第31話
「授業中に女子がよくやる手紙の回覧って何が書かれているのか、きっと見てはいけないのでしょう。男子? 俺に回ってきた手紙はヤベー屁がでるどうしよう、だったかな。こんにちは、基本男は下等生物と思ってるラズベリーの入ったシュークリーム、シューク・ベリームです」
顔も名も憶えてない同級生たち、元気に暮らしているかな? とか微塵も思わない。
「じゃー今日は昨日の続き、なんちゃって授業でーす。特にホワイトボードが必要か分からないからとりあえずテキトーな落ちゲーでもしながら」
ソシャゲをインストールして用意しておいた落ち物パズル、この系統流行っているのかな? 上手い下手があるのかイマイチ分からない構造だな。
[アザッス]
[大喜利やる?]
「オッス、勉強なんて気合は入れずのんびり観てけー。大喜利は……、なさそう。どこですりゃいいんだよ。英単語ひとつ貰ってボケるか?」
あ、イケるかも。
「英語から、まず始めに言っておくと俺は英語は全然ダメー。上から目線であーしろこーしろ言えないデス。でね、昔むかーし、何故ダメなのか考えて答えが出て絶望した。たっておかしいじゃん。今アメリカで生まれた赤ちゃんは三年もすれば自然に英語を喋るようになる。俺は三年勉強してもロクに喋れない。今は小学校から英語を習うらしいから大学まで含めると何年勉強するのやら。俺は、日本の子供は、アメリカの赤ちゃんにも劣るポンなのか? なわけないよね。教え方が間違っている、以外の答えはねーよ」
日本で英語教育が始まって一世紀近く経って結果が出てないのだからいい加減頭使えよ自称教育者ってハナシだねー。
「ではどこが間違っているのか。まずは冷静に世界中を観察してみよう。なんらかの障害があるとか家庭の問題とか
チャリ漕ぐまでに三年も必要ねーよな。
「ところがどこかの誰かが技術の問題を学問の問題にすり替えた。チャリンコ漕げればいいはずのことを、レーシングマシンの操縦の座学にしてしまった」
「言葉を喋るとはどういうことか? 自分や他人を観察すれば分かること。宇宙より果てしなく当たり前のことだけど、喋ってる時、頭の中ではその言語で考えているんだよ。つまり、頭の中で翻訳していない。ところが授業やテストは何してる? 次の文章を英訳せよ、あるいは和訳せよ。次の単語を英訳せよ、あるいは和訳せよ。一生翻訳させるから一生喋れなくて当たり前。これが具体的な間違いの答えだよ。英語の授業を受ければ受けるほど喋るのが難しくなる。答えを見つけて俺は英語を諦めた。翻訳アプリ先生の今後の作品に期待します」
ごく一握りの喋れる人は、頑張りすぎて同時翻訳者になれる超高等技術を手に入れたってことだね。レーシングマシンを操縦する座学についていけたガリ勉変態スゴ。
「次の歴史も見据えて面白い考察をしよう。奈良時代あたりまでの上流階級は三ヶ国語くらいはペラペラだった。日本語、朝鮮語、中国語。正確には中国は広いし朝鮮も三つに分かれていたから細かい違いはあるだろうけど、とりあえず三ヶ国語としておこう」
特に朝鮮は資料がなくて古代は謎だらけらしい。他国人が歴史に首を突っ込むとヒス起こすし。
「当時の日本人は今の日本人より優秀だったのか? ある意味そうだよ。外国語を正しい方法で学んでいたから三ヶ国語なんて常識といえるほど楽勝だった。例えばねー、蘇我馬子の娘は朝鮮人の家庭教師と不倫した、なんて記述が日本書紀にあるんだよねー。これが答え。英語を学びたければ日本語が分からない英語圏の人だけに頼れば一番楽で早い」
