第2話 落ち延びて

 気絶している和心を抱いて俺は森の中を走る。一刻も早く御能の手の届かないところへ行かなくてはいけない。異能の力に目覚めた俺の走力は今や常人のそれとは違う。まるで飛行機の様に駆けていった。そして俺は走れるだけ走って東京にやってきた。そして身分確認のない適当なラブホの部屋を借りてそこに入った。


「とりあえず追跡は撒けたかな…」


 俺は部屋にあったガウンをベットに横にした和心に被せてから、ソファーに座る。これからどうすればいいのか?ひどく悩ましい。


「御能とはもう戦争状態だ。いっそうのこと復讐だ。だけど」


 勝てる気がしない。いくら神霊との契約を果たしたと言っても、俺はまだ異能に目覚めたばかりの素人だ。御能が本気を出してきたら勝てるとはとても思えなかった。


「だからあなたは力を蓄える必要があるのです」


 ベットから和心の声が聞こえた。だけど雰囲気がおかしい。


「目が覚めた?…いや。お前は誰だ?」


「あなたに力を与えた女神」


 和心が絶対にしないような妖艶な笑みを浮かべながらカノジョ女神はそういった。そして瞳が青くなり、髪の毛も白銀に染まる。


「和心の身体を奪ったのか?!」


「いいえ。そんなつもりはないのですわ。あなたの傍にいるためにこの子の中で過ごそうと思ったのですがね。この子の心が壊れかけてしまってわたくしが主人格になってしまったのですわ」


「心が壊れかかっている?」


「凌辱されそうになった恐怖と愛するあなたの前で自殺を図った恥でこの子の心は今罅だらけです。あなたに顔を合わせる顔がないと泣いております」


「俺は和心を愛してる。だから出てきてくれ」


「あなたの真摯な気持ちはわかりますが、今かたくななこの少女には伝わらないでしょう」


「お前がいるからじゃないのか?いますぐに契約を破棄して追い出してもいいんだぞ」


「契約の破棄は不可能です。すでに契約は完遂されております。あなたは穏やかな幸せと引き換えに王になった」


「力よりも和心の方がずっと大事だ。力を返却するから和心を返せ」


「わからない人ですわね。すでに契約は完遂されております。料理人に給金を与えて何かを召しあがった後にあなたはお金を難癖付けて奪えるのですか?出来ないでしょう。それと同じですわ。あなたはこの娘を助けるために王になった。そしてあなたの一族同胞と敵対することになりましたわ。このままあなたは王であり続けなければこの子もろともに死ぬしかありません。そして同胞たちへの報復が叶っても今度は別の強者たちが王たるあなたを亡き者にしようと付け狙うでしょう。この娘を助けると決めたとき、闘争と無縁ではいられなくなったのですわ。あなたは王道を行くしかないのですわ。王でないあなたは死ぬしかないのです。それが契約の対価。力はおまけでしかないのです」


「和心を助けることの対価が王になること。そうか逆なのか。お前との本当の契約は俺が王になれる力を授けるんじゃなくて、王であり続けるための力を授けることだったのか」


「はい。その通りですわ。力あるものが王になるのではありません。王たる者に力が与えられるのですわ」


「そうか。契約という名の寵愛か。ああ、そうか。神話に出てくる神に見初められた英雄のようなものか」


「それに近いものだと思ってもらってよろしいですわ。わたくしはあなたを見初めました。あなたはわたくしの選んだ王。王にふさわしい力は女神たるわたくしが授けます。いくらでも」


「そのかわりに死ぬまで辞められないってわけだ」


 出鱈目な契約だ。契約っていうのは本来互いが対価を出し合って、利益を交換するもののはずだ。だけど俺は王に選定されて、この女神に延々とつき纏われる運命になったわけだ。王という地位をポンとくれてやるあたりが神霊らしい出鱈目さだ。対価は闘争に満ちた王道の人生。王であり続けなければ死ぬデスレース。本来王様って地位はノブレスオブリージュの自己満足か、自己承認願望のゴールのトロフィーなんじゃないのか?はは。出鱈目だ。


