ありのままの君が好き!

千織

ありのままの君が好き!

 彼女に振られた。しかも浮気されて。相手は大手企業のイケメン、キラッキラのエリート。中小企業の社畜の俺じゃあ、そりゃ仕方ないかなとも思う。


 そんな俺を慰めるために、東海林が飲みに誘ってくれた。東海林は新卒入社の同期。端正な顔立ちで、仕事もできる。一方、俺はまあまあ鈍臭い。周りに疎まれるほどではないが、近くに東海林がいると見劣りする。これも仕方ないことだ。東海林はそんな状況を鼻にかけることもなくいつも爽やかで、お互いそれなりに助け合いながら仕事をしてきた。



 一軒目は居酒屋で彼女と浮気相手への愚痴を吐き、二軒目はバーでモテない自分と将来への不安を吐露し、三軒目……として東海林のアパートで宅飲みになった。


 そして気づいたら東海林とキスをしていたのだ。


 東海林に抱きしめられ、頭を押さえられて逃げられない。


 俺は東海林に噛みついて、怯んだところでバッグと上着を掴んでアパートから逃げた。なんでそんなことになったのか、全然記憶にない。

俺がその気にさせるようなことを言ったのだろうか? いや、その気って何。だとしてキスはしないだろう。東海林が俺を好きだってこと?


 東海林のことは友人として好きなだけで、まさか恋愛対象ではない。明日……どんな顔をして会社で会えばいいのだろうか……。



♢♢♢



 彼女に振られたくらいで、将来まで悲観する北村はとても可愛かった。将来なんて、俺と一緒に暮らせばどうにでもなる。こうやって毎日一緒に飲んで過ごせたらどんなに楽しいか。そう考えてたら、気持ちが昂って手を出してしまった。


 翌日会社に行き、北村に挨拶するが目を合わせてくれない。仕事で話しかけても、なんだかつれない。


 わかる、わかるよ。情事があった翌日は緊張するよな。でも、キスしかしてないのにそうなるっていうのは、なかなかに奥手だ。そんなぎこちない態度じゃあ、周りから二人に何かあったんじゃないかって逆に思われてしまう。


 帰りもいつもなら雑談をしていくのにそそくさと帰ってしまった。まあ、会社内で雑談したところでたかがしれてるからな。二人の時間を多くしたいということだろう。


 彼女とは別れて正解だと思うよ。いつもブランド物をねだってたし。北村の給料じゃ分不相応だ。デートだって、自然が好きな北村が湖に連れて行ったら、あからさまにテンション下がってたよね。見た目も、整形かってくらいバキバキにメイクしてるし。


 外食もいつもちょっと高いとこを指定してきて、クレジットの明細が大変なことになってたじゃないか。俺とラーメン屋に行く方が幸せだって。


 彼女とは出会って3回目のデートで付き合い始めてたけど、それはちょっと早かったと思うよ。やっぱり、価値観や生活が合わないと長くないなって。


 北村は、朝ごはんは和食だし、朝シャワー派だよね。これで彼女が朝はパンで朝シャワー派ならもう破綻だよ! 忙しい朝に二人ともシャワーを使うんじゃ大変じゃないか。


 お昼はいつもコンビニ。コーヒーはコンビニ7がお気に入り。アプリゲームはやらなくて、テレビは意外と硬派なNHKが好き。本はあまり読まなくて、入社1年目に買ったビジネス本が積読してある。洗濯は1週間に一度、掃除はゴミの日の前日。


 彼女がいたときは奮発してデパ地下のお惣菜もよく買ってたよね。俺だったら北村の体のことを考えて、手料理を作ってあげるけどな。彼女がよく家に来ているくせに、生ごみが少ないのは家庭的じゃなくて良くないよ。


 ちょっと言い訳するとね、もちろん、初めて会ったときから北村のことは気になっていたよ。働き始めてまもなく、アパートに高校の友達が来てたよね? その時、俺のことベタ褒めしてくれたじゃん。カッコイイとか、シュッとしてるとか、優しいとか、頭がいいとか。ああ、俺たち、もう両想いなんだって確信したね。


 それでもこうして5年間も手を出さなかったのは、やっぱり価値観や生活がどこまで合うか知ってからじゃないとって思ってたからね。今のところ何一つ問題はないよ。


 あとは体の相性くらいかな?でもそれは俺の努力次第でもあるから大丈夫!



 今日はいつもより1時間も早くベッドに入ったね。昨日の余韻を噛み締めてくれているなら嬉しいな。スマホのライトが消えたから、そろそろ寝たかな?


 さて、そろそろ行くよ。断りなく合鍵を作ったのは申し訳ないけど、どうせ今から恋人同士になるんだから、構わないよね。



―おわり―

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