第13話 勇者、帝国の勇者と会う





 帝都への旅路は何事もなかった。


 俺一人なら空中ダッシュでひとっ飛びだが、今回はロザリアさんもいるので普通に歩いて向かうことになったのだ。


 ロザリアさんは元々冒険者だったこともあってか、旅慣れているようだったからな。


 問題は何もない。


 強いて言うなら呼び出したサヤが所構わずエッチを求めてきたことだろう。


 俺としては悪い気分ではないのでヤる。


 我慢できなかったのか、たまにイヴも求めてくるのでまとめて抱いた。


 然り気無くロザリアさんも誘ってみるが、好感触ではあるものの、やはりティアラちゃんを理由に断られてしまう。


 くっ、いつか抱きたいな。


 そうこうして帝都へ到着したのだが、大通りは凄まじい賑わいを見せていた。



「おお、祭りでもやってんのか?」


「この時期に帝国でお祭りはないはずだけど……。親善決闘で盛り上がってるんじゃないかな」


「……ふむ、これだけ賑わってるなら若くてかわいい女の子もいるはず。よし、早速ナンパし――」


「はいはい。まずはお城に行くよ、アッシュ」



 ティオに首根っこを引っ張られながら、帝都中央にある城へと向かった。


 帝国側が城での滞在を許可したからな。


 美味い酒や食い物、女をじっくり堪能させてもらおうそうしよう。


 そう、思っていたのだが……。


 面倒な帝国の勇者との会談の際、俺は思わぬ人物らと再会をすることになった。



「待っていましたよ、勇者様」


「あ? なんでお前らがここにいるんだ?」



 そこにいたのは、かつてイヴとまとめて勇者パーティーから追放した三人の女たちだった。

 聖女のレティシア、女騎士のクロナ、暗殺者のルーファである。


 いやまあ、おかしな話ではない。


 レティシアは勇者を支援する教会の人間だし、クロナは王国人だが、実家が帝国と個人的な繋がりがあるらしいし。


 暗殺者のルーファも金さえ貰えば何ともする暗殺者ギルドの人間だからな。


 という話を後でティオから聞いた。



「わたくしたちは貴方に追放されてから、新しい勇者様の下で戦っていたのです」


「ああ、あの御方は素晴らしい方だ」


「ん。クズの貴方とは大違い」



 何やら散々な評価である。まあ、事実だが。


 そして、俺は肝心な新しく誕生したという勇者に視線を向けた。


 艶のある長い黒髪の美女だった。


 あまりこの辺りでは見ない異国風の出で立ちをしており、どこか凛としている。


 俺はこっそりティオに耳打ちした。



「なあ、ティオ。あの黒髪の女が新しい勇者だよな」


「う、うん、そうだと思うよ。アッシュと同じような存在感があるし」


「あの変な格好はなんだ? 腰に下げてる剣も妙に沿ってるし……」


「着物と刀、じゃないかな。極東の島国に伝わる伝統衣装と武器だよ。変とか妙とか言っちゃダメ」



 ティオに叱られてしまった。


 しばらく無言を貫いていた帝国の新しい勇者と、不意に視線がかち合う。


 それにしても美人だな。


 後でどうにかナンパしてベッドインまでできないものだろうか。


 と、そこで黒髪の勇者が話しかけてくる。



「私はツクヨ。帝国の勇者だ。貴殿のことは仲間たちから聞いている。――とんでもないクズだそうだな」



 怒気を孕んだ声音で言うツクヨ。


 おお、怖い怖い。どうやらツクヨちゃんはレティシアから俺の悪評を聞いているらしい。



「一つ言っておく。私は貴殿のような軽薄で責任感のない男は嫌いだ」


「な、何よ、あいつ。ムカつくわね。燃やしてやろうかしら」


「無理だからやめとけ」



 こちらを睨むツクヨにイヴが杖を構えるが、俺は止めた。


 ツクヨは、まあまあ強い。


 でも底が見えないような強さではないし、俺の方が強いと思う。


 勘だけどな。



「ま、それはいいんだけどさ。デュークとライサスは何してんだ?」


「っ」


「久しぶりに会うわけだし、おすすめの酒場とかナンパスポット聞きたいんだが」



 俺は帝国が抱える二人の勇者の名前を出した。


 デュークは堅物だが、実はエロいことに興味深々なムッツリだ。

 あいつに聞けば帝都のエッチなお店の情報が大体分かる。


 ライサスは俺でも引くくらいザルの飲んだくれだが、舌は確かなのでアイツの紹介する酒場は当たりが多いのだ。


 王国と帝国は仲が悪いが、俺とあの二人は友人と言っていいだろう。


 しかし、いつまで経っても二人は来なかった。



「……貴殿は、あの御二人と知り合いなのか?」


「ああ、ダチだぜ。一緒に魔物退治したこともある」


「そう、なのか」



 さっきまでの怒りはどこへやら、ツクヨはとても申し訳なさそうに俯いてしまった。


 何かあったのだろうか。



「デューク殿とライサス殿は、亡くなった」


「……は?」


「半月前に異常な強さの魔物と相対し、そのまま討ち死にした」


「そう、か。死んだのか」



 あの二人は俺より弱かったが、それでも人類の頂点に近い強さだった。


 その二人が魔物に殺された?



「その魔物はどうなった?」


「お二方が命がけで弱らせたところを、私がどうにか討ち取った」


「……ふーん。あいつら、勝てない相手に挑みやがったのか。相手との力量差が分からんわけじゃないだろうに、何やってんだか。馬鹿な奴らだな」



 俺が肩を竦めて言うと、ツクヨはさっきよりも目をカッと見開いて怒った。



「あの二人を侮辱することは許しません!! デューク殿とライサス殿は民を守るために命がけで戦ったのです!! それを馬鹿呼ばわりなど――」


「うるせーよ」



 俺は殺気を向けてきたツクヨに殺気を向ける。


 ツクヨの動きが止まり、全身から冷や汗を流しているようだった。


 俺は席を立ち、会談のために帝国側が用意した部屋を出た。

 後からティオたちが付いてくるが、今はちょっと顔を見られない。



「アッシュ、大丈夫?」


「……ああ、まあ、平気だ。それより親善決闘に備えないとな」


「……うん」



 俺は心配そうに声をかけてくるティオを前に気丈に振る舞うのであった。
















 帝都の一角にある路地裏。


 そこに白い仮面を被った怪しい出で立ちの男の姿があった。


 男は一人、虚空に向かって話している。



「魔王様、準備が整いました。ええ、全て順調です。あなた様のために、新たな肉体を用意することもできました。あなた様が復活する時はもうすぐです」



 魔王軍の幹部、アドリだった。


 この時、魔王の復活が近づいていることを知るのは彼一人であった。








―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「次の次で終わります」


ア「!?」



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