第11話 幼馴染み、けしかける




 時はわずかに遡り。



「ごめんね、夜に押し掛けちゃって」


「べ、別に。それより何よ、急に大事な話って」



 私が借りた宿の部屋にティオが急にやってきた。


 前までの自分なら確実にヒステリックを起こしてティオを罵っていたと思う。


 今そうしない理由は、自分でも分からない。



「えっと、イヴは勇者パーティーに残りたい?」


「……うん」



 私は静かに頷いた。


 そもそも私が勇者パーティーに入った理由は名声を得るためだ。


 優秀な兄たちでも敵わない、絶対的な名声を。


 それが私を見放した両親への復讐で、私を見下している兄たちへの報復だ。


 可能なら勇者パーティーにいたい。



「でも無理でしょ」


「なんで? 僕はもう気にしないよ? 許してないけど、謝ってもらったし」


「……アンタがそう言っても、あの勇者が頷くわけないでしょ」



 そうだ。


 私は勇者パーティーのリーダーである勇者に嫌われてしまっている。

 いくらティオがいいと言っても、勇者パーティーに再加入するのは不可能だろう。



「それに、今さらどの面下げて仲間に入れてくださいって言うのよ。私はアンタをいじめてきたし、人を雇って拐うよう命令すらした本人なのよ?」


「あ、それは大丈夫。アッシュは僕がいいって言ったらなんだかんだ言って気にしないし、誘拐の件もアッシュはしばらくしたら忘れるだろうしね」


「アンタ、ボロクソに言うわね……」


「アッシュはそういうところが可愛いんだよ。まだイヴには分からないかな」



 そう言って微笑むティオ。


 その表情はどこか余裕があるというか、勝ち誇っているようだった。


 絶妙に腹の立つ表情だ。



「で、本題だけど。イヴが勇者パーティーに入りたいなら、僕が協力してあげるよ」


「……どういう風の吹き回し?」


「ほら、せっかく仲直りできたし、これからも一緒にいたいなーって。駄目?」


「ダメ、じゃ、ない、けど……」


「ならよかった!!」



 人懐っこい笑みを浮かべるティオ。


 その不意打ちのような笑顔に思わずドキッとしてしまう。



「じゃ、まずはこれを着て!!」



 そう言ってティオが鞄から取り出したのは、やたらと破廉恥なデザインの水着だった。


 生地が薄いとか、そういう次元じゃない。


 完全に透けているし、色々なところが丸出しになるだろう。

 スライムを使っているのか、妙にテカる材質なことも破廉恥を加速させている。


 私は思わず怒鳴った。



「ア、アンタ、馬鹿にしてんの!?」


「大真面目だよ。アッシュって一発ヤらせてあげたらすぐ心開いちゃうから」


「は? え、いや、それってつまり、私にあの勇者に抱かれてこいってこと?」


「そうだよ」


「そ、そうだよって……」



 できない。できるわけがない。



「そ、そういうのは、あれでしょ。普通は好きな相手同士とするもので……」


「イヴって意外と乙女なんだね?」


「ぬぁ!? だ、誰が乙女よ!! まともな恋愛観でしょ!?」



 ティオがニヤニヤと楽しそうに笑って言う。


 くっ、何だかずっとティオの手玉に取られているような気がする!!



「大丈夫だよ、アッシュは女の子を抱けるか抱けないかで見てるから。イヴは可愛いから普通に誘惑したら引っかかると思うよ」


「まじであの勇者ただのクズじゃない!! 私が言えることじゃないけど!! ――って、何言わせんのよ!?」


「今のはイヴが勝手に言ったんじゃ……」


「と、とにかく嫌よ!! 私が!! 好きでもない男に抱かれるなんて絶対に嫌!!」


「あ、それも大丈夫!!」


「はあ!?」



 何を根拠に大丈夫と断言するのか。


 ティオは頬を赤らめて、何かを思い出すように語り始めた。


 その表情はまるで恋する乙女のようで……。



「アッシュってね、女の子を虜にしちゃうんだ。一度でも身体を許しちゃったらダメっていうか、メロメロになっちゃうんだよね。イヴもすぐアッシュのこと好きになっちゃうよ」


