第8話 プログレスのギルドマスター①
扉を開けて中に入ったリゼは室内の灯りを点けた。
ギルドホームは2階建て構造で、大部分は吹き抜けになっていた。
1階には受付、情報掲示板、依頼掲示板、そして多数のテーブルがある。
2階は壁際にぐるりと狭い通路があり、通路沿いにはギルドマスター執務室、応接室、職員事務所があった。
1階をぐるりと見渡すが、人の姿は見当たらない。
「マスター、ただいま帰りました!」
リゼが声を張った。
彼女はギルドマスターがホーム内にいることを確信しているらしい。
「おう、おかえり!」
渋いながらも威圧感のない優しい声が2階から返ってきた。
その声の主が1階に降りてくる。
ベントは目の前に立った長躯の男を見上げた。
あごひげを蓄えているが、サッパリした濃茶色の短髪で爽やかな印象。
非常にたくましい体を、金の装飾の入った黒いギルドシャツと、プログレスのモチーフカラーである紫のパンツとケープが覆っている。
「マスター、道中でこのベントさんに助けていただきました。ベントさん、こちらがこのプログレスのギルドマスターです」
「俺はグイル・マステルだ。リゼを助けてくれたのか。ありがとう」
グイルが爽やかな笑顔で手を差し出してきたので、ベントはその手を握った。
「ベント・イニオンです」
立ち話はなんだからと、3人は4人掛けのテーブルについた。
そしてリゼがグイルに事のあらましを説明した。
「いやはや、ひとりでバーキングの連中を5人も倒すとはたいしたものだ。改めてリゼを助けてくれてありがとう」
グイルはテーブルに両手をつき、深く頭を下げた。
「いえ、たいしたことはありません。所詮は……所詮……」
ベントは言葉を選ぼうと努めたが、しっくりくる言葉が思いつかなかった。
グイルはそんなベントを見てガッハッハと笑った。
「気を使う必要はないさ。所詮はウィルド人。科学の発展した先進国のシエンス人から見れば、我々なんて原始人と大差ないだろう」
「いえ、私の言う〝所詮〟にはシエンス人も含まれています。私から見ればほとんどのシエンス人も野生動物と変わりません」
ベントのその言葉にグイルもリゼも顔にハテナを浮かべたが、3人ともその〝所詮〟についてそれ以上の深掘りはしなかった。
代わりにリゼが切り出す。
「それでマスター、ベントさんは行くあてがないそうなんですけど、プログレスでしばらく寝食を提供してあげられませんか?」
グイルは腕を組んで天井を見上げ、少し悩んだ様子を見せた。
だがすぐにベントに笑顔を向けた。
「そうか。リゼの恩人だしな。しばらくの間はこのギルドホームに寝泊まりしてもらって構わない」
「ありがとうございます。助かります」
「それにしても、行くあてがないとはどういうことなのだ? ベント殿は何か用があってシエンス共和国からウィルド王国に来たのではないのか?」
「いえ、私はシエンスから追放されたんです」
「え……」
ベントからの衝撃的な言葉に、グイルもリゼも言葉を失った。
恩人として感謝されているいまなら本当のことを言っても大丈夫だろうと考えたベントは、自分が追放されたことと、追放されるに至った経緯を説明した。
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