第6話 運命の出会い
ベントが目を覚ましたときには、だいぶ陽も落ちてきていた。
さすがに激しく揺れるベッドでの眠りは浅かったようで、完全に日が暮れてしまうほどは寝られなかった。
「あ、止まってください」
ベントが凶獣の首の毛をグイっと引っ張ると、凶獣は急ブレーキをかけて足を止めた。
「ここまでで結構ですよ。ありがとうございました」
そう言うと、ベントは凶獣の背中から降りた。
そして顔に催涙隷属スプレーを吹きつけてやる。
「クゥンッ! クゥウウウンッ!」
凶獣は地面に転がり、顔を掻きむしるようにジタバタともがき始めた。2時間はこの状態が続くことになる。
なぜベントが貴重な移動手段を捨てたかというと、人の集団が視界に入ったからだった。
さすがに凶獣と一緒にいると混乱やトラブルを招くので、これ以上は一緒にいられない。
集団は緑色のケープを身に着けていた。
ウィルド王国でケープといえば、各地にある凶獣討伐ギルドの勇士である。
勇士というのは主にギルドに所属する戦士のことを指し、ギルドで働く職員や非戦闘メンバーも勇士と呼ぶ。
とりあえず彼らは野盗などではなさそうだ。
ベントは道を訊こうと緑色の集団に近づいていく。
だが、なにやら穏やかではない様子。
緑色のケープの男5人が紫色のケープの小柄な少女を取り囲んでいた。
「弱小ギルドが俺たちバーキングの縄張りに踏み入るとはいい度胸してんなぁ、おい!」
「紫はプログレスだったか? こいつを捕まえてプログレスに落とし前をつけてもらおうぜ。金を搾り取ってやる」
「そうだな。プログレスには責任だけ取らせて、こいつは俺たちでもらっちまおうぜ」
ガラの悪い緑色の男たちが、怯える紫色の少女を
彼らはベントがすぐ近くまで来てもいっこうに気づかない。
「失礼。ちょっとよろしいですか?」
ベントが緑の輪の外から声をかけた。
彼らの視線がいっせいにベントへ向き、そのうちのひとりがカチキレたように声を荒げた。
「なんだぁあ、テメェはよぉおおお!?」
5人の男たちがそれぞれ小型のナイフを構えてベントに向かってきた。
ベントは顔をしかめ、小さくため息をついた。
無言で5回。撃音波銃で男たちを撃った。
緑色のケープが地面に転げてのたうち回る。
「ぐわぁああああっ! なにしやがったぁあああああ!」
ベントは彼らの悲鳴を無視し、緑色の男をまたいで紫色の少女に近寄った。
少女は艶やかな長いブロンドの髪と紫色の眼が特徴的で、10代半ばくらいに見える
これだけ
少女は何が起きたのか理解できず戸惑っている様子だが、ベントは自分が何をしたか説明するのではなく、自分の知りたいことを質問した。
「あなたのお名前は何ですか?」
「私はリゼ・ティオニスです。あの、助けていただきありがとうございました。えっと、あなたは?」
「私はベント・イニオンと申します。最初にひとつ確認させてください。私は話が通じない人とはできるだけ口を利かない主義なのですが、あなたを残して彼らを掃討した私の見立ては合っていますか?」
リゼは困惑した表情のままベントを見上げた。
「え、ええ……。その見立ては合っていると思いますけど、ただ、彼らへの仕打ちはまずかったかもしれません」
「ほう、どんな問題があるのですか?」
「彼らは三大ギルドのひとつ、バーキングの勇士です。ギルドの所属人数が非常に多く、気性の荒い人が多いので、彼らに目をつけられたら無事では済まないと思います」
ベントは視線を落として考えた。
右肘を左手にのせ、右手の指であごを挟んでじっくり3秒ほど考えたあと、リゼの方へ視線を戻した。
「それは困りますね。あなたはプログレスという小さなギルドの所属なのでしょう? 大きなギルドに目をつけられたら、ひとたまりもないでしょうね」
リゼは目を丸くした。
彼女は自分の意図したことは違うのだと手を振ってアピールした。
「それはそうなんですけど、それよりベントさんが心配です。バーキングの勇士に手を出した以上、大勢の仲間を引き連れて報復してくると思います。ベントさんってシエンスの――」
リゼがそこまで言ったところで、ベントは手のひらを突き出して彼女の言葉をさえぎった。
ベントにはリゼの言わんとすることがすぐにわかった。
ベントはシエンス人のようだから早めにシエンス共和国に帰ったほうがいい。リゼはそう忠告しようとしたのだ。
「私はまったく問題ありませんよ。原始的な武器しか持たない後進的な人たちに私が負ける要素はないので。そして所属に関するしがらみもありません。お察しのとおり私はシエンス人です。シエンス共和国にクレームを入れようものなら、彼らの逆鱗に触れてバーキングは即座に撃滅されるでしょう。さすがに三大ギルドのひとつがそんな馬鹿な真似はしないと思います」
リゼはベントの自信に満ちた発言に、最初こそ不思議そうにしていたが、改めて無力化されたバーキングの5人を見ると、さすがに納得したようだった。
しかしベントにも困り事はあった。
それを解決するため、リゼに取引を持ちかける。
「バーキングについては問題ないのですが、私はほかの問題を抱えています。実は私、行くあてがないのです。そこで相談なのですが、バーキングが報復に来たら追い払うので、私をプログレスに置いていただけませんか? それが無理なら宿と働き口を斡旋していくだけでも構いません」
リゼは右腕を左腕にのせ、握った右手に右ほおをのせて考え込んだ。
ふたりの会話が途切れたので、バーキングの男たちのうめき声が聞こえてくる。
しばらくすると、リゼがベントを見上げて答えた。
「わかりました。ギルドに籍を置けるかは私の一存では判断できないので、うちのギルドマスターに話してみます。ひとまずプログレスに案内しますね」
そう言うと、リゼは可憐なほほえみをベントに向けた。
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