貴方に捧げる祈り
Eternal-Heart
貴方に平穏な日々が訪れるまで
何もしてあげれない無力感が、私の胸を裂く。
ジェイクが前線から基地に帰還した。
28日ぶり。
カレンダーの印を見るまでもない。
「アイ、元気だったか?」
屈託ない笑顔が、やつれている。
無精ひげ。
構っていられない状況に、置かれていた事が
薄い板を貼り付けた、簡易的な小屋。
私は基地で兵士を相手にする娼婦。
「ジェイク、大丈夫?」
シャツを脱がせ、体を
短く長く、浅く深く、体中の無数の傷。
刻まれた痛々しさ。
前線での出来事を語らずとも、凄惨さが伝わってくる。
人の人生は幾重にも交差し、決して交わる事はない。
一瞬の刹那が、触れるだけなのだ。
人には誰かに何かをしてあげる事など、出来ないのかも知れない。
この地に派兵された彼は、
大きなライトブラウンの瞳。
滑らかで瑞々しく、美しいとすら思えた。
屈託なく笑い、開け広げで大らかな彼に、魅了された。
唇を重ねる。
変わらず、柔らかく甘い。
その柔らかさの中へ、溶けてしまいそう。
私はそんな立場ではないのに。
彼はミシガン州の、五大湖の
林業と、湖の漁業しか産業はない。
凍てつく北部の田舎町の名前は、“ パラダイス ”。
皮肉めいている。
彼は三人兄弟の真ん中で、いつも家族の顔色を伺ってきた。
少年時代の思い出を覚えてない、と。
彼だけが、家族から冷遇されていたからだ。
その疎外感が、彼の独立心を後押しして、このベトナムの戦地に辿り着いた。
もっと、他の生き方が有ったはずなのに。
何故、こんな最悪の地へ。
彼の自立心や、人を頼らない責任感は、家族から疎外された傷によるものだ。
彼の上に乗り、繋がる。
わずかな安息の時間に、何を提供出来るのか。
私には、この痩せた体しかない。
腰を振り、彼の快楽を満たす事に集中する。
「アイ、そんなに激しく動いたら疲れちまうぜ」
それでも止められなかった。
“ アイ” はベトナム語で、平穏を意味する。
アメリカ兵とベトナム娼婦という立場に、愛などあるのだろうか。
再会までの、28日間。
彼の無事を、夜空に祈るしか出来なかった。
彼を救う力などない、無力な自分に、さい悩まされ続けた。
私は自分に与えられた日々に、忙殺された。
唇を重ね
肌を触れ合わせ
繋がる身体を通して
私の祈りを捧げ、注ぐ事しか出来ない。
視界が滲み、ジェイクの胸に涙が落ちた。
それが今の私に出来る事なら、全てを捧げたい。
お願い 神様
たとえ二度と、彼と会えなくなっても
彼が平穏で、安息な日々に辿り着くなら
彼が安らかな時間に満たされるなら
私という、ちっぽけな存在の全てを捧げます
願いが叶う日まで ___
MOTHER / LUNA SEA
貴方に捧げる祈り Eternal-Heart @Eternal-Heart
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