ワレワレハウチュウジンダ

宮本 賢治

第1話

おれは小さいときから、耳が不自由だ。

補聴器が無いと何も聞き取れない。

ワレワレハウチュウジンダ!

補聴器が無ければ、どんな言葉もそんなふうに聞こえる。

でも、ナミの声は違った。

心地よい澄んだ声。

補聴器が無くても聞こえるくらい。

高校に入り、知り合って、猛アピールした。結果、付き合うことになった。

ナミはかわいい、男子ならみんな羨ましがる。

おれは、サッカー部の期待のホープ、その上ルックスも悪くない。自分でもそれが大きな加点だと思ってた。

けど、ナミに聞いたら、おもしろい人だなって思ったからだよ、だって。

人間、やっぱり、突き詰めるとこ、重要なのは感性だ。

ナミの声は心地よい。

ずっと聞いていたい。

モーツァルトも、ノエル·ギャラガーも超えられない、最高の音楽だ。

けど、そんなナミとケンカした。

きっかけは些細なことだった。

視線が合っても、無視、無言。LINEも、LINE電話もつながらない。

おれは補聴器を外した。世界から耳を塞ぐには都合がよかった。

部活も初めてサボった。メッシだって、観客がいなけりゃ、やる気出ないだろ。

ふて寝した後、スマホが怪しく点滅していた。

留守電が入っていた。

初めての経験だ。おれに留守電を入れる奴なんていない。文章メッセージのほうが確実だからだ。

留守電はナミからだった。

おれはあわてて、再生した。


ワレワレハウチュウジンダ。

あたしの声が聞こえる?

さみしいよ。


補聴器を付けていなくても、一言一句聞き取れた。

世界で一番聞きたい音だった。

おれはすっかり日が落ちた外へ飛び出し、全速力で走った。

ただ、ナミの声をこの耳で直に聞きたかった。

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