20XX.12.5 未知の惑星に降り立った宇宙飛行士みたいな気分になってくるから。

 今日は買い出しの日。

 あたしは上から下まですっぽり防塵スーツの完全防備スタイルで、『純喫茶アポロ』からスーパーへと向かう。

 せっかくの商店街でも、マトモに買い物できるお店は少ない。昔は賑わってたのかと思うとちょっと寂しいけど、実はけっこう気に入ってるんだ、この風景。

 未知の惑星に降り立った宇宙飛行士みたいな気分になってくるから。


 商店街を抜けて、駅前ロータリーを突っ切る。

 徒歩の人はほとんどいないけど、車通りはそこそこだ。個室ごと移動できる自家用車の方が便利なんだろうなって思う。

 勤め人も、自分ちでリモートワークってパターンが多いみたい。

 救急車が大通りを走ってくのを見送る。医療機関はパンク中だって、ネットニュースで見た。


 顔を上げれば相変わらずの曇り空。だけど今日は割と雲が薄い。太陽の光が透けてくるくらいに。

 こんな日は、空気中の塵がキラキラして見える。

 たったそれだけのことでも、心がうきうきする。本当はすっきり晴れた青空も見てみたかったけど。


 スーパーに入れば、さすがにちらほらお客さんがいる。みんな防塵スーツ着用のままだから、まるで星々の間を遊泳する宇宙飛行士たちみたいだ。

 店内はちゃんとクリスマスっぽく飾りつけされてて、わくわく楽しい気分になる。あたしの背丈くらいのツリーには、色とりどりのオーナメントが所狭しとぶら下がってる。

 フェイスシールド越しのクリスマスは、よくできた幻影みたいでかわいくって、ちょっと切ない。


 買い物かご片手に、マスターから頼まれたものを選んで回る。

 生鮮食品は品薄だし、全体的に高い。塵芥毒の影響の少ない場所で採れたものは輸送費用がかかるし、倉庫の中で育てられるものは電力が要る。エネルギーが高いんだ。いちいち清潔なビニール袋に包まれたりしてるから、そういう手間賃もあるんだろうけど。加工品の方がまだリーズナブルだったりする。


 だけどこんな環境でも、みんなちゃんと工夫して日常を生きようとしてる。

 そのたくましさに、なんだかホッとする。


 あたしが買うのは、お店で出す軽食の材料。

 パンにハム、レタスにお米、調味料、玉子。それからトイレットペーパーとか掃除用品とか、そんな感じの品物たちでかごをいっぱいにして、あたしの宇宙遊泳は終わる。


 お会計がまたおもしろい。カゴを全体スキャンで読ませるんだ。支払いはマスターから預かった電子マネーのカードでっていう、アナログスタイル。

 ずっしり重いエコバッグを担いでスーパーを出て、あたしは来た道を戻ってく。


 足取りは軽い。

 あたしはで、あたしのやれることをやる。


 ——クリスマス、楽しみね。


 そう、あの声の通りに。

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