キャンプ場元バイト 小河原宏輝①

 我妻さん、来てくださってありがとうございます。小河原宏輝おがわらこうきです。お会いできて光栄です。実は友人がホラースターの読者で、キャンプ場の特集をやってると言われてご連絡させて頂きました。


 この後も何か取材とかあるんですか?休暇…ジャーナリストって取材とかで大変そうですよね。僕は大学生なので我妻さんとは違ってのんびりキャンパスライフを送っています。有り難く内定先も決まっているので余計です。


 それで、●●●メールのキャンプ場の情報提供の件なのですが、仮名を使って頂くことって出来ますか?あっ、こういう雑誌って仮名なんですね。良かったです。


 で…どこから話せば良いですかね? バイトに応募してからの流れで大丈夫ですか? じゃあ、そこからお話しします。


 僕が、●●●キャンプ場の求人を見たのは2021年の春頃、19歳の時でした。前のアルバイト先がキャンプ場から程近いコンビニだったのですが、客入りがとても少なくて閉店する事になってしまって。


 そこでサイトにキャンプ場の求人があった為家からも通いやすい為、すぐに応募しました。求人情報をよく見ないまま、近場という理由で応募した故、給与が事細かく記載されてないことに応募した後に気づきました。


 生活に必要なものは全て支給…って、あまりにも大雑把というか、普通は具体的な時給などを書くものですよね? おかしいなと思いました。


 あと、持ち物です。お菓子、飲み物、果物、絵本、ぬいぐるみ…まるで遠足の幼稚園児の持ち物じゃないですか。こんな物はキャンプ場にもありそうな気がするのにどうして持っていくんだろう…と。まあ後から分かります。



 募集内容と応募資格にも不自然な点がいくつかありました。コレなんですけどね。


 ● 夜間の巡回や、不思議な物や音がしないかの確認が主な業務です

 ● 過去の経験は問いませんが、他者に過剰に干渉しない方を優遇します。

 ◯男性


 夜間の巡回なら100歩譲って理解できます。焚き火の火が残ってたら危ないですから。だけど不思議な物や音がしないか確認って…まあ、あり得ることなのでしょうが、給与と持ち物の記載を見てしまっては怪しむ他ありません。


 他者に過剰かじょうに干渉しない方っていうのも、書き方としてどうなのか、とは思いました。ここまでして書くのは、深掘りされたくない理由でもあるんじゃないかと変に勘繰かんぐってしまいます。


 応募資格の男性もそうですね。今の、男女平等な時代に男性だけ求めてるっていうのは、何でだろう、と思いました。夜の見回りもやるっていう点では女性は危ないですけどね。


 強調する必要はないのではないか、と思います。仮に女性が応募してきても面接に来て落とせば良いのですから。これは僕が効率悪いですかね? でもそれだけ男性のみが良いのは理由があったからなんじゃないかなって。


 こんなことを思っても応募してしまったものは仕方ない。面接受けてみて辞退するか決めよう、そう思いました。


 求人応募したら30分ほどで返事が来ました。時間が合えば、明日でも面接しませんか?と。余程人手が足りないのかなと思って取り敢えず面接する事にしました。


 ●●●キャンプ場、時間帯が夕方なのもあってか空の色も薄暗く、雰囲気も同様でした。あんまり鳥肌とか立たないタイプなのですが、足を踏み入れた瞬間、空気が変わったような寒気がおそいました。入りたくないな、とまで思うくらいです。


 その時、面接をして下さる齋藤さんが、こちらまで歩いて来てくださって、木造りのコテージの中で面接を受ける事になりました。


 斉藤さんは僕に幾つかの質問をして来ました。1つ目は霊感はあるか、2つ目は同居家族の構成、3つ目はその家族の年齢、4つ目はこのキャンプ場に来た事があるか、5つ目はこのキャンプ場で起きた事件を知っているか。


 普通のバイトじゃなかなか聞かれない質問をされたのでとても気味が悪くて…でもちゃんと答えました。1つ目は霊感はない、2つ目は父と母と僕の3人家族、3つ目は父が50歳母が45歳僕は19歳、4つ目は来た事はない、5つ目

 はそういうニュースには疎いので知らないですと。


 そしたら齋藤さんは顔を緩ませて、じゃ、合格ですので明日から来て下さいって。●●●キャンプ場来た事ないのに良いんですか?って言ったらむしろそれが良いって…変わった人ですし、おかしいですよね。


