焼け落ちた幸せの中で
えんぺら
焼け落ちた幸せの中で
ここはエルフの住む土地、美しい森が近くにある村だった。
この村に一人の少女がいた。
まあエルフの年齢的には少女なのだから少女ということにしてほしい。
そんなこのお話の主人公である金髪の少女は村にある広場で体を伸ばしながら、毎日のようにやってくる人間に対して文句を言う。
「ん~さて今日も人間たちはこの村の聖樹の枝を取りに来るのかしら。まったく懲りないものね。」
「まあしょうがないですよ。あの枝は良質な武器の素材になるわけで、トレジャーハンターさんたちが狙いに来るのは仕方がないです。もっとも渡す気はありませんけど。」
金髪の少女が口に出した不満を隣にいた銀髪の少女が拾い、そして宥める。
この二人は、聖樹の枝をトレジャーハンターから守る仕事を与えられていた。
「そろそろ出発しないと私たちの担当する時間に間に合いません。行きましょうリラ。」
「それもそうね、さあ今日も頑張りましょうかレティシア。」
そう言葉を交わした腰に木刀を装備した金髪エルフと背中に弓を背負った銀髪エルフが並んで歩き出す。
彼女たちが守っている聖樹は村から少し離れた小高い丘の上にある。
この聖樹はこの村のエルフにとって特別なものであり、聖樹の守り手となるエルフにはこの聖樹の枝を素材とした武器が与えられる。
聖樹の守り手であるリラとレティシアの持つ武器も当然、聖樹から作られた武器である。
二人はいつもの道を歩き、いつもどおりの時間に聖樹のもとへたどり着く。
「お疲れ様ですアレン、交代の時間です。」
レティシアが聖樹の木陰で座って休んでいる人物へと話しかけると返事があった。
「ああ、もうそんな時間か。おはようレティシア、リラ。」
「いやアレン、あなたいつもどおり容赦ないわね。その辺に転がってるトレジャーハンターほぼ裸じゃない。」
リラはやれやれと手でジェスチャーをしながらそこら辺に打ち倒されて転がっている人たちを見つつ呆れたようにアレンへと話しかけるがアレンにはまったく効いていなかった。
「だって身ぐるみ剥がせば、それが売れるだろ?」
「まあそれはそうだけど…」
それが当たり前だろ?見たいな態度で返してくるアレンに納得がいかないのかリラが反論しようとしているとレティシアが割って入ってくる。
「リラ、そんなこと言っても戦いを挑んできたのはこちらの方々ですよ。なにより最低限の衣服と大事にしてそうなものは取っていません。」
しかもそれはアレンの意見同意するものだった、レティシアの言葉を聞きガクッと肩を落としてちょっぴり悲しくなったリラはそれから顔をブンブンと振って気持ちを切り換えると二人の意見に同意する。
「ああもうわかったわよ!そうよね、普通に武器とか取らないとすぐ挑んでくるし、仕方ないわよね。」
でもちょっとだけまだ不満だったのか、その言い方は拗ねた子供みたいだった。
「あははっあいかわらず優しいなリラは!」
「いや、笑うんじゃないわよ!」
そんな子供っぽいリラを見て楽しそうに大きな声で笑うアレンに自分でも少し自覚があったのか顔を赤くして文句を言うリラ。
「ふふっちょっと恥ずかしくなっちゃって赤くなってるリラかわいいですよ。」
そして赤くなっているリラがかわいくて手で口元を押さえながらクスクスと笑うレティシア。
「ちょっとレティシア!あなたまで!うー納得いかない!」
レティシアに笑われたのがちょとショックなリアは涙目になりながらポコポコとレティシアを叩く。
「ふふっごめんなさいつい!」
「はあまったく…つい!じゃないわよ!」
そんなリアを見て楽しそうに笑顔を浮かべているレティシアとアレン、この幸せな光景はこの村の日常だった。
そうこのときまでは。
現在、村は炎に包まれ、炎で形作られた異形の化け物が村人を襲っている。
丘の上からでもわかった、圧倒的な悪意と暴力が自分たちの村は終わるのだと告げていることが。
