第14話 内部にはびこる厄介者③

「俺はジオス・アウトロだ。プログレス唯一の現役ランク・セカンドにして、プログレス最強の勇士だ。いいか、ここプログレスは俺で回ってんだよ。だからプログレスの勇士はみんな俺に感謝し、俺を敬わなければならねーんだよ」


 傲慢ごうまんな自己紹介したジオスはベントをにらみ下ろした。相手の反応をうかがっている。


 ベントはさっきからほとんど表情を変えないが、ジオスの言葉を耳に入れてもそれは変わらなかった。


「ずいぶん偉そうにしていると思ったら、ただの勇士じゃないですか。これからはランク2ndの依頼は私が処理するので、もうあなたが偉ぶれる理由はありません。実際に偉くもないのに偉そうな態度をとるのは金輪際こんりんざいやめてください」


 ジオスは顔を真っ赤にしてひたいの筋を増やした。

 さらに激しい歯ぎしりでギリッと音を立てる。


「ぶち殺すっ!」


 ジオスが拳を振り上げた。焦点をベントの顔面に合わせている。


 その瞬間、ベントはいつの間にかポケットから取り出していた撃音波銃の引き金を引いた。


「ぐわあっ!」


 ジオスはふらつきながら3歩後退し、両手で頭を抱えたまま床に片膝をついた。


「くそっ! 何をしやがった!」


 ベントはジオスの問いを無視してリゼの正面に立った。そしてそのままリゼに話しかける。


「リゼさん、この国では暴力をふるうのは犯罪ではないのですか? こういう犯罪者が放置されているということは、ウィルド王国は法治国家をかた蛮国ばんこくなのですか? もしそうだとしたら、私はいまのウィルド王国の在り方も看過かんかできません」


 ベントは断固たる意志でシエンス共和国を変えると宣言した男なので、矛先がウィルド王国にも向かいかねないその言葉には重みがある。


「ベントさん、ウィルド王国は暴力を容認しているわけではありません。人に対する暴力は犯罪だし、ちゃんと取り締まられます。ただそれにも限界があります。ギルドの勇士は凶獣を相手に戦う生活をしているので、血の気の多い人が多いんです。多少横暴な人がいても折り合いをつけていく必要があります」


 10代半ばくらいの若い見た目に反し、大人な対応をしてくるリゼ。

 殊勝しゅしょうな彼女に免じ、ベントは革命意志の矛を納めることにした。


 そのとき、何かがベントの肩にパサッとぶつかって床に落ちた。


 ベントが視線を落とすと、そこには年季の入った大きい白手袋が落ちていた。


「拾えよ。決闘だ」


 ベントはこの文化を知っている。

 太陽系の地球にかつて存在した決闘申し込みの文化である。

 シエンス共和国が得たその情報をウィルド王国に輸出したため、ウィルド王国では決闘を申し込む場合にこうして手袋を投げつけることがあるのだ。


 シエンス共和国は有益な技術情報はほとんど独占し、こういった本当にどうでもいい情報ばかりを輸出する。


 ベントが視線を上げると、ジオスは片手で頭を押さえたままベントをにらんでいた。


 普通ならこんなに早くは立てないので、ランク2ndのタフさは伊達だてではない。

 だがやはり、いまのジオスはとても拳を振れる状態ではなさそうだった。


「拾いませんよ。決闘は受けてあげますけど、この汚い手袋を私に拾わせないでください」


 ベントは床に落ちた手袋をジオスの方に蹴ってよこした。


 ジオスはその手袋を自分で拾った。


「チッ、クソがっ! 絶対にぶっ殺してやる! 決闘の詳細は後日ギルドを通して伝える」


 ジオスはふらつきながらギルドホームから出ていった。


 扉が閉まった瞬間、リゼは震える息を大きく吐き出した。

 ベントの方に向き直ると、不安げに揺れる視線を送る。


「ベントさん、停船渡河ですよ! 大変なことになりましたね。どうしましょう!?」


「リゼさん、それは泥船渡河でいせんとかです」


「はわわ!」


 リゼはぴょこんと跳ねて両手で口を覆った。

 前回は赤面とセットの仕草だったが、今回は焦りに引っ張られて顔が青い。


 しかし、当のベントは青くなるどころか表情ひとつ変わっていなかった。


「あ、決闘のことはどうでもいいので、それより依頼受注の確認と手続きをお願いします」


「えぇっ!? ベントさん、あなたって人は……」

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