 僕に質問の時間も設けてくださったので心配だった給与の件と持ち物の件も聞きました。


 時給はスタートが3000円、続けていくと年単位で時給が増えていくシステムでした。時給3000円ですよ、あまりにも破格だと思いませんか?キャンプ場で受付して見回りするだけです。


 あと、持ち物ですね。お菓子、飲み物、果物、絵本、ぬいぐるみはどのような用途で使うのかと。そしたら各場所に置くところがあるから置くんだ、って言われてお供物みたいでなんだか気持ち悪いなと思いました。


 ここまで思ったのなら、断るべきでしたよね。でも時給3000円はおかしいと思っていてもあまりに魅力的な金額でした。奨学金でやり取りしてる僕にはあまりにも理想でしたから。そこで承諾をしたんです、やらせて頂きますって。


 そこで、次の日から僕は荷物を抱えてキャンプ場に滞在たいざいをしながらバイトをして、学校に向かうという生活をしました。持って来た持ち物も最初の3日くらいは使わなかったので、大丈夫かなと思いつつ特に変わった現象もなく過ごしました。状況が変わったのは4日目からでした。


 齋藤さんから持って来たお菓子類などの指定された持ち物をある場所においてほしいと、そこが焚き火をする所にほど近い森林の前です。そこへ近づくにつれてあの時に感じた寒気と、ほほを突き刺す、凍るような風が吹きつけて何だか気分が悪くなってしまいました。


 置き場所に指定された森林に着くと、前方5メートル斜め右辺りにも同じようなお菓子類などが置いてありました。やっぱりお供物という解釈は当たっているのではないか、そう思いました。いつまでもここにいると引っ張られそうな気がして、置いたらすぐ走って齋藤さんの元へ戻りました。


 齋藤さんの所に戻った時、ある言葉を掛けられたんです。小さい女の子は居なかったか?って、そんな子供はどこにもいなかったので居ませんでしたと答えたら、また齋藤さんは頬が緩みました。


 もしかしたら、お供物はその小さい女の子の為なのではないか、と思ったんです。詳しく聞きたい気持ちはあったのですが、他人に干渉するなと書いてあったので、辞めました。こんな高時給のバイトは中々ないですからクビ宣告されたらおしまいです。


 まあ、そんなこんなでそれ以外は特に何もなくのんびりとバイトをしながら大学に行きを繰り返し、半年が過ぎた頃です。受付をして、夜中の見回りをして、慣れて来た頃、同じ時期に入った2つ上の中星なかほしさんっていう男性の方が居たんですけど、突然退職してしまって。その前から度々、僕は中星さんから言われてた事があって。


 お前、あそこの森林で泣き声聞こえなかったか?とか、ここで働き始めてから、急に彼女の体調が悪くなったとか、彼女に電話口でそのバイトは辞めた方が良いって泣いて縋られたとか、あまり良くない話だったんです。


 僕にはそういう現象も起きてなかったので、大変ですねと同調だけしたのですが、急に欠勤してしまって…本当にあの時は困りました。齋藤さんに聞いたら驚く事に辞めろと言ったのは僕だと言い出して…放心状態ですよ。


 どういう事ですか?って聞いても干渉はしないって約束だよね、と話を逸らされてしまって悶々としたままその後も働きました。齋藤さんと二人で。そして働き始めて10ヶ月が経った頃、僕はある衝撃的な事実を目にしたんです。


 我妻さんも勿論、ご存知かと思いますが、キャンプ場で2010年に起きた橋本光湖ちゃんの事件と2018年に起きた佐藤夕貴さんの自殺事件です。今更、面接時に聞かれた事件を知ってますか?って言葉が気になって調べてしまったんです。


 持ち物にぬいぐるみやお菓子が入っていたのも、それを森林に置いた理由も安易に想像できますよね?それを知ってからというもの、夜の見回りで森林で女の子の泣き声が聞こえるようになったり、グググという鈍い音も聞こえるようになりました。


 時刻は深夜です。小さい女の子が、いるはずないですよね? 中星さんが言っていたのはこれだったのか、とようやく符合しました。あともう一つ、齋藤さんの事です。前々から深入りして欲しくないほど隠したい事があるのではないかと思っていましたが…そうですね…んー…僕が口にするのも良くない気がします。と言うよりかは口にしたくないです。


 そんなこんなで退職する事になりました。自分からです。齋藤さんに関してはお話ししたくなったらお話しします。


 中星さんの連絡先ですか? 退職してから連絡がつかなくて分からないんです。すみません、ロクに話せず、思い切りがない人間で。またお会いしましょう。お時間作って頂いてありがとうございました。


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