20XX.12.13 ねぇ、世界は綺麗だよ。こんなに綺麗だったんだよ。
今日は土砂降り。バケツを引っくり返したような雨の中、歩いてスーパーへと向かう。
空はびっくりするくらい、どんより暗い。まだまだぜんぜん昼間なのに。
やっぱりこの世の終わりってこんな感じなのかも、なんて無責任に思った。
傘の上から叩きつける雨の音がうるさい。飛び散った水しぶきでフェイスシールドが濡れるから、時々拭わないといけない。ワイパー要るでしょ、これ。
あたしにとっては新鮮な体験だけど、かと言って好きかと言われるとそうでもない。
防塵スーツも重い感じだし、さすがにちょっと寒いから、宇宙飛行士って感じじゃないし。
仕方なくあたしは、海底散歩の人のふりをすることにした。
いつもの街並み。見慣れてきた街並み。
……というより、記憶のどこかを掠める街並み。
今日はそれをぜーんぶ海に沈めて、海底商店街を抜け、海底ステーションを行き過ぎて、海底スーパーに到着する。
ずぶ濡れすぎる防塵スーツの水滴はいったん落としてから、お店に入る。さすがにお客さんは少ないみたい。
いつもの宇宙遊泳じゃなくって、海の中をシュノーケリングするイメージで。ちょうどフェイスシールドはゴーグル代わりだ。
クリスマスの装飾は独り占め。魚介売り場じゃ、鯛やヒラメが舞い踊る。いやどんな世界観よ。
マスターに頼まれたものをカゴに放り込みながら、クリスマスケーキのチラシを横目にする。
いいなぁ、大きい丸いケーキ。いつか食べてみたい。
あ、そうだ。クリスマスに合わせて、お客さんにお菓子とか配ったらどうだろう。結構いいアイデアだと思うんだけど。
——クリスマス、楽しみね。
きらきら、ふわふわ、広い店内を泳いで泳いで、楽しい気持ちを育ててく。
目の前には旧式のレジ。まるで逆浦島太郎だ。電子マネーのカードをピッてするのも、もうずいぶん慣れたけど。
スーパーを出ると、雨は嘘みたいに上がってた。どんより雲もすっかり薄くなってる。雨になって降り尽くしちゃったのかも。
そのわずかな雲の切れ間から、珍しくぱぁっと太陽の光が差し込んでて。
「あ……!」
思わず声が出た。
空気中の塵芥がきらきら光を弾く、その先で。淡く空を覆う雲の上に。今にも儚く
「うそ……すご……」
ほうっと吐き出したため息でシールドの内側が曇って、滲んでく。じわじわ滲んで、濡れてしまう。
ねぇ、世界は綺麗だよ。
こんなに綺麗だったんだよ。
一つ瞬きするうちに、虹はどこかに消えてしまったけど。
あたしはそのまま、しばらく空を見上げ続けてた。
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