第3話 追放宣告①
それはシエンス共和国議会の翌日のことだった。
「ベント・イニオン開発主任、君は国外追放となった」
追加の会議を待つことなくベントの追放が決まった。
各種開発に係る申請の承認や決裁にはやたら慎重なくせに、ベントの追放はずいぶんと簡単に決められてしまった。
しかも伝達方法はベントの開発室を訪れたサイス科学省長官からの口頭伝達のみという粗末なもの。
「懲戒解雇どころか国外追放とは、処分が重すぎませんか? 国外追放を外国人以外に適用するなんて聞いたことがありません。あの方々は私ごときが食い下がってそんなに腹を立てられたのですか?」
大陸には2国しかないので、国外追放となると必然的にウィルド王国への追放ということになる。
ウィルド王国はシエンス共和国が戦争をしかけて攻め落とそうとしている国である。
死刑が適用できないから、国外追放することで殺したいのではないか。
ベントは得体の知れない殺意のようなものをひしひしと感じた。
「君の処分を決めたのは私ではない。すまないが、私にはどうしようもない」
サイス科学省長官は申し訳なさそうな顔を作ってベントの肩に右手を置いた。
この手にはきっとベントを励ます意図があるのだろう。
「サイス長官、議会では私が自己解釈で突っ走ったなどと言われましたが、私は上司であるあなたに開発の進捗状況をこまめに報告していたはずです。なぜ議会で擁護してくれなかったのですか?」
サイス科学長官は右手を引いて眉を八の字に下げた。
「ベント君、私の立場も汲んでくれ。君が議会に出るのはあの1回きりだが、私は何度も出なければならないのだ。科学省のためにも長官である私の心象を悪くするわけにはいかない。心苦しくは思っている。裏切った形になったことは謝罪する」
そう言うと、サイス科学省長官はおもむろにベントに背を向けて開発室を出ていった。
ベントはそのあとを追う。
うしろから声をかけるでもなく、ひたすら彼に追従して歩く。
しばらくすると、サイス科学省長官が立ちどまって振り返った。
「ベント君、まだ何か?」
「いえ、謝罪すると宣言されたので待っていたのです。しかし、どうも認識の相違があるようですね」
「ん? 何を言っている?」
ベントの眉も八の字に下がる。
しかし口端を少し吊り上げ、せめてもの愛想笑いを見せてから言う。
「長官、『謝罪する』という言葉は謝罪ではありませんよ。ただの予告です。『ごめんなさい』とか『すみません』とか『申し訳ありません』とか、そういった言葉を相手に伝えることが謝罪するという行為です」
サイス科学省長官は目を閉じた。
口も閉じている。
しわの寄る壮年のひたいに赤味が入り、熱気が発せられている。
彼が目を開けたとき、ほおがかつてなく強張っていた。
「そういうところだぞ! もう知らん!」
サイス科学省長官はベントの右肩を小突き、足早に自室へと戻っていった。
ベントは開発室に戻って荷物整理をしようときびすを返した。
その道をふさぐように、壁に背を預けていた白衣の男が淡い金髪をかき上げながら正面に立った。
「ざまぁないな、ベント」
「リベール先輩……」
リベール・オリン科学省開発主任。
投核弾の開発を主導するベントの先輩である。
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