい。
そのふたりと2頭から少し離れた場所にもう1頭の動物がいた。
灰色でかなりの巨体。
それこそが凶獣リノセロだった。
ふたりのうち戦士風の格好をしたひとりが前に出て凶獣リノセロに剣を向けている。
対する凶獣リノセロはうしろ足で地面をかき、いまにも突進しそうな体勢。
もしこの状況で凶獣リノセロが突進したら、ふたりと2頭は確実に命を落とすだろう。
ベントは白衣のポケットから撃音波銃を取り出して走った。
凶獣リノセロが走りだしたので、波銃の引き金を引く。
「うわあああああああっ!」
剣を構えていた男の絶叫は明らかに死を覚悟していた。
だが凶獣リノセロは足をもつれさせて地面を滑り、その男の前で止まった。
「危ないから離れてください!」
ベントが駆け寄りながら声をかける。
凶獣リノセロはすぐに立ち上がった。
剣の男が下がると、凶獣リノセロはベントの方へと向きを変えた。
どうやら誰が攻撃したのかをわかっているらしい。
ベントはふたたび波銃の引き金を引くが、凶獣リノセロは両耳をパタリと閉じて防御しているため効果が薄い。
多少ふらついてはいるものの、ふたたび突進の構えを取った。
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