僕の子

奇天烈ちぴ子

僕の子


僕は父になれなかった。

僕には息子がいる。名前は健(たける)。僕が一人で育てている。家は一軒家でぜいたくなくらい広い。仕事は長期休暇中だ。貯金してたお金で、何とか生活はできている。


僕はいつもの様に暗い部屋で布団にうずくまっていた。突然、部屋が明るくなり赤ちゃんの鳴き声が聞こえた。「オギャー!オギャー!」僕はとっさに起き上がり赤ちゃんを抱き抱えた。「ミルクかい?オムツかい?」赤ちゃんは泣き止まない。赤ちゃんを抱き抱え外へ出た。慌ててドラッグストアでミルクとオムツ、その他子育てに必要なもの購入した。家へ帰りオムツを替えミルクをあげた。赤ちゃんは機嫌がよくなり僕をじーっと見つめた。名前は、「たける…健にしよう!健康に育ってくれ!」健との生活が始まった。


健だけの事を考えて僕は一生懸命生きた。ミルク、オムツ、お風呂、着替え、ご飯、洗濯、掃除、すべて一人でこなした。何より一緒にお散歩をするのが好きだった。仕事のくせも残っていて早朝に目が覚める。健と二人で浴びる太陽。「外の空気は気持ちいい〜」こんな毎日が当たり前になった。

家に帰るとドアの鍵が開いていた。知らない靴もある。「泥棒?」でも、わざわざ玄関で靴を脱ぐ泥棒はいないだろう。部屋に行くと特になんの変化もなかった。もう一度玄関を確認すると靴はなかった。なぜか僕は安心した。健は笑っていた。僕も一緒に笑った。健が心配なので防犯対策に力を入れることにした。

目が覚めると怒鳴り声が聞こえた。女性の声だ。頭痛がひどくなり僕は布団にうずくまった。少し時間がたつと健が顔をのぞきこんできた。「パパ?」僕はびっくりして起き上がった。「パパだよ!」いつの間にか健は歩けるようになり言葉も発するようになった。なにより初めての言葉がパパと言うことに感動した。


健の2歳の誕生日。2人で動物園へ行った。動物園に行くのはいつ以来だろうか。なぜか嫌な予感がした。僕は動物園に入るとめまいで気分が悪くなった。僕は動物園を飛び出してしまった。「健。ごめんな。」健はほほ笑ながらうなづいた。ケーキ屋さんで誕生日ケーキを買って家に帰った。冷蔵庫を開けると誕生日ケーキがもう1つ。「しゅん?」。僕は何も分からない。怖くて怖くて叫んだ。そんな時でも健は傍で見守ってていてくれる。「健、誕生日おめでとう。」「あーとー。」


僕は健と出会ってから引きこもることがなくなった。健を保育園に入れて仕事も復帰することにした。仕事の前に保育園に預け、仕事が終わると迎えに行く。その後一緒に買い物をして家に帰る。そんな日常が愛おしかった。

しかし、どれだけ働いてもお金は減っていく。子供1人育てるのにこんなにもお金がかかるのか。それがおかしなくらい減っていった。異変に気づいた僕は家の中を確認した。タンスの中に分厚い封筒があった。中身はたくさんの1万円札。すべてを健との生活に使った。次の日、 体の節々が痛む。仕事に行けないくらいだ。「僕が働かないと。頑張らないと。」必死だった。僕は必死に働き続け生活が安定してきた。


ある日、女性二人と男性一人が僕の部屋を除く。汚らしいものを見る目をしていた。暴言を吐かれる。「おまえは仕事だけしてろ。」「おっちゃん気味が悪い。」「健ってなんだよ、気持ち悪い。」僕はまた怖くなった。でも逃げ出せない。生きていくしかないんだ。健のために。布団の中でうずくまりながら僕は泣いた。しばらくすると他の部屋から音がした。「ガサガサガサ」話し声も聞こえる。「ゴミは置いていこう。」その日は怖くて部屋から出られなかった。

次の日、家の中が空っぽになっていた。「健?」健がいない。僕は健を家中探した。「パパだよ!健、出ておいで!」どこにも居ない。もう一度パパと呼んでほしい。僕のことを必要としてほしい。ランドセルを背負う姿がみたい。ずっとずっと成長を見守っていたい。強くそう思った。タンスの中に履き古した小さい靴が2つ。名前がかすれているが読める。「しゅん?みずき?」妻の子供2人だ。僕はこの子たちから嫌われていた。毎日、「おっちゃん消えろ。いらない。」「気持ちが悪い、こっちを見ないで。」それがすごく悲しかった。僕は仕事が出来なくなると妻からもひどい扱いを受けた。「おまえは仕事だけしてろ、汚いあっちに行け、部屋から出てくるな。」僕は耐えられなかった。弱い人間だ。少しのことで傷ついてしまう。子供たちの方が幼い心で大変だったと今は思う。僕はどうしようもない人間だ。健に出会ってからは家族がいること、家族と暮らしていること、すべてを忘れてしまっていた。家族が見えなかった。僕には健しか見えなかったんだ。


気づいた時にはもう遅かった。家族も健もいない。全てを失った。ずっと独りだったんだ。

僕はパパになりたかった。















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僕の子 奇天烈ちぴ子 @kiteretutipiko

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