第14話 勇者、決闘に乱入される





 親善決闘の日がやってきた。


 帝国側が用意した闘技場には数万にも及ぶ観客が訪れており、祭りのような賑わいを見せている。



「アッシュ、本当にいいの?」


「ああ、四人は決闘が始まったら即座にリタイアしてくれ」


「アッシュの坊やは血気盛んだねぇ」



 ロザリアさんは感心したように言う。


 今回の親善決闘を受けたのは、俺と帝国の新しい勇者――ツクヨのどちらが強いかを知りたかったからだ。


 まあ、結果は分かり切っている。


 先日の会談でツクヨを見た時点である程度は察していたが、俺の方が強い。

 まとめてぶっ飛ばして上下関係を分からせてやろうそうしよう。


 司会者が手短に挨拶を済ませ、決闘のゴングをならす。



「手加減はしないぞ、王国の勇者殿」


「……そう言えば、会談の時に名乗ってなかったな。俺はアッシュだ」


「……手加減はしないぞ、アッシュ殿」



 先に仕掛けてきたのはツクヨたちの方だった。


 この戦いは個人の戦闘力よりもパーティーの連携能力、つまりはチームワークが重要だ。


 レティシアが呪文を唱え、クロナが前に出て、ルーファが暗器を飛ばしてこちらを牽制、ツクヨが向かってくる。


 でも敢えて言おう。


 理不尽な強さの前では連携なぞ不要。純然たる暴力で全てを叩き潰せばいい。



「30%パンチ――連打」



 俺はその場から一歩も動かず拳を何度も振るった。

 空気が押し出され、砲弾となってツクヨたちに降り注ぐ。


 レティシアは一撃で吹っ飛ばされ、クロナは構えていた盾を破壊、ルーファに至っては頭に直撃して気絶してしまった。


 唯一俺の30%パンチに対抗できていたのは、俺と同じ勇者のツクヨ一人だった。


 俺の打ち出した空気弾を刀で切り伏せている。



「やるな!! ならこれはどうだ!! ――30%キック!!」


「!?」



 俺が脚を蹴り上げると、空気を裂いて真空刃を生み出した。


 ツクヨはすぐに攻撃を察して身を屈め、回避。


 しかし、この真空刃が直撃してクロナとレティシアはダウンした。


 あの三人、やっぱり追放して良かったな。


 弱い上にヤらせてくれないし、ティオをいじめるし、本当にロクなところがない。



「ぜやぁああ!!」



 接近してきたツクヨが刀を袈裟斬りに振るう。


 普通なら致命傷を負うような、鋭さのある斬撃だった。


 でもまあ、防御は要らない。



「なっ」


「デュークやライサスから教わらなかったか? 勇者は肉体が生物としての枠を越えている。鉄を振り回すより、重い鎧を着るよりも裸の方が強いってさ」


「くっ、ならば!!」


「お?」



 ツクヨは刀を放り、俺の手を掴んで空中に放り投げた。



「はは、たしかに投げ技や関節技は有効だな。――俺以外には」


「!?」



 俺は空中を蹴り、そのまま浮く。


 正確には身体が重力で落ちてしまう前に空気を踏んで宙に留まっているだけだがな。


 ツクヨは目を瞬かせている。



「デュークとライサスは両手両足を使って宙に浮いていたが、お前はどうだ?」


「くっ、卑怯だぞ!! 降りてこい!!」



 ちょっと挑発したらツクヨが顔を真っ赤にして怒りを露にする。


 からかい甲斐があって面白いな。


 このまましばらくツクヨで遊んでいようと思った、まさにその時だった。


 邪悪な魔力が闘技場のどこからか生じる。



「まじか」


「え、この気配は……?」


「おい、ツクヨ。決闘は中止だ。すぐに民衆を避難させろ」



 ツクヨも遅れて気付いたのか、顔を青ざめさせている。


 勇者にはある感知能力が備わっている。


 それは、勇者に力を与えた女神の敵対者である魔王の存在を感知する能力だ。


 この闘技場のどこかに魔王がいる。


 それも隠す気のない、明らかにこちらへ悪意を持った存在だ。



『くっくっくっ、今さら気付いてももう遅い。女神の使徒よ』



 刹那、脳に声が響く。


 闘技場の中心に何者かが黒い霧を伴って姿を現し、その邪悪な魔力を解放した。


 空気が途端に重くなる。



『初めましてだな、女神の使途たちよ。私は魔王。名はベイル。以後お見知りお――』


「100%パンチ」



 俺は魔王を名乗る存在に拳を叩きつけた。


 その際に生じた暴風が闘技場の地面を抉り、観客席まで被害を及ぼすが、気にしてはならない。


 相手は魔王。


