第2話 コラボ

 Dチューブの攻略のカギはコラボにある。チャンネル登録者数1万人を超えるような巨大アカウントとコラボできれば、お互いのファンがチャンネル登録し合う。しかし、Dチューブ1日目のスコップのアカウントは、チャンネル登録者数0人のまま。誰もコラボしてくれない。スキル【赤の剣士】以外はすべて売り払ったので、ほぼ初期アカウントに近い。


 スコップは1年間で100本の動画を投稿することを誓った。同じ時間、同じ周期で毎日投稿するのは基本だ。人間が視聴回数を増やせば、神様への露出はそれだけ高くなる。神様のスパチャ変わりである、神々の祝福はなんとしても得難い。


 2日目の奴隷10人がゴブリンやスライムと戦う動画を、生配信で、延々と2時間やった後、スコップは交渉に行くことを決意した。始まりの町にいる有力者と縁故になってコラボし、チャンネル登録者を増やすのだ。


「私はちょっと出かけます。みなさんは休憩しててください」


 奴隷10人に自由時間を言い渡した後、スコップは始まりの町のギルドや酒場を転々とした。情報収集するならばギルドや酒場など人の集まる場所と相場が決まっている。


 女神によって開けられた異世界の扉は、異世界人を歓迎するために、始まりの町とパイプを繋げた。始まりの町には日本人と原住民が半々ほど点在している。スコップと同じ日本人のほかに、異世界ファンタジーの村人、エルフ、ドワーフ、獣人、多種多様な種族がごった煮になっている。


 女神の願いはただ一つ。魔王の討伐。そして、八百万の神々の願いは娯楽。異世界の神と日本の神の、魔王の討伐と娯楽が重なった結果、生まれたのが妖精カメラによるD(ダンジョン)配信にある。もちろん、ダンジョンに潜らず、魔族と戦う動画も続出しているが、魔族はマソと呼ばれる瘴気を纏い、ダンジョンボスよりも圧倒的に強い。なので魔族と戦った日本人の死亡者が続出している。マソは原住民の力を奪い、魔族の力を上げる。女神でさえ、マソのよる弱体化の影響を受ける。しかし、日本人はマソに耐性があるのでマソの毒素にやられない。女神の希望は、八百万の神々からスキルを授かった日本人にある。


 21XX年。日本に開いた異世界の扉は、全国に衝撃を与えた。異世界の扱いをどうするかは日本の総理大臣に託された。世界各国は結託し、日本人に毒見役を任せた。派遣された日本の自衛隊は、役に立たず、剣と魔法の世界は、自衛隊のほとんどを屠ってしまった。しかし、日本古来の八百万の神々は、戦争の無くなった世界からさらなる娯楽を求めて、日本市民にDチューブを授けた。よって奴隷階級はみんな異世界に放り投げ出されることになる。


 と、ここまでがスコップの知っている話。詳しくは知らないが、日本の総理大臣は資本家という特権階級になるチャンスを与えて、奴隷をこき使い、八百万の神々への供物として捧げた、奴隷にとっては最低最悪な野郎だ。


 始まりの町に行くと、魔族がいない。異世界で最も安全な場所ともいえる。なぜならマソがないからだ。


 始まりの町というと、みすぼらしく聞こえる感じがするが、異世界で最も発展している王国であり、王族や女神が住んでいる。マソがないため、魔族の進行を防ぐことができて、かつ、海辺に近く発展しやすい。マソの影響で周辺には雑魚モンスターしか現れない。そのため、最後の希望の砦と化している。異世界の人類は8割を魔族との戦争でなくしている。


 始まりの町は、日本人にとっては異世界の始まりの町であり、異世界の原住民にとっては王都と呼ばれていた。


「コラボ相手は王様か女神がいいな」


 スコップは電子端末で電話をかける。かつてスマホと呼ばれたそれは、最小化と手間を省き、瞳の瞬き一つで瞬時に機能を起動する。日本は異世界の住民に100年前の科学技術を与えた。なので、相手方はスマホで対応する。


「異界の勇者様でありますか? こちらは王国の騎士団であります」


「ちょっと王様と妖精カメラでコラボしたいのですが、会うことはできますか?」


「Dチューブの件でしょうか?」


「はい」


「残念ながら、王様への謁見はAランク以上の冒険者様か日本の王様に限られております。勇者様はランクはいくつですか?」


「Cです」


 ガチャッと切られる。


 異世界の王様及び女神は、Aランク以上の冒険者しか興味がない。


 ダメ元で聞いてみたスコップだったのでショックはない。ランク至上主義に陥っている異世界の原住民にはどうかと思うが、彼らは魔族を倒す切り札として日本に扉を開けた。それなりの覚悟があっての話。魔族ではなくて21XXの日本人に戦争を仕掛けられて、乗っ取られていたかもしれない。その度胸に免じて、100年前の科学技術しか持たない原住民に一定の評価を下した。


 スコップはホテルに入り、100年前のテレビを見る。オールドメディアと呼ばれて斜陽である、テレビ番組は原住民が必死になって勇者の募集を呼びかけていた。100年前の技術で作られた新聞を手に取り、かつてスマホと呼ばれた情報端末で自動通訳する。21XX年の日本人の科学技術は素晴らしく、1時間で覚えた異世界語を、のちのオールフリーで無限に文字や言語を通訳してくれた。


 異世界の原住民は、中世ヨーロッパの時代から、まさに、科学革命を受けており、おおよそ100年前の20XX年の科学技術を要していた。だから核兵器を使えば、魔族は皆殺しにできたが、自然環境やマソを考慮すると、核は打てなかった。


 Dチューブで地道にモンスターや魔族を倒すしかない。魔王の討伐は娯楽なのだ。

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奴隷と市民の労働ゲーム ハカドルサボル @naranen

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