「な、なるわけないでしょ!! 私が一発ヤっただけで堕ちると思ってんじゃないでしょうね!?」


「まあ、イヴってチョロそうだし。ツンツンしてる子に限ってデレデレになりそうだなって」



 からかうように言うティオ。


 しかし、本気で言っているのかその目は至って真剣なものだった。



「ア、アンタはいいの!? そ、その、あれでしょ!? アンタ、あの勇者のこと好きなんじゃないの!?」


「うん、好きだよ。世界で一番大好き。アッシュが隣にいてくれるなら、僕は他の何も要らないから」


「っ」



 思ったより激重な感情が見え隠れしてちょっと言葉を詰まらせてしまう。



「だったらますます分かんない!! 好きな相手に他の女をけしかけるってどんな神経してんの!?」


「んー、とね」



 この時、私は選択を間違えた。


 適当に誤魔化して聞き流せばよかったのに、わざわざ聞いてしまったのだ。


 ティオが淡々と言う。



「まず結論から言うけど、僕とアッシュって身体の相性が抜群にいいんだ。多分その気になれば一ヶ月くらいぶっ通しでエッチできると思う。まあ、アッシュは僕のこと男だと思ってるから、あくまで『女神の安息日』のティアラとして接している時だけどね。アッシュが他の女の子とエッチなことしてるのは正直複雑だけど、僕とエッチしてる時のアッシュの方が気持ちよさそうだし、お金に余裕がある時はいつもティアラとエッチしに行くって言ってるからアッシュも割と本気でティアラの時の僕にメロメロだと思うんだ。あ、別に正妻面とかするつもりはないよ? アッシュが誰かを好きになるのはアッシュの自由だから。単純にアッシュが他の女の子とエッチしてる後でエッチすると燃えるんだよね。あの娘より絶対に僕の方がアッシュ気持ちよくさせてあげられてるっていうか、こういうの寝取らせって言うのかな? 本当は僕だって胸が苦しいよ? でもアッシュって女の子とエッチできないと凄く辛そうで、見てられないんだよね。だからアッシュには他の女の子と積極的にエッチしてもらいたいし――」


「ま、待って。私が悪かったわ。お願いだからやめて。怖いわ、アンタ」



 私は途中で聞くのをやめた。


 それから私はティオに促されるままあの透け透けな破廉恥水着を着せられ、あの勇者の部屋に放り込まれた。


 ティオはああ言っていたけど、きっと門前払いされるのがオチだろう。


 そう、思っていたのに……。



「うひょー、結構デカイな!!」



 勇者は遠慮なく私の胸を触ってきた。


 女の子を性の対象としてしか見ていないような、舐め回すような視線だ。


 ハッキリ言って不愉快――ではなかった。


 私は勇者を、アッシュという男を少しだけいいなと思ってしまっていたのだ。


 まず単純に顔がいい。


 いや、勇者パーティーを追放される前から分かっていたけど、近くで見ると本当にカッコイイ顔をしている。


 そして、めちゃくちゃエッチが上手い。


 私自身こういうことは初めてなので上手いかどうかは分からないが、少なくとも一人では味わえない快楽に見舞われていた。


 最後の方は私もノリノリだったと思う。


 ヤることヤり終わった後、私はティオに言われた通りにアッシュにお願いする。



「ね、ねぇ、これからはいつでもこういうことしていいから、私を勇者パーティーに入れてよ」


「あー、えー、うん、まあ、分かった」



 こうして私は、再び勇者パーティーに加入することになった。






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「激重ヒロイン、いいよね」


テ「え、重いかな?」



「イヴちょろい」「無自覚激重ヒロインええやん」「面白い」と思った方は、感想、ブックマーク、☆評価、レビューをよろしくお願いします。

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