名門魔術家に生まれたけど、無能だったので虐げられて育ちました。だけど神霊と契約して王の力を得たので復讐します。軍閥になって戦争じゃい!

園業公起

第1話 ささやかな幸せ破れる日

 大切なものを失いたくなかったから、僕は王様になるしかなかったんだ。












 僕にとって異能の力は憧れだった。父は名門魔術師の宗家の当主。母もまた分家の生まれで、大社の巫女出身であり強い力を持っていた。だけど僕には魔導の力は宿らなかった。魔力を見ることも精霊を感知することも何もかもが出来なかった。そんな無能が宗家のおぼっちゃまなんてやってるんだから分家の連中からのいじめはそれはそれはひどいものだった。


「てめぇみたいな無能は御能ごたけの恥さらしなんだよ!」「なんでお前みたいなくそが『紫』を持ってんだよ!」「このド滓が!」


 毎日のように殴られ蹴られて泣くばかりの日々だった。父も兄たちも僕のことをちっとも庇ってはくれなかった。それどころか使えない魔術の訓練を強いては僕を苦しめることばかりを繰り返していた。そんな中で比較的、いいや、今思えば一番優しくなかったのが母だった。


「美しい紫。嗚呼。なぜあなたはそんなにも美しいの?天了たかあき、あなたは私の誇り。あなたを生めて母は幸せよ」


 母は僕の瞳の色を褒めた。御能の家系に稀に現れる紫色。この色を持つ者は才能に溢れると伝わっている。同時に強い力を持つ魔眼なのだという。なのに僕はそれに当てはまらなかった。だけど母は僕を溺愛した。でもそれは母が子に向けるものではなかった。僕は母で女を知ってしまった。母は僕と交わることを好んだ。後に女の子を産んだ。その子の瞳は紫だった。父ではなく僕に似ていた。なのにその才能は卓越したものだった。母が悍ましい女だと知ったのは結局妹という名の僕の娘が産まれてからだったのだ。子供は善悪を知ることが出来ない。与えられたものをすべて受け入れることしかできない脆弱な存在なのだ。


「わたくしにも紫をくださいな」「わたくしがさきでしてよ」「いいえわたくしこそ!」


 分家の女たちは僕の紫の瞳を欲しがった。僕のかんばせが放つ妖術かのような天然の魅了にハマったのか、皆が僕と寝たがった。僕は当然拒否した。だって彼女たちには同じ一族の夫がいたから。だが女たちはみんな魔術を使って僕から自由意思を奪って交わった。一族に紫の瞳を持つ者が増えた。みんな気づいていないけど、紫の瞳を持つ者は皆僕が父だった。まだ子供に過ぎないのに。僕はどうしようもない程の罪を犯していた。


「天了さま。またテストで満点だったんですね。すごいです!」


「…ありがとう和心わこ。君も部活の県大会で優勝なんてすごいよ」


「えへへ。体を動かすのは得意ですから。魔術は苦手ですけど。これだけは誇れます」


 僕に優しくない御能の家で唯一優しくしてくれる人がいた。和心。僕の従妹に当たる女の子。僕の幼馴染であり、婚約者。御家は僕と和心のことを才能なしと見放したが、その血が外へ流れることを良しとはしなかった。僕らを番わせるのは消極的だが、お家のためだったのだ。それでもかまわなかった。御能の家はどうしようもない程腐っているが、和心と共に夫婦として穏やかに過ごせるならそれでいい。そう思っていた。


「わたくしたちは無能ですから、南極にはいかずに済むのでしょうね」


「ああ。それは良かったよ。日本でこうやって穏やかに過ごせる」


「男心に南極で成り上がって一旗揚げたいなんて夢はないのですか?」


「いいよ。そんな血生臭いことには向いてない。静かでいいんだ。君さえいれば他は望まないよ」


 気候変動で氷の干上がった南極大陸に世界の人々が乗り込んでいってどれほど立っただろうか。そこでは魔術や超能力、気功、道術、妖術、呪術、サイボーグやバイオ技術。様々な勢力がシノギを削って争い合っていた。南極の下に眠っていたエネルギー資源は人類を次の文明のステージに導く。南極各地に軍閥が勃興し互いに戦争を続けていた。御能も軍閥の一つとして南極の大名と言われる勢力の一つだ。僕に才があれば、南極の戦場に放り込まれていいただろう。だがそうはならない。ならずにすんだ。








