20XX.12.17 ずっとずっと、死んでるみたいに生きてた。
——クリスマス、楽しみね。
ろくに物心もついてないようなちっちゃいころから、あたしの中にはその想いが強く強く刻み込まれてた。
だけどそれを口に出すたび、大人たちから眉をひそめられた。
『クリスマスなんて。贅沢言う子には『家族』が見つからないよ』
区切られた、小さな世界。あたしと同じような子供たちがたくさん暮らしてた。
人工子宮で育てられて、生まれた時から集団生活。ある程度まで成長したら、『家族』っていう小集団の中に組み込まれてく。
別に珍しいことじゃない。底の見えない少子化に歯止めをかけるための仕組み。
二十二世紀では、それが世の普通だった。
あたしも何回か『家族』を経験した。
でも結局馴染めずに、返品された。
『妄想癖がひどい。口を開けば夢物語のようなことばかり。現実に適応できない子供はいらないよ』
そう、あたしはいらない子だったんだ。
大きな丸いクリスマスケーキなんて食べたこともない。夢のまた夢だった。
でも別に、そんなのどうだって良かった。あたしの欲しいものはそこにはないって、分かってたから。
空はどこもかしこもドームで覆われて、偽物ののっぺりした晴天ばっかり映し出してて。
あたし自身ものっぺり晴天みたいな顔でいることを良しとされて。
右のこめかみに埋め込まれたちっちゃなチップは、脳波で直接ネットにつながる代わりに絶えずあたしを監視してて。
生活はあらゆるものがオート化されてて、何をするにもひどく簡単で、そのくせとっても退屈で。
ずっとずっと、死んでるみたいに生きてた。
決まった『家族』ができなかったことは、却って良かったかもしれない。あたしは『売れ残り』としていい具合に見放してもらえたから。
適当にはみ出しっ子をやりながら、自由を手にするチャンスを虎視眈々と狙ってたんだ。
ある時、街と街をつなぐチューブラインに乗って隣のドームまで行ってみた。
だけど、そこだって似たようなものだった。
——クリスマス、楽しみね。
あたしの記憶の中にある、知らない記憶。
ずっと自由で、ずっと穏やかで、ずっと誰かに愛されてた。
いい匂いがして、おいしいものがあって、あったかかった。
何もかもきらきらして、色鮮やかで、泣きたくなるほど愛おしかった。
それが本当のあたしの居場所なんだと思った。
そこへ行くにはどうしたらいいのか、方法を探した。
そうしてあたし、
うっすらと目を開ける。アイボリー色した天井が見える。
カーテンの隙間から覗くのは、相変わらずのどんより曇り空。昨日と違って、雨が降りそう。
右手の人差し指を、つきんつきんとかすかに痛むこめかみに当てる。
この痛みはリマインダーで、毎日ちゃんと時空ネットにつないで健康状態とかを送信することになってる。忘れると結構強めにお知らせが来る。こないだのエンドウさん事件の時みたいに。
モニターでここに来させてもらってるから、決まりは守らないと。
「よしっ、今日の定期通信も完了っと」
——クリスマス、楽しみね。
クリスマスまであと少し。
モニター期間は現地時間で三ヶ月。十分余裕がある。モニター終了後、延長申請を出すつもりでいる。
時代を遡ってきたから、できることとできないこと、もちろんいろいろ制約はあるけど。
あたし、やるべきことがある。クリスマスを楽しみにしていた、彼女の代わりに。
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