第10話 勇者、ヤる
「で、なんでお前がいるんだ?」
「い、いちゃ悪いっての!?」
俺は無事にティオが乗る船を沖合で発見し、救出することができた。
しかし、その場には何故かイヴまでいた。
船に置いていこうかと思ったが、ティオが連れて行こうと言い出したのだ。
「本気で言ってんのか、ティオ。こいつは――」
「うん、分かってる。許してはいないけど、イヴと仲直りはできたから」
「は、はあ!? してないわよ!! あと呼び捨てにしないでくれる!?」
「じゃあ船に置いてくか」
「ちょ、置いてかないでよ!!」
ギャーギャー騒ぐイヴ。
やっぱり置いて行った方がいい気がするが、ティオが言うなら仕方ない。
「ところでアッシュ、この船……」
「操ってるのは魔王軍の幹部、アドリって奴が操作してる死体だ」
「そっか、じゃああの仮面の人たちは……」
ティオが見つめるのは、船を操作してる乗組員たちの姿だった。
乗組員たちは黒い仮面を付けており、生気を感じられない。
おそらく黒い仮面には白い仮面と同じような効果があるのだろうが、少し違うようだった。
言うなれば白い仮面が手動、黒い仮面が自動で死体を操作するのだろう。
黒い仮面を被った乗組員たちは同じ行動を繰り返しており、それ以外に自ら行動を取る様子は見られなかった。
「……アッシュ」
「……分かってる」
俺はティオとイヴを担いで再び跳躍し、上空から船を見下ろす。
「ちょ、ちょっと、何する気なのよ!?」
「いつまでも海を彷徨わせんのは船も乗組員も可哀想だろ。――だからひと思いに沈めてやるんだよ」
「は? 沈める? 船を? どうやって?」
「殴って」
俺は拳を握り、振り下ろす。
「――50%パンチ」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!?」
拳を振るった衝撃波が船を押し潰す。
至るところに軋み、穴が開いて少しずつ水が入り込み、船は沈んでしまった。
イヴが叫び散らす。
「な、何よ、今の!? 魔法!?」
「いちいち叫ぶな、やかましい。あと今のは魔法じゃない。ただ拳を振るっただけだ」
「はあ!?」
「まあまあ、二人とも落ち着いて。取り敢えずアッシュ、港までお願い」
「おう、分かってらあ」
俺は二人を担いだままダッシュで最寄りのラーゼン港まで走る。
「はあ!? な、なんで水の上走れてんの!?」
「右足が沈む前に左足を、左足が沈む前に右足を踏み出せば誰にでもできるぞ」
「イヴが勇者パーティーにいたのってアッシュが『女神の試練』を終えてからの三ヶ月だけだし、見る機会がなかったんだね。魔物退治の時も大体一撃で終わらせてたし」
目を見開いて驚いているイヴにティオが苦笑しながら言った。
この二人はいつの間に仲良くなったのだろうか。
「ゆ、勇者って何でもアリなの……?」
「ううん? 水上ダッシュはアッシュが勇者の力をもらう前からできたことだよ」
「!?」
「だな。流石に空中ダッシュは自力だと無理だが、水上ダッシュなら普通にできる。むしろ何故皆できないのか分からん」
「ば、化物……」
失礼な奴め、やはり海に捨てて行こうか。
「まあ、アッシュの言うことだから気にしなくていいよ」
「なんでアンタは落ち着いてんのよ!?」
「慣れかな。何事も適度に納得するのが驚かないコツだよ。『まあ、アッシュならこれくらいできるよね』って感じで」
「それは諦めって言うのよ!! 納得してんじゃないわよ!!」
キャンキャン犬みたいに騒ぐイヴを無視しながら走り、そこそこの時間をかけて港に到着した。
行きは俺一人だったので空中ダッシュできたが、人を抱えたままアレをやると最悪の場合空中分解してしまうので帰りはやらない。
何事も安全が第一だ。
「さて、と。事の成り行きとはいえ、海まで来たんだ。やるべきことをやるぞ」
「やるべきこと?」
「ああ、ナンパだ。難破じゃないぞ。可愛い女の子に声をかけてエロいことをする、そっちのナンパだ」
「もう、アッシュは相変わらずだなあ」
困ったように言うティオ。
草食ぶりやがって。こうなったらティオの分も若くて綺麗なお姉さんを捕まえてきてやろう。
俺はすぐに浜辺へと移動した。
ここは港町として発展してきたラーゼン、浜辺はきっと海水浴に勤しむお姉さんたちで溢れているはず!!