駅前留学が正解。自分が赤ちゃんになったつもりで赤ちゃんと同じことをすればそりゃ実際は赤ちゃんじゃないから三年も必要ないよな。日本語を喋る英語教師はゴメンね。残酷な答えだけど不要なんだわ。
「平安時代に入ると遣唐使を廃止して、中国と疎遠になった。中国語を教えてくれる外国人家庭教師がいなくなった。でも中国語の読み書きは重要だから、教わる場は必要になって、藤原一族的な有力グループ単位だったらしいけど学校を作った。そこで生まれたのが古語で習うレ点や読み下し文ってヤツ。意味分かる? 奈良時代までの日本人は中国語で考えて中国語を喋って読み書きできていたから、レ点や読み下し文なんてアッタマ悪い翻訳技術は必要なかった、てことだよ。日本における外国語教育の間違いは平安時代中期から始まった、というハナシです」
ちゃんと古語も取り入れる俺エライ。
「結論。例えば気に入った英語の映画を繰り返し観る。英語実況する配信を観る。分からなかったり気になる点は翻訳していいけどなるべく頼らないように、そして何より英語で考える意識を持っておくと上達は早いはず。俺と同じくテストで赤点じゃなきゃどうでもいーや、て場合はもう英語の授業も教師も無視すりゃいいさ。勉強は自分がしたくてするものであって、他人やテストのためにしてもすればするほど退化する。無理は下らない」
コイツらに給料渡すために俺の数百時間をドブに捨てたかと思うと脱力するね。
「じゃー歴史に行くか。まず歴史という学問の注意点から。学問って科学の領域、分かる分からないの二択で解き明かしていくモノだけど、歴史は半分宗教、信じる信じないの二択を迫るから気をつけて。例えば本能寺があったことは事実だし、焼けたか爆発して無くなったことも事実だけど、織田信長が死んだことは確認できてないし、本能寺の変の犯人が誰なのかも断定はできない。ましてや動機なんて心の話は誰にも分かるわけない。一から十まで分かることで説明する歴史なんてほぼないわけ。だから諸説ありを肝に命じておかないと、ひとつの説が正解と言い張る狂信者になる。一番分かりやすい例は領土問題に触れた時、反日感情に染まったどこぞの国民が横断幕を持ったデモのニュース。アレってもろ逝っちゃってる新興宗教の集団にしか見えないでしょ? 歴史が宗教に寄るとああなるから気をつけて。最近見ないけど歴史学者も狂信者だらけだから関わりたくないね」
聖徳太子を消そうとかガチなアレでしょコワ。
「だから俺の話す歴史も鼻で笑っていい。むしろ笑え。真顔で信じます言われるほうがイヤだわ。さて、まずは構造の解説。歴史の勉強ってさ、知らない他人のプロフを次から次へと暗記することなんだよね。そりゃストレスに決まってる。何が悲しくて限られた脳の容量の一部を知らないオッサンたちに圧迫されなきゃいかんのだ。憶えたそばからアンインストールしたくなる気持ちは分かる。歴史の授業時間も限られているから、教える側もプロフの内容を簡略するけど、教えたい事件が多すぎて結局詰め込もうとする。だから学校で教える歴史は破綻している」
歴史の教師だけはわりと同情する。一万時間欲しいのに百時間で片付けろってブラックな命令されてる状態だから。現代史は毎年増えていくしどうしろと?
