奴隷と市民の労働ゲーム

ハカドルサボル

第1話 プロローグ

「ステータスオープン」


 Cランク冒険者。スコップ。

 ユニークスキル【採掘】

 神々の祝福【赤の剣士】


 21XX年。人類は労働という苦役をクリアした。労働するのは奴隷の役割であり、市民は趣味で労働し、資産家は自分の研究や芸術に没頭する。


 Cランク冒険者の金秋(かねあき)。ニックネームはスコップ。彼は奴隷を10人ほど引き連れて異世界の扉を開く。


 神々の祝福(スキル)は【赤の剣士】。Cランク冒険者のスコップが持っている唯一のスキル。


 異世界の最初の町。始まりの町の周辺で、ゴブリンやスライムを狩る。


「みなさん。お願いします」


 剣と盾を持った奴隷が10人。雑魚モンスターをやっつける。人間には必ずユニークスキルが与えられる。しかし、妖精カメラでDチューブの配信すれば、時々、配信を見ている神様から、ユニークスキルの上位版の神々の祝福(スキル)が貰える。


 Dチューバ―は金になる。もし仮に、神様からレアなスキルをもらえれば、D(ダンジョン)チューブのアカウントを売って、奴隷は市民に、市民は資産家にクラスアップすることができる。


 スコップも、あるレアスキル【???】を求めて異世界のダンジョンに赴く。上のクラスである資産家様から頼まれた重要な任務。神様からスキルを貰うには、ダンジョン攻略が一番手っ取り早かった。


 現在、スコップはEランクの奴隷を鍛えている。配信名は『Eランク初心者の奴隷がDランクになるまでVログ』という。現在の視聴者は3名ほどで、八百万の神々はゼロ。異世界ファンタジーの始まりの町で、ゴブリンやスライムを倒すのは何番煎じの配信で、やり尽くされている。やっぱり異世界の高難度ダンジョンでなければ人気は出ない。しかし、スコップが奴隷を鍛えるのには訳があった。判官びいきという。アンダードッグ効果を利用したもの。弱いものが強いものに挑むストーリー性を視聴者は求めている。だから、『Eランク初心者がCランクのダンジョンボスを倒すまで』の過程を下剋上として視聴者にプレゼンすれば、話題になると思った。最初からクソ動画をあげてファンをちょっとずつ増やすのだ。


 流行りのDチューバ―で有象無象に埋もれずに、八百万の神々からスキルを与えてもらうには、毎日更新しかない。Dチューバ―は厳しい世界だった。


「スコップの旦那。片が付きました」


「ご苦労様です。コレクション」


 10人の奴隷の中で奴隷長をやっているコレクション。一番の有望株で大柄な男だ。頭が切れて努力家で、剣の腕も他の奴隷を圧倒している。しかし、ステータスは、


 Eランク冒険者。コレクション。

 ユニークスキル【採取】


 【採取】と地味なユニークスキルで、不遇の存在だった。


「旦那。妖精カメラによる生配信では視聴者は3名だけでした」


「最初はこんなものでしょう」


「可愛い女の子奴隷を買ってエロ配信に切り替えた方が儲かるのではないですか?」


「それじゃ八百万の神々からスキルはもらえない」


 Dチューブのホットは、エロ&グロのバイオレンス。特に、昔ローマのコロッセオで流行った闘技場などの戦いファンタジーが一番視聴者数が稼げる。やっぱり命がけのダンジョン配信を誰もが見たがっている。エロ配信ならばお金も労働Pも同時に稼げる。しかし、スコップの狙いは神々からの祝福であって、金ではない。女の子奴隷を買うだけで満たせる安易なコンテンツに安く流されるスコップではなかった。


 10名の奴隷のユニークスキルは補助スキルをあえて選んだ。何もできない補助スキルのクソどもがのし上がるエンターテインメント性こそが魅力なのだ。今後、誰が命を落とすか分からない緊張感が視聴者の心を掴むはず。


「戦いのVログを一つ。キャンプ動画を一つ出します。頑張れば毎日、二回の投稿ができます。みなさん、頑張りましょう!」


『始まりの町周辺で奴隷10人とキャンプしてみた。1日目』


 と二つ目の動画を撮影する。


 年上の、男ばかりの泥臭い動画だが、それでいい。20歳のスコップは市民として妖精カメラの角度を気にする。奴隷10人が採取したり、火を起こしたり、魚を釣ったり、肉を焼いたりするのが楽しい。キャンプ動画はブームの一つになっていた。リアルタイムの視聴者数は5人。最初はそんなものだ。


 高校生の頃、1万バズを起こした伝説の配信者、金秋ことスコップの伝説の再来はここからだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る