俺のそんな希望は、一瞬で砕かれてしまった。
「なんで、ムキムキの筋肉マッチョしかいないんだよ!!」
「だってここ、港だしね。観光じゃなくて交易を中心に栄えてきた場所だから、海水浴とかそういうのには向いてないんだ。綺麗な水着のお姉さんもいないよ」
「くっ!! ムキムキのオッサンじゃなくて、ムチムチのお姉さんがよかった!!」
口惜しいが、ナンパは諦めるしかない。
海でナンパできなかったことを嘆いていると、一連の様子を見ていたイヴが俺を鼻で笑った。
「ふん、勇者のくせにエロいことしか考えてないの?」
「あ? んだてめーコラ。おいコラ。やんのかおめーコラ」
「どうどう。喧嘩はダメだよ、アッシュ」
「ティオ!! 俺、こいつ嫌い!! さっさと王都行きの馬車便に詰めて発送しようぜ!!」
「女の子に乱暴なことしちゃメッだよ」
本当に何があったのか、ティオはイヴを邪険にはしないようだ。
まあ、ティオがいいならいいけどさ……。
「で、まじでお前はいつまで俺たちに付いてくる気なんだ?」
「う、うるさい!! 私の勝手でしょ!!」
「ティオ、やっぱこいつ箱に詰めて王都に――」
「喧嘩はメッ、だよ」
ぐぬぬぬ、ティオめ。
何がどういうわけで急にイヴの肩を持つようになったのか。
……俺の頭で考えられる可能性は一つ。
まさかとは思うが、イヴのことを女として意識しているのだろうか。
流石にいじめっ子を好きになるとか、普通はないよな?
いや、もしかしたらティオが実はいじめられたがりの性癖の持ち主という可能性も?
くっ、ダメだ何も分からん。
とにかく俺からティオに言えることは一つ。そう、一つだけだ。
「ティオ。俺はお前がどんな趣味をしていても、嫌ったりしないからな!!」
「え? あ、うん。……なんか凄い誤解を受けたような気がする……」
それから俺たちはラーゼン港で宿を取った。
明日には王都に帰って冒険者ギルドの仕事を受けねばならない。
そう、思っていたのだが……。
「お、おい、これは何の真似だ?」
「……う、うるさい……私だって、本当はシたくないわよ……」
どういうわけか、イヴがやたらと透けているマイクロビキニを着て俺の部屋を訪ねてきたのだ。
意味が分からなくて困惑する。
しかし、それ以上に海で女の子をナンパできなかったことが尾を引いているのか、とても期待してしまっていた。
イヴが俺を睨みながら、それでいて恥ずかしそうに両腕で身体を隠すようにして言う。
「ヤ、ヤらせてあげるから、私を勇者パーティーに入れてよ」
「……ごくり」
忘れてはならないのはイヴが美少女であるということだ。
俺の中ではティアラちゃんが不動の一位だが、イヴが上位に食い込む容姿をしているのは間違いない。
おっぱいは控えめだが、ちょうど手に収まりそうないいサイズ感だ。
俺はその果実に手を伸ばそうとして、慌てて引っ込める。
な、何を考えてるんだ、俺は!!
相手はティオを散々いじめてきた性悪なサディスト魔法使い。
ここで抱いたらティオに面目が……。
いや、待て。そもそもティオがもうイヴのことを嫌っているわけではないし、セーフなのか。
ま、待て。落ち着こう。
今のティオがイヴのことを好いている節さえあるし、ここで俺が手を出すのは親友の気になってる女の子に手を出すことになるのでは!?
ぐっ、お、俺はどうすれば!!
「ヤるの? ヤらないの? さっさと決めてよ」
「――ヤる!! すまん、ティオ。性欲に抗えない俺を許してくれ!!」
「……そいつに言われて来たんだけどね」
ボソッとイヴが何かを呟いたような気がしたが、下半身に脳を支配されていた俺は構わずいただいてしまった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「世の中ほどよいところでの諦めが肝心」
テ「うんうん」
「イヴがまともな反応してて草」「この主人公ホンマw」「あとがき悟ってて草」と思った方は、感想、ブックマーク、☆評価、レビューをよろしくお願いします。
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