そしてこの圧倒的な悪意と暴力を引き起こした元凶は現在リラ、レティシア、アレンの三人の目の前に立っていた。
三人を見つめながら、その元凶は顎に手を当て少し考えるような素振りを見せたあと口を開く。
「さてこの絶望的な状況でも抗う意思は捨てませんか……ふむ、決めましたそこのお嬢さん二人には僕の描く物語の主人公となっていただくことにします。なのでそこの脇役には主人公の糧となってもらいましょう。」
その瞬間元凶は、とてつもない速度で油断なく構えていたアレンの胸ぐらをつかんだまま聖樹の幹に叩きつけた。
「ぐはっ」
「「アレン!」」
「にっ…げろ、お前らだけでも…こいつの目的は俺だ…」
「良いですね、俺が食い止めるからお前らは先に行け…ですか。僕が好きな展開だ。」
「嫌よアレン!私たちで戦え…レティシア…」
アレンに対して食い下がろうとするリアの言葉をレティシアが肩をつかんで止め、それからリアが自分のほうへと目線を向けたのを確認すると首を横にふり冷静な口調で言う。
「いいえダメよ。リラ、私たちでは勝てないわ。動きでわかるこの男は今ここで全員殺せるのよ。」
「そうですね、そこのお嬢さんの言う通り僕はここにいる全員を今すぐにでもそうできる。でもそうしないなぜなら君たち二人が僕の物語の主人公に選ばれたからです。なら君たちの行動は言わなくてもわかりますよね。」
レティシアの言葉にその男は淡々とした口調で反応する、その言葉が変わらない現実であるとでも言うかのように。
「くっ…」
リラは唇を噛み、苦虫を噛み潰したような表情を見せたあとうつむく、レティシアは静かに強く強く拳を握りしめる。
そんな二人の様子を見た、アレンは笑顔を浮かべると最初は安心させるような優しい口調で、最後は勇気づけるように力強く自分の願いを伝える。
「そういうわけだ。だから二人は生きてくれ、俺もただで死ぬ気はない。だから行け!」
「うん!わかった!ありがとうアレン!」
リラはアレンの言葉に返事をすると涙を流しながら無理やり笑顔を作り、レティシアは静かに涙を流す。
それから二人はアレンに背を向け走り出す。
「それで良い…リラ、レティシア今まで楽しかったありがとう。」
アレンは二人の背を見送りながら二人に聞こえていないとわかりつつもそう口にする。
「良い物語ですね。」
「お前にだけは言われたくない!」
アレンはふざけたことを言ってくる元凶に対していきなり腰から木製の短剣を引き抜き、横に振り抜く。
「おおっと!」
不意打ちが成功したのかはわからないが男は大きく回避してくれる、そのおかげで掴まれていた胸ぐらから手が離れ、アレンの拘束が解ける。
アレンは素早く立ち上がると聖樹の幹に左手を置き不敵に笑い、聖樹に呼び掛けるように唱える。
「俺はここから足掻かせてもらう。『聖樹の檻』!」
すると聖樹の根が地面を突き破り瞬く間にドーム状の木の根の監獄を作り出す。
「なるほどおもしろいですね、聖樹の守り手はそんなこともできるんですか。」
「と言ってもこの力をもってしてもたぶんお前には勝てない、だから切り札を切ることにした。『制限解除』つまりは道連れだ!」
男が関心したように言った言葉をアレンは無視して素早く幹に指を滑らせると聖樹がうっすらと光り出す。
「困りました。それはまずい。」
それを見た男は初めて少し焦ったように呟き地面を蹴る。次の瞬間アレンの左腕は引きちぎられていた。
「ははっいやもう遅い…俺の勝ちだ!くたばれ化け物!」
逃げられない牢獄の中でアレンは勝ち誇ったように笑い、男は冷や汗をかく。
聖樹の光が強くなり、二人を包み込んでいく。
その日、丘から大声で泣きながら逃げるリラとレティシアは見た、丘の上から天に向かって貫くように伸びた美しくも残酷な光の柱を。
焼け落ちた幸せの中で えんぺら @Ennpera
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