そうなっていた方がずっと幸せだと思う日が来るなんて思わなかった。










 僕にだけ見える霊がいる。それは精霊や悪霊などと言われるものではきっとなかったと思う。それはとても美しい女の姿をしていた。輝ける銀髪に青い瞳に白い肌。


「頼むから僕の前から消えて欲しい。僕には何の魔術の才もない。君が欲しがるようなものは与えられないよ」


「いいえ。あなたはわたくしを必ず求めるでしょう。だからあなたとわたくしは必ず結ばれるのです。そして世界に、永遠の繁栄。久遠の安寧が齎されるのです」


「それは世迷言だよ。さあ誇大妄想は止してくれ。この世にもう寄り道せずにあの世に成仏なさい」


 僕がそういうとその女は微笑んで消えていった。だけどまたすぐに表れるだろう。いい加減誰かまともな魔術師や霊媒師に相談すべきなのだろうか?だが御能の他の者も見えない存在なんてそもそも僕の妄想でしかないのでないだろうか?くだらない。僕はやれやれと一息ついてお茶を一口頂いた。





 その日は突然訪れた。僕と和心が学校から帰ってきて、御能の御屋敷に入った瞬間だった。


「不届き者を捕らえよ」


 父の声がした。それと共に分家の者たちが魔術で作った光の輪で僕を拘束した。そして和心は分家の者たちに羽交い絞めにされて口を塞がれる。


「なんだ?!なんですかいったい!?父さん!これはいったいどういうことですか?!」


「父さん?ふん!この裏切り者め!!」


 僕は父に顔を蹴られた。奥歯が折れて血が口から流れ出てくる。


「なんのことですか?!」


「DNA鑑定した。お前と儂の血は繋がっておらぬ。お前は托卵の子だ。生まれた時からの裏切り者。その才能のなさもこれでようやく説明がつく。半分しか御能の血を引いておらぬのであれば無能であっても仕方あるまいって」


 父は心底僕を侮蔑するような目で僕を見下していた。托卵の子。僕が?父と血が繋がっていなかった。思わず笑いだしてしまった。


「何が可笑しい?」


「いいえ。納得がいきました。あなた様の妻であり、僕の母は大層な淫売にございますね」


「あやつのことを口にするなぁ!」


 父は怒り狂って僕を蹴り続ける。父は母を愛していた。裏切られたから怒る。それはきっと当然のことだ。その矛先が僕に向かうのも理解できる。


「お前の顔。見るのも虫唾が走る。本来ならば追放してやりたいところだが、御能の血を引くのも事実。だからその種は分家にしてやろう。だが罰は受けてもらおう」


 そう言うと和心の方を見て、分家の者たちに一言言った。


「犯せ。そこの不届き者にきちんと見せてやれよ。種を植え方というやつをのう」


 和心の制服を分家の者たちがびりびりと破りだす。


「やめろぉおおおおおお!!!」


 僕はありったけ叫んだ。だが父に和心のバックから落ちたテニスボールを口に突っ込まれてしまった。


「五月蠅くてかなわん。まあよい。そこで生まれの恥を雪げ。純潔の乙女が破れる様を見て後悔しろ。そして純血の御能が種付けられる様を見届けよ」


 そして父は空間にひずみを作ってそこへと足を入れて姿を消した。どこかへとワープしてしまった。


「んぅんんぬううう!んんんん!!!」


「うるせぇんだよ!ははは!宗家のおぼっちゃんの嫁さんレイプパーティーとかマジアゲアゲじゃね!」


「まじでテンションあがるー!イケイケ!」


「生ハメオッケーとか当主様まじでふっとぱら!おら!足ひらけこら!」


「いやあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 和心は半裸にさせられて今にも犯されそうになっていた。だけど僕にはなにもできなかった。


「いや!いや!わたくしは天了さまの妻になるのです!ここで辱められるくらいなら!!」


 和心は短刀を召喚してそれを両手に持つ。


「お!抵抗すんの?まじぃ?!たのぃしいい!」


「腹パン?!腹パンしていい?!」


「お仕置きで首絞めてあそこを締めさせようぜ!」


 分家の男たちはにやにやと笑っている。和心が抵抗して来てもなにも怖がる様子は当然ない。


「わたくしはお前たちのような下賤なものたちの手で汚されたりしないのです!やぁあああああ!!」


 そして和心は短刀で自分の喉を突いたのだ。血が激しく飛び散る。それは僕の顔の半分を真っ赤に染め上げたはずだ。声を出したかった。だけど出さない。僕は和心の傍に行こうとしたけど、体さえ動かせない。