「歴史を得意になりたいのなら、それが苦痛でないのならば、逆にプロフの中身を増やすといい。知らない他人だから憶えられない。友だちになってしまえば憶えようとしなくても憶えている。というわけで、以前ウケたし、確かキッズがいた時に話した和歌がらみの歴史をひとつ」
これ多分俺だけが気付いた歴史ミステリー、とっておきってヤツだ。
「和歌ってさ、実は予言扱いされてた側面もある。言霊って聞いたことはあるよね。スベる、落ちるって聞くと不機嫌になる受験生は未だにいることから分かるように、口にだした言葉が現実に起こるって信じている日本人はメッチャ多い。当然古代はもっと多い。歴代天皇が勅撰和歌集を作ったのは何のためか? 例えば神式の結婚式って縁起の良い言葉だけを使うって有名だよね。勅撰和歌集も同じなんだよ。イヤ、五百年で全二十一巻だったか、俺は全部知ってるわけではないから初期限定として、勅撰和歌集の中身は、完璧に平和な日本の一年を表現している。新年から始まって暮れで終わる、穏やかな四季の移ろいを雅に歌っている。事故も事件も疫病も戦争もない、理想の一年。国を背負う天皇にとって現実の一年は事故や事件や疫病や戦争だらけだから、あまりにもしんどいから全力で神頼みしてたんだよ。これが勅撰和歌集と書いて日本補完計画と読む話です」
さらに中の歌は全部連鎖しているとか知る人ぞ知るトリックがあるけど趣旨が違うからそのうち気が向いたら。
「天皇がそこまで頼る和歌のオカルトなチカラとは何なのか? 予言の歌として多分一番有名なのは西行法師のコレ」
誰も気にしないゲームをやめてお絵描きアプリ登場。
願はくば 花のもとにて 春死なむ その如月の 望月のころ
「本当にそのころに亡くなったから伝説になった。他にも平安時代だったか、歌会のあとで死者が出て、歌の中に妖怪の名が隠れていたから犯人はお前だっ、て
ここからはホワイトボードがないと無理。
「六四五年大化の改新。きっかけは豪族の蘇我入鹿が皇族の聖徳太子の息子一家を実質殺害して、自分が次の天皇になるかのような動きを見せたから、皇族の中大兄皇子は曽我一族を殲滅した。多分だけど、そもそも入鹿をそそのかしたのは中大兄皇子だね。次の天皇最有力候補、中大兄皇子のライバルは聖徳太子の息子だったから。まぁ細かいツッコミははしょるか。当時の人々は事情を察しているから、中大兄皇子としては、すぐに自分が即位するのはマッチポンプすぎて居心地が悪い。そこで母の弟、五十歳くらいの老人を即位させた。この人が孝徳天皇。この人も事情を察しているから三回断ったらしい。でも他の候補は出家してバックレたし、皇子は一族37564にしたチンピラだし、従うしかなかった。直後、皇子は妹を皇妃にしろと押し付けてきた。妹の名は
画面に登場人物を書き書き。歴史は人物関係がややこしいよなぁ。
「聖徳太子の父は即位してたった二年で崩御した。皇妃であり、太子の母の名は間人。意味分かった? 中大兄皇子は孝徳天皇に向かって、二年で4ねと呪ったんだよ。もちろんそんな呪いが効くわけない。当時は都をコロコロ変えていて、孝徳天皇の在位が八年になったころ、中大兄皇子は別の場所に都を造って妹も含めて主要人物全員連れて去った。孝徳天皇ひとりを残して。ここまでコケにされた天皇は他にいない。その後、一年も経たないうちに孝徳天皇は崩御した。まぁ憤死、自死だろうね。その前に中大兄皇子陣営に歌を贈ったのさ。とびっきりユーモアに溢れた邪悪な呪歌を」
金木つけ 我が飼う駒は 引き出せず 我が飼う駒を 人見つらむか
「直訳は、馬小屋に繋いだ私の馬は出てこない。誰か私の馬を見ましたか? こんな意味はどーでもいい。ポイントは、かなきつけ、彼名気付け、馬小屋から厩戸皇子と蘇我馬子、そして二度繰り返す駒。日本書紀にも駒一字で略される人物と言えば、さっき話した馬子の娘の不倫相手、新羅系帰化人の東漢直駒と書いて、やまとあやのあたいこま」
これ、鳥肌立つほど怖いから心の準備をしたほうがいーぞーククク。
「私が聖徳太子の父の用明天皇なら、次に即位するお前は駒に暗殺された崇峻天皇か、傑作。私は駒を持ってないが、あの世から駒を派遣してやるからよく見とけ。この歌を受けて中大兄皇子は次の即位を前例のない、既に即位して引退した母にさせた。用明天皇の次は崇峻天皇、次は用明天皇の実の姉の推古天皇。孝徳天皇の次は、実の姉の斉明天皇。崇峻のポジションをなかったことにしたんだねー。でも結局、中大兄皇子こと天智天皇は新羅系に暗殺されましたとさ。こういう歴史から、天皇は歌のチカラを信じたっぽいね」
雑談吸血鬼 丘上 @okaue2850
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