「さて。これからどうしますの?わたくしにどんな王道をみせてくださるのかしら?」


 とりあえずてめぇはその体を和心に返せって言いたいのだが、今は難しいだろう。和心の回復を今は信じて待つしかない。


「まずは勢力と拠点を作る」


「ほう!それは素晴らしいですわ!国を興すのですね!」


 女神は両手で頬を抑えて興奮の笑みを浮かべている。そんなに楽しいかね。この先に待っているのは血みどろの殺し合いなのに。


「南極へ行く。このまま日本にいればいずれ御能に捕まって殺されるだろう。まずは御能の手の及ばない場所へ行く。そしてそこから成り上がる」


「嗚呼!アンタクティカ・ウォーロード!輝ける王道!覇を唱えて人民をまつろわせる夢の旅路!素敵ですわ!」


 とりあえずこいつは愉快犯の類だ。悪魔の様に破滅を見るのが好きってわけではないのが救いだが、勝手に俺を相手に推し活されても鬱陶しい。


「明日南極行きの船に密航する。もう寝ろ。俺は疲れた」


「ええ。そうですわね。明日を楽しむために今日は眠りましょう。ところでわたくしは処女神なので、手をつなぐ以上のことはNGなのでご承知おきを」


「くたばれビッチ」


 俺はそれだけ言ってソファーに横になる。明日から始まる成り上がり(強制)の日々に憂鬱を覚えながら眠りについた。















小ネタ キャラクター紹介




天了(タカアキ)


主人公くん。悲惨すぎるお育ちが涙を誘う。ヒロインを助けた結果、どう考えても罰ゲームな王様にさせられてしまい南極行きが決まった。

異能の力に目覚めたもののまだうまく制御ができないし、能力のすべてを把握はしていないのでチートだけどそこまで強くはない。

イケメンっていうよりも、美しいみたいな言葉が似合う男の子。外見だけなら人類最高峰のレベル。異能ではない天然の魅了持ちであり普段がっこうなどでは不細工に見える眼鏡をかけている。なお苗字は御能と敵対関係になったので捨てた。


御能和心(ゴダイ・ワコ)


幼馴染は負けヒロイン!女神さまに体を乗っ取られたというか、譲ったというか、現在精神的な引きこもり状態。一途すぎて自殺しようとするあたりわりとキマッってる感ある。実は巫女としての才能はあり、それ故に女神を体に宿すことが出来た。


女神(ショジョチュウ)


処女神。彼女の神話では周りに処女な侍女たちを侍らせたハーレムみたいなもんを作っていたって描かれている。さらに言えばガチでヤバい処女厨エピソードがあったりする。自分が処女守るのはけっこうだけど他人にそれを強制するのはいかがなものだろうか?わりとまじでざまぁされた方がいいんじゃね?って筆者は思ってる。




小ネタ 設定


異能


魔術とか超能力とかいろいろです。ところで最近陰陽道がネット小説ではやってる?流行ってるよね?出した方がいい?どう思う?


南極大陸


気候変動で氷が解けて人が住めるようになった大陸。条約により何処の国の国家主権も及ばないが、世界各地から地下に眠るエネルギー資源を目当てに悪党どもが集まって大変にカオスってる。力をつけて各地を実効支配している軍閥たちが好き勝手にやっておりさながら戦国時代そのものである。


ヤクザ


主人公君のお財布。


ミリシャ


修羅の国ブラジルの怖い人たち。


ブラジリアン忍術


ひっそりとブラジルのどこかで日系人が持ち込んだ謎の武術?らしきもの。この業を極めると、フライパンなしに焼きタピオカを作れるようになるらしい…。バーリトゥードとかいいながらタウルス社のライジングブルの50口径を至近距離でぶっ放すので有名である。なお筆者はブラジル系日本人なのでブラジルネタには事欠かないのだった…。


奴隷


勿論全世界で違法。だけど南極では誰も取り締まらないので、平気でまかり通っている。





 次章予告!


南極に辿り着いたタカアキくんは異能学園ファンタジーでヒロインやってそうな北欧系王女様を奴隷市から救い出す!だがそれは義侠心でも下心でもなく純粋に戦力にするためのドライな判断だった。

一方女神は奴隷として売られていたのに北欧系王女が処女だったことに安堵しユニコーンする。役に立たない女神を放っておいて王女をこき使いとある町の繁華街を抑えるヤクザをボコしてタカアキは裏の社会で成り上がっていく。

そこへ現れるのは軍閥の少女。もちろん女神はユニコーンしてユニコーンだったので大満足!軍閥の少女は戦闘狂なのでタカアキをおもしれー男!って気に入ってしまった!

そしてそこへ颯爽と現れるブラジリアン忍者ネウザちゃん!はいはいユニコーンユニコーン。ネウザちゃんは南極のニューススキノ市の夜を盛り上げるためにトーラス・ライジングブルを悪党どもにぶっ放すのであった。


次章『王権樹立』



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名門魔術家に生まれたけど、無能だったので虐げられて育ちました。だけど神霊と契約して王の力を得たので復讐します。軍閥になって戦争じゃい! 園業公起 @muteki_succubus

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