DeadEnd/Propose

 魔力は尽きた。炉心も枯れて、魂は瓦解していく。血だらけになった手を見て、殺したんだって、かつて愛だった亡骸を抱きしめている。ドロドロと流れる血が、服を汚していく。


「……………………………………」


 ────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────クソが。


 殺した。この手で殺した。後は私が果てるまでのカウントダウンでもしよう。


「なんでだよ」


 ぐちゃぐちゃだ。もう私が何をして、何をしようとして、何の為にかなんて忘れてしまった。魂が瓦解して、記憶も少しずつ擦り減っている。


「ぅぁ、っ、あ………。ぁぁぁあああぁぁぁっぁぁああああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあっ!」


 とめどなく溢れるモノに抗う事も出来ずに吐き出す。


 好きだった。間違いなく大好きだった。誰に何を言われても、一緒に旅をして、一緒の部屋に泊って、色々話をして、一緒に戦って、その中でいつか好きになっていた。


 愛していた。


「なんで、どうして……っ!」


 もう終わった事だ。だから何を言っても何をしても変わる事はない。


 だから、文句だって出てくるさ。分間七十数回の心臓の音が段々とその数を減らしていく。その鼓動に釣られて、気分も落ち着いていく。


「…………幕引きにはちょっと、曇天過ぎるな」


 多くのモノを失った旅だった。数えきれないモノを失くして、最期は抗ったつもりだったけど、結局私が得たはずの全てを失ってしまった。


「僧侶ちゃん、これで良いよね。誰も報われないし、誰も幸せにならないけど、私達はこれで良いんだよね」


 混濁する意識に問う。どうすれば良かったのかなんて分からないし、きっとこれで良かったんだって思い込んだ方が幸せだと思う。


 愛したヒトを殺した。お腹を刺して、首を切った。噴き出した血が、噴水みたいだった。


 そんな馬鹿な感想しか沸かない。驚くくらい疲弊しているのが自分でもわかる。


「────────────ぅ、ぐっぁ」


 心臓の音が途絶えて行く。魂は砕け、記憶ももう曖昧だ。死とはこんなにも穏やかな物なのかって驚きがある。あの時私は死んでいなかった。


「……は、ぁ」


 息を吐くのもやっとになって、延長戦は終わりを告げる。ゴールの合図は無いし、誰にも見届けられる事は無いだろうけど、まあそれは仕方ないさ。私達が進んだ道だ。ゴールっていうのなら、既にネドアの魔王を征伐した時点で突っ切って通り過ぎている。


 だから止まる事は無かったし、進み続けた事に、一切の後悔は無い。


「…………じゃあ、これで本当に、終わり……だね」


 結局、何も解決しちゃいない。僧侶ちゃんを説得する事は出来なかったし、私も譲る事は出来なかった。


 一つ確かな事は、麗愛に沈むキミとただ、この先もずっと愛し合っていたかった。


「……………………………………」


 意図的に息を止める。手にしていたナイフを落とす前に、最期の仕上げだ。痛み無くあの子の元へ行けるとは思っちゃいない。


 背中を刺して首を切れ。それが私の最後の仕事だ。


「………………………………」


 大丈夫。痛みには慣れてる。死ぬのなんて怖くない。だから思いっきりナイフを背中に突き立てた。


 案外難しい。お腹だったら簡単なのに、背中だから力が入りにくい。


「────────────っ」


 突き立てたナイフに無理やり魔力を送って、ナイフの刃を大きくして、無理やり内臓をぶち破って、


「ははは、思ってたより全然だ」


 そう呟いて、動脈にナイフを翳し────。


「じゃあね」

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麗愛に沈むきみとただ、 @narusenose

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