第13話 内部にはびこる厄介者②

「ベントさん、これはランク2nd向けの依頼ですけど、本当にこれを受注するんですか!?」


「はい。私はギルドにおいてはあくまで裏方の研究者として活動するので、わざわざ勇士ランクを上げるつもりはありません。生活費と研究費、あと当面は研究室の増築費用を稼ぐため、できるだけ高額な報酬の依頼を受けます」


 リゼはすぐにはそれを承認しなかった。


 ランク5thが推奨ランク2ndの依頼を受けるなど前代未聞らしい。

 ベントが並の勇士より強いことはわかっているが、ギルドマスターに確認を取りたいとリゼは言った。


 申し訳なさそうにする彼女を安心させようと、ベントは柔らかい表情を心がけてそれを了承した。


「おい、邪魔だ。どけ」


 そのとき、突如として肩に鈍器のような力が加えられ、ベントの体が受付カウンターの前から押しのけられた。


 いつも無表情のベントは眉をピクリと反応させて野太い声の主に視線を向けた。


 そこには白髪白ひげで褐色肌の大男が立っていた。

 ベントよりも頭ひとつぶんは背が高く、筋肉の重鎧ともいえる体格にはベントの体が3つは入りそうである。

 紫色のケープと紫のパンツからしてプログレスの勇士なのは間違いない。


 大男はカウンターにあったベントの依頼書を払いのけ、自分が受ける依頼書をカウンターに叩きつけた。


「暴力行為と割り込みはマナーが悪いですよ」


 ベントが顔をしかめて抑揚なく言った。


 大男は目をいからせ、ひたいに筋を立ててベントを見下ろしてきた。


 カウンターの向こうではリゼが青ざめて首を振っている。

 ベントに「逃げて」と言っているように見える。


 しかしもう事態は動きだしていた。


「あ? なんだテメーッ!」


 大男はそのたくましい肉体から鉄槌てっついのような剛腕を打ち放った。ベントの腹に。容赦の欠片もなく。


「ベントさん!」


 リゼの声はもはや悲鳴だった。


 ベントの体はわずかに宙に浮き、地に足がついたあとに2歩ほど後退した。

 その表情は先ほどと変わらぬ無表情。


 大男もベントの挙動が想定とは違っていたらしく、ベントをにらみつけたまま首をひねった。


「大丈夫ですよ、リゼさん。私の着ている服は一見すると単なる黒いシャツに見えますが、これは超ダイラタンシー性ナノ繊維スーツなので衝撃への耐性があります。外から強い衝撃が加わると即座に全体が硬化するので、私に加わる衝撃も分散されるのです」


「チョウ……スーツ……?」


「通称、ダイスーツです」


 ベントの何事もない様子に、大男の怒りのボルテージがさらにグンと上がった。

 受付カウンターにドンッと拳が打ちつけられる。

 その拍子に2枚の依頼書が浮いたので、大男の視線がチラとそちらへ向けられた。


「ん? 何だ?」


 大男はベントが持ってきた依頼書を手に取り、その内容を確認した。

 ひたいに血管の筋を浮かべたままだが、声を少し落ち着かせてリゼに尋ねた。


「おい、リゼ。こいつは誰だ? こいつはランク2ndなのか?」


「この方はベント・イニオンさんといって、昨日プログレスに加入したばかりです」


「じゃあランク5thじゃねーか! それがなんでランク2ndの依頼書を持ち出してんだ!」


 ふたたび大男が受付カウンターに拳を打ちつけ、リゼがビクッと跳ねた。


 緊迫した雰囲気だが、そんな中にあってもベントは面倒くさそうにため息をついた。

 それがいっそう大男の顔を怒りの赤に染めあげる。


「私のことを訊きたいなら私本人に直接訊けばいいじゃないですか。それで、あなたこそ誰なんですか?」

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