第9話 プログレスのギルドマスター②
すべて説明した。
シエンス共和国が資源を狙ってウィルド王国を侵略しようと企てていること。
投核弾というとてつもない破壊力を有する兵器を開発していること。
自分がそれを間接的に妨害していたために邪魔者として追放されたこと。
「そうか、そんなことになっていたとは……」
グイルはテーブルに肘をついて頭を抱えた。
追放と聞けば誰しも「大罪人なのではないか」と
だがベントの話はその疑念を些事に変えた。
事は一個人の問題を遥かに超えた重大なものである。
「マスター、これはヤバいですよ! どうしましょう……」
両手でほおを挟んで変な顔をしたリゼが体をひねり、長く美しいブロンドの髪が肩からハラハラと流れ落ちる。
美少女にしてはおもしろい困惑の仕方をしていた。
「うむ。これは俺が王城に出向いて報告しなければならんだろうが、しかし証拠もなしにそんな報告をしても一笑に付されるだろうからなぁ。ベント殿、疑うわけではないのだが、さっき言ったことは本当なのか? ちょっとタチの悪い冗談だったりしないのか?」
反応の大きなふたりに対し、ベントは無表情で淡々と答える。
「本当です。証拠もありますよ。議事録用の録音データを持っています」
ベントはキャリーバッグの中から電子端末を取り出し、会議の音声データを再生した。
ベントはわざわざ言わなかったが、会議外での同僚との会話も録音しており、そのデータも持っている。
だからシエンス共和国の真意もしっかりと押さえている。
「マスター、本物ですよ、これ! どうしましょう……」
リゼはふたたび変な顔で体をひねった。
グイルは腕を組んだまま前傾し、ひとしきり唸ってから答えた。
「これは報告しなければならん。ならんが、しかしなぁ……。我々プログレスは最弱と言われるほどの弱小ギルドだ。情報感度も高い三大ギルドですらつかんでいない情報を弱小ギルドがいきなり出してきて、ウィルド王家がすんなり受け取ってくれるとは思えない」
「ほう、ウィルドの王族は物事の本質を見抜けない愚か者なのですか?」
ずっと無表情のベントの眉がわずかに動いた。
それを見たグイルは苦笑をもらす。
「ベント殿、俺にそのような訊き方をせんでくれ。言葉の選び方ひとつやお偉方の機嫌で重要な判断事がガラリと変わることがあるのはどこも同じだ。ウィルド王国は貴族社会だから、なおさら体面に気を配る必要がある」
「これは面倒多難、困難辛苦ですね!」
「それは前途多難、
「はわわ!」
グイルが訂正すると、リゼはぴょこんと跳ねて赤面した。両手で口を覆い、泣きそうになっている。
ベントがフッと笑い、そして続けた。
「マスターさん、リゼさん。この件は私に任せていただけませんか?」
「任せる……?」
「私や音声データから聞いたことはふたりとも心の内にしまっておいてください。むしろ報告厳禁です。王室に報告したところで、慌てた王室が悪手を打つだけでしょう。だから私がこの手でウィルド王国を救います。ついでに傲慢なシエンス共和国も私が変えます」
ベントは無表情ながら、わずかな気おくれもない強い眼差しを見せた。
ベントが〝救ってみせる〟ではなく〝救う〟とはっきりと断言したことも相まって、グイルは明らかにけおされている様子だった。
「気持ちは嬉しいが、一個人にそんな大それたことができるのか?」
「ええ。最低限のサポートさえしていただければ」
グイルは腕を組んだまま目を閉じた。
このままではウィルド王国の首都は王城もろとも投核弾によって焼き払われるだろう。
そしてここのように首都から少し離れた領土がどうなるかは未知数。
首都と同様に投核弾で焼き払われるか、あるいは住民が労働力として奴隷のような扱いを受けことになる公算が大きい。
グイルは閉じていた目を開いた。
「わかった、ベント殿のことを信じよう。元々ベント殿からもらった情報だしな。ギルドとしても、俺個人としても、できる限りのサポートを約束しよう」
「ありがとうございます」
「私も協力します!」
ベントは改めてグイルと握手し、それからリゼとも握手を交わした。
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