 放っておいたらそれ以上の被害が出るに決まっている。



『……まったく、忌々しい勇者め。まだ挨拶の途中――』


「100%パンチ」


『……おい、貴様――』


「100%パンチ」


『ちょ、一回話を――』


「100%パンチ」


『ま、待って!! お願いだから待って!! それさっきから地味に痛い!!』



 何度も100%の拳を叩きつけるが、それが地味に痛い程度で済むとは。



『まったく!! これだから勇者は嫌いなのだ!! こちらの台詞を最後まで聞かないクソッタレめ!!』


「チンタラしてる方が悪い」


『こいつムカつくな!! いいだろう、そこまで言うなら私の姿を見せてやる!!』



 魔王を覆っていた黒い霧が晴れ、そこに立っていたのは継ぎ接ぎの男だった。



「なっ、デューク殿と、ライサス殿!?」


『くっくっくっ。察しがいいな、帝国の勇者は。野蛮な王国の勇者も見習いたまえ』



 ツクヨが驚きの声を上げた。


 無理もない。俺もこればかりはちょっぴり驚いている。

 魔王の外見はデュークとライサスを切って繋げたような不気味な外見をしていたのだ。


 悪趣味極まる。



「そ、そうか、この気配……お二人を殺した魔物と同じもの……」


『察しがよくて助かる。そう、この身体は私が配下に用意させた特別製のものでね。帝国の勇者、君が倒した魔物は私が憑依した――』



 ふーん? こいつがあの二人を、ね。


 魔王はデュークとライサス、二人の身体を使った肉体に宿っていると。


 ならば話は簡単だ。



「100%パンチ・連打」


『ちょ、おま、同じ勇者だったんだろう!? 何故そうも手加減なく殴れる!?』


「死体を弄ばれてる方が可哀相だからだよ。黙ってくたばれ」


『ええい!! 本当に王国の勇者は礼儀がなっていないな!! もう少し帝国の勇者を見習え!! 見ろ、先輩勇者の無惨な姿を見て茫然自失なんだぞ!!』



 ツクヨの方を見ると、その場でへたり込んでしまっている。


 あれでは使えないな。



「おい、ツクヨ。戦わないなら邪魔だ。失せろ」


「わ、私は……」


「ちっ」



 俺は軽く舌打ちをしてツクヨを抱え、ティオのいる方に放った。



「ティオ!! そいつを頼む!!」


「う、うん!! アッシュも気を付けてね!!」



 これで魔王とサシの勝負ができる。


 そう思っていたら、魔王が邪悪な笑顔を浮かべて笑った。


 何がおかしいのだろうか。



『くっくっくっ、愚かな勇者だ。この肉体は二人の勇者を使って作ったもの。貴様一人ではどうにもならんぞ?』


「……だろうな」



 手応えからして、俺の100%があまり効いていない。



「で?」


「……え?」


「俺の100%が全力だと思ってるなら、それは大きな間違いだぞ」



 俺は拳を握り、腰を捻って力を溜める。


 全身のエネルギーを拳に集中させ、地面を蹴って加速した。


 土が抉れ、爆発したような衝撃が生じる。


 俺は文字通りの全身全霊の力を込めて魔王を空中へ殴り飛ばした。



『へぶ!? な、なん、なんだ今のは!?』


「ただの200%パンチだ」


『ふぇ!?』



 俺がいつ100%を全力と言ったのか。



『ちょ、ま、待って!! それは待って!! やっと復活したのに――』


「うるせーよ。――1000%パンチ」



 俺は魔王に空中でトドメを刺した。


 空気が揺れて、空を覆っていた雲が吹き飛ばされて消滅。


 眩しい太陽が地上を照らすのであった。
















「ふむ。これは想定外ですね」



 主の消滅を確認した魔王軍の幹部、アドリは闘技場の一角で一部始終を見ていた。


 真っ白な仮面を被っていて分からないが、明らかに顔色が悪い。



「……かの勇者が寿命で亡くなるまで、しばらく活動を休止しましょう」



 アドリは今後の活動を慎むことを決めた。


 こうして世界には、一時の平穏が訪れることになったのである。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「魔王カワイソス」


ア「同情はしない」



「魔王さん一話で退場w」「アッシュ容赦なくて草」「作者が同情してて笑う」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。


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