Episode004 『うちゅうじん』の正体、『ちきゅうじん』の提案

晩御飯を終え、片付けを3人で一緒に終わらせ、俺はさっさと部屋に戻った。

部屋に戻ると、興味深そうな顔をしたサリアが。


「……おい、何してんだよコレ……」


……俺の部屋の0から90くらいまでを、ひっくり返してしまっていた。

どうやら、見た目は地球人と同じ感じでも、どこか地球の人間らしくない一面も持ち合わせていたようだ。

いや、好きな人にされた迷惑ってのは、そう大して迷惑に思わないつもりでいた俺なのだが、今回の散らかし様はひどかった。

正直、ここまで部屋が散らかったのは、小学生低学年のとき以来かもしれない。

それはそれとして、俺はベッド近くに転がされたものたちをどけ、何とか足を下すスペースを作ると、ベッドに腰掛けるように誘導した。

サリアは嬉しそうに隣に腰掛け。


……俺の肩にもたれかかってきたのである。


「……あのーすいません、それやられると、ちょっと男として色々と疼いちゃいそうな気がするので、ご自身の身の為にやめていただいても……」

「えー? ダメなの? ……まあ仕方ないか、わたしはその辺のこと、そんなによく分かんないし」


俺が赤い顔を俯かせながらにそう言うと、意外とあっさりと彼女はもたれかかるのを辞めてくれた。

あのままだと、俺の心臓がもたなかったかもしれない。

そんなことはともかく、俺は自己紹介から始めることにした。


「俺は宇地間 愛枢人うちま あすと。この世界で16年の歳月を過ごしてきた、今はまだ働かずに学業に勤しんでるだけの男だ」

「おー、ご丁寧な自己紹介、ありがと♪」


俺が自己紹介を終えると、サリアはそう返してきた。

どうも、彼女の言葉の最後には、音符が付いているようなイメージがある。

いや、実際に本人にその意図があるのかどうかは俺も全く分からないが。

そんなことを考えていると、改めて、サリアから自己紹介が行われる。


「わたしからも改めて。……わたしはサリア。この星にやってきた、とある惑星のとある国の王女様になる予定だった女の子!」


……とそこで、俺の全身は冷や汗で包まれた。

その理由は、言うまでもない……というほどわかりやすいものでもないが、俺からしてみれば、この状況では、この1つの不安事が浮かんでしまう。

そこで俺は、自分を落ち着ける為、質問をする。


「……え、あの、さっき、王族って言いませんでした?」

「え? うん、そうなのよ! わたし、ホントは王女様で、王位継承の直前に逃げてきちゃったの! てへっ☆」

「……マジですか」

「ええ、大マジよ♪」


そして俺は、大いに絶望した。

だってそれは、俺が今しているこの行動が、『王族の娘を監禁している男』の絵面になってしまっているとうことなんだから。

俺だって、まだ――そう、『まだ』なだけなのだが――犯罪者扱いされているワケじゃないんだから、別に危惧することはないはずだ。

でも、『王族の娘』であるサリアが『監禁』されている――と見える出来事――は、彼女の出身国の者たちからしてみれば、間違いなく由々しき事態と呼べるだろう。

つまり、その国が全勢力を以てして、俺からサリアを奪い返そうとしてきたら、それは当然のことだと言える。

俺はそんな圧倒的な戦力差を前にして、何ができるというのか。

できることとしては、ささやかな抵抗が精々だろう。


「……なあ、それって単純に、俺の立場はマズくないか? 普通に死刑案件じゃないのかそれ?」


俺が恐れるようにして訊いてみると、彼女は意外にも明るそうな顔をして、親指を立てながら言ってきた。


「だーいじょ~ぶ! わたしが何とか解説して、あなたの死刑だけは逃れさせてあげるから!」


そんなことを言ってきたが、俺はそんなことで落ち着けるほどの精神を持ち合わせていない。

というか、そんな流れで、宇宙人たちが俺を襲撃しに来たことによって、この世界に本当に宇宙人がいるということが公表されることになったら、宇宙人を研究しているような人たちは、どう思うんだろうか……。

それ以前に、この問題は、俺たち……俺だけで解決させるべきなんじゃないかと思わないワケではない。

だって、本当に世界がこのことを知ったとして、宇宙人が地球人を――たとえそれが俺みたいな一般人でしかないにしても――殺そうとしていると聞けば、何かしら首を突っ込んでこないことはないはずだからだ。

それに、その展開を迎えてしまえば、俺はサリアと二度と会えなくなるだろう。

……まあ、どうであれ、宇宙人たちが、目立つような行動さえしてこなければ、そんな心配をする必要はないのだ。

襲いに来るなら仕方ないと思わなくもないが、せめてこっそりと来て、さっさと俺を殺して帰ってほしいものである。

俺が殺されないのが何よりだが、もうこの際、サリアを幸せにできないのなら、俺に生きている意味はないだろう。

それは俺の勝手な想いなのだから、胸に秘めておく必要はあるが。

とりあえず、俺は小さく溜め息を吐き、言うべきだと思ったことを言うことにした。

少なくとも、俺がこれからも生きていく為に。


「……今聞いた感じだと、俺の刑罰みたいなモンは、サリアの言い分で変わらなくはないんだよな?」


俺がそう訊くと、サリアは納得したような、驚いたような顔をした。

どうやら、そういうところまでは眼中になかったらしい。

そして、彼女の口が開く。


「うん、そのはずだけど? 爺やたちがどの辺まで許してくれるか次第、だけどね」


……どうやら、俺の命運は、彼女の執事にかかることになったらしい。

俺としては不安だが、サリアとどのくらいの距離感か、ってところに依存してくることになりそうなのは間違いないな。

そこで俺は、こんな提案をする。


「そういうことなら、俺にとっても、君にとっても、絶対に悪くない提案をしよう。まず、俺の立場としては、『どこかから迷い込んできてしまった宇宙人を保護した人』ってだけってことにするんだ」


次回 Episode005 『うちゅうじん』の故郷の話

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ちきゅうじんの男の子が、うちゅうじんのお姫様を幸せにするラブコメ。~こんな青春も悪くはないだろう~ ブサカワ商事 @busakawashouji

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