「やべぇ?自殺とかまじないわー」


「大和撫子とか今どきないっしょ」


「これどうすんべ?」


「まあ当主様はお坊ちゃんが苦しめばいいんだから別にいいんじゃね?」


 分家の男たちの態度は軽かった。彼らは南極で戦い続けている猛者たち。だからこそすでにその心は人ではなく畜生のそれなのだ。嗚呼、力が欲しい。何でもいいどんな力でもいい。とにかく力が、力が!











『言ったでしょう?わたくしを求めると』








 視界の端に銀髪の女の姿が見えた。彼女は誰にも気づかれずに僕の方へと近づいてくる。










「力が欲しいのでしょう?」




 僕は頷く。この女が何者であっても構わない。力をくれるならなんだって差し出そう。






「ええ、では力を与えましょう。一番尊い幸せと引き換えに」


 銀髪の女は僕の顎に手を添えて、唇を奪ってきた。それと共に膨大なイメージと情報が頭の中に流れ込んできた。理解できなかった魔力の流れ、呪力の形、気の輝き、異能の力の多くを僕は理解していく。









 そして見る。金色の枝をつけた樹を。

 その樹の麓には美しい湖があって月の明かりを反射していた。

 淡い光につつまれる森の中に熊がいる。

 熊はゆったりと湖に口をつけて喉を鳴らす。

 僕は剣を持っていた。そして樹の麓へと向かう。

 樹の根元に腰掛ける男がいた。年老いたその男は僕を見るなり剣で斬りかかってきた。

 そして僕はそれを返り討ちにする。その男は僕の胸に倒れ込む。男のしわくちゃの瞼の奥には紫色の瞳があった。

 その瞳は問いかける。

 王になる意思はあるのかと。




















「ああ。僕は王子をやめた。そして俺は王になる!!」
























 魔術で編まれた拘束具が全て破れた。これで俺を拘束するものは何もない。


「な?!ばかな?!A級の拘束魔術だぞ!なんで解けるんだ?!」


 分家のバカどもが騒ぎ出すが、それを無視して僕は和心のもとへと歩いていく。


「あ、あああ。なんで体が動かない…?」


「ううぅわああ!!」


「よかった。まだ生きている」


 俺は和心に右手を当てる。すると金色の淡い光が彼女を包み傷を癒していく。


「天了様…?わたくしは…」


「いいよ。今は喋らなくてもいい」


 俺は和心を抱き上げる。そして分家のクズどもの方へと視線を向ける。


「な、なんだよぉう!お前は魔術とかつかえなかったんじゃなかったのかよぉおおおおおお!!!」


 分家の者たちは各々武器を召喚して俺に対峙してくる。だけどその切っ先は震えていた。


「ああ。異能の力は使えないと思っていた。違った。俺に紫が宿っていたことにはちゃんと意味があった」


 御能の本当の力の意味がやっとわかった。この紫は強い力を振るう者の指標でも、異能の力の表れでも、魔眼でもなかった。


「朕、人代に勅を下さん。世界よ、その悪漢共の周りから空気をすべて奪え!」


 俺がそう世界に命じると、すぐに世界の法則が歪んで動き出した。


「うごぉおおお!」


「きぃぎひ!はあお!」


「きぎょああぁお!!」


「おぼおおおおぉお!」


 分家の男たちは武器を落して悶え苦しみだす。喉を抑えて必死に息をしようともがいている。


「むだだ。今お前たちの傍から空気の一切を奪った。お前らはもう死ぬ。せいぜい後悔しろ。俺の大事な女を汚そうとしたことをな」


 そして男たちは絶望の表情のまま息絶えていった。












 これが僕のお終いの物語であり、俺の始まりの物語だ。














----作者のひとり言----



次回は南極に上陸しまーす。

本作にはローファンにならありそうな異能学園もダンジョン配信もありませーん。

あるのは仁義なきやくーざな戦争のみでーす。





現時点で銀髪の女の人の正体を知っている人は神話通です。

感想欄でどやってくれたらうれぴー。



しかし正気か?!作者は正気か?!現代ファンタジーに異能学園もダンジョン配信もなしだって?!


しかもこの作品がカクヨムコン10の主力かも知れないだって?!


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