空白の意味
刻堂元記
空白とは何か
空白とは何か。この文章を読む時、貴方は既にひとつの例を思い浮かべている。本文における始めの空白、つまりスペースだ。勿論、この評論の最初にも、当たり前であるかのように1マスのスペースが設けられている。誰に従ったわけでも、あるいは強制されたわけでもない。だが何にせよ、空白の存在を認めている。これは否定しようがない確固たる事実と言えるだろう。
しかし、誰もが空白の必要性を知っているわけではない。映画を倍速で視聴する者、即座に返答する者、文章を隙間なく詰め込む者。それら全てにおいて、空白は本来果たすべき目的を果たせず、機能不全に陥っているのだ。
とはいえ、空白が無くとも、その者自身の目的は容易に達成される。それは速く終わらせる、時短と呼ばれる行為。確かに、現代人にとっては便利かもしれない。限られた時間の中、効率的に物事を終わらせる。多忙な人々にとっては不可欠な、生きる為の必須スキルだ。
ただここで、少し考えて欲しい。時短によって、思考のスキップによって失われた代償は何だろうと。対する答え方には個人差がある。では私の場合、何を挙げるのか。端的に表現するなら魅力。この一言に尽きるだろう。
かと言って、すぐに納得できない者もいる。その際、魅力の減少が、空白の不全によって起きるという結論を理解してもらうために、映画やビジネスなどで多用される緊張感ある会話を例に取ると、分かりやすい。例えばこんな感じに。
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A:「お前、最近変わったな」
B:「まあな。急にお洒落したくなったつーか、そんなとこ」
A:「ふーん。にしては随分身なりが豪華じゃねぇか」
B:「そう思うだろ?結構高かったんだぜ」
A:「幾らだよ?」
B:「大体、1千万くらい」
A:「……。なあ、一応聞くけどよ」
B:「なんだ?」
A:「お前の職業、バレたら捕まるような犯罪系じゃないよな……?」
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さて、上記の会話を簡単にまとめれば、豪華な服装を理由に、Bの職業を疑うAという2人の会話となる。さて、緊張感高まる会話と言えそうなこのシーン。どこに、空白があっただろうか。ない?確かにスペースはない。しかし、目に見える空白はなくとも、緊張感の高まる瞬間が存在する。つまり沈黙の時だ。今回の場合、それは2か所存在する。前置きの前、質問の後。これらにおいて、僅かに発生する会話の間が、空白として働いて、より魅力のある物語の形成に繋がる。
ではもし、この空白が無かったら?先ほどの会話から、空白を無くしたものを例に会話文を読んで欲しい。
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A:「お前、最近変わったな」
B:「まあな。急にお洒落したくなったつーか、そんなとこ」
A:「ふーん。にしては随分身なりが豪華じゃねぇか」
B:「そう思うだろ?結構高かったんだぜ」
A:「幾らだよ?」
B:「大体、1千万くらい」
A:「なあ、一応聞くけどよ」
B:「なんだ?」
A:「お前の職業、バレたら捕まるような犯罪系じゃないよな?」
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悪くはない。決して悪くはないのだが、空白がある場合と比べて幾分、会話内で流れる雰囲気が軽くなっていないだろうか。シリアスな要素が無くなっている。その受け取り方は気のせいではない。会話における空白が消えたことで、深刻さが感じられないのが理由だろう。ただ、空白が無いことによる弊害は、創作物や、現実世界の中での会話だけに留まらない。
映画の倍速視聴にも同様に、空白無しの悪い側面が表れている。それは、映画という娯楽の魅力値や、評価値の低下はもちろんのこと、思考のスキップというデメリットも発生してしまう。それの何が悪いのか。思考という大事な部分を省略することで、ストーリーの根幹である世界観に没入できなくなり、本来よりも悪い評価を点数として、映画に与えることになるのだ。
また、創作物の中のひとつ。小説では、文章を改行無しに長々と詰め込む者が幾人もいる。これも空白を無視した行為と呼べる。とはいえ、空白を考慮しない小説は、多くの場面で読者に負担をかけていることを意識しなければならない。つまりは読みづらさはストレスと言ってもいい。そこで聞くが、空白を設けず、改行をしないことに時短以外の明確な理由があるのだろうか。延々と続く文章が、ギミックやテーマになっていない限りは、見直した方が良いかもしれない。
まとめれば、空白とは人を魅了するための適解であり、それを無くすと途端に思考のスキップ、あるいは思考の過重負担という問題が襲い掛かってしまう。この原因は相手にあるケースも、自分にあるケースもある。魅力の最大化という本来達成されるべき目標を果たすためにも、空白を無視しないという努力を怠ってはならないと私は思うのである。
空白の意味 刻堂元記 @wolfstandard
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