第6話 ボンゴレ・ロッソ

 さて、引き続いてアサリ特集ということで僕の本職であるイタリアンを作っていく。アサリを使ったパスタと言えばボンゴレである。ところで、ボンゴレと言うのは二枚貝を表すイタリア語 Vongle の事なので、本来は貝そのものを示す言葉であるが、パスタの特徴を表す言葉を後ろにつけることで二枚貝を使ったパスタ料理の意味になる。たとえば、ボンゴレ・ビアンコとかボンゴレ・ロッソが有名だ。ここでいうビアンコとはイタリア語で「白」を示し、ロッソは「赤」を示す。ボンゴレ・ビアンコはアサリそのものの塩味を生かしたパスタ、ボンゴレ・ロッソはトマトソースを使ったアサリのパスタとなる。今回は僕が一番好きなパスタの一つである、ボンゴレ・ロッソを作っていこうと思う。


「ボンゴレ・ロッソですか!いいですねぇ!」

「おれも大好きだぜ!」

「いつもどおり、材料紹介からいくよっ!」


材料(2人前)

・剥きアサリ 60g (殻付きアサリ 200g)

・アサリエキス 100㎖

・白ワイン 50㎖

・スパゲッティ 200g

・玉ねぎ 1/4個

・フルーツトマト 1個

・にんにく 2片

・トマトソース(市販品) 100㎖

・オリーブオイル 適量

・ゆで汁または水 濃度を見て適量

・塩 味をみて適量


「それじゃあ、とりあえず作っていくよ!まずは、玉ねぎを薄くスライスしてね!終わったら、フルーツトマトもダイス状に切って、別々にとりおいてくれる?」

「はい、じゃあボクがやります!」


「その間に、兄貴はオリーブオイルを温めて、薄くスライスしたにんにくを炒めてくれる?」

「おう、どうすれば良いんだ?」

「オリーブオイルをフライパンの端に貯めて、そこでにんにくスライスを揚げていく感じで炒めるんだ、そうそう、油がわいてきたら火を止めて、余熱を使ってね!」

「だんだん、香りが出てきたぞ!」

「火を止めたりつけたり、焦がさないように微調整してキツネ色になるまでにんにくを炒めてね!」

「色はキタキツネとホンドギツネのどっちに合わせればいいんだ?」

「どちらかと言えば色が薄いホンドギツネでいいよ!」


 にんにくがいい感じにホンドギツネ色に色づき、いい感じに香りが立ってきたら、にんにくはいったんキッチンペーパーの上にあげてカリっとさせておく。そうしたら鍋に湯を沸かし、およそ1%の塩水をたっぷりと沸騰させる。


「沸騰しましたよ!」

「そうしたら、スパゲッティ 200g を入れて茹でていくよ!タイマーを規定の湯で時間にセットして!」

「9分だな!準備出来たぜ!」

「じゃあ、投入するよっ!」


 右前足と左前足でスパゲッティの束をじるように持ち、鍋の上で垂直に立てて離す。スパゲッティは綺麗に円のように広がって鍋に落ちた。


「クロジさん……」

「ん?」

「クマの手で、器用にパスタを捩じりますねぇ……」

「お約束だね!」


「ところで、スパゲッティの選び方についての蘊蓄うんちくはねえのか?」

「めんどくさいからスルーしようかと思ったんだけど、この作品群はそう言う所の手を抜くと成立しなくなるよね!」

「程よいメタ発言も必要ですよねぇ!」


「……と、言うことで、今回はスパゲッティの製造工程からみた分類と、特徴について語っていくね!」

「工業的なスパゲッティ製法ってどんな感じなんですかねぇ?」

「大量生産されるスパゲッティは、ミキサーで生地を練って、押し器で押し出し加工されて麺になり、それを乾燥させていくんだ!今回は押し出しの部分での違いをみるよ!」

「工程が違うのか?」

「工程は一緒なんだけど、押し出し口に『ダイス』という部品が使われていて、これの種類によって食感がだいぶ変わるんだ!」


「どんな種類があるんでしょう?」

「大きく素材でわけて2種類あって、金属ダイスと、テフロンダイスがあるんだ!金属ダイスは押し出し口の穴が文字通り青銅などの金属で作られていて、テフロンダイスは押し出し口がテフロン加工されているんだ!」

「それが出来上がりに影響するんだな!」

「うん、金属ダイスで作られたスパゲティは表面がザラザラと凹凸があって、水を吸いやすく、テフロンダイスのスパゲティは表面がツルツルなんだ!」


「食感へは、どの様に影響するんでしょうか?」

「金属ダイスのスパゲティはモチモチした食感でソースにからみやすく、テフロンダイスのスパゲティはツルっとした食感なんだ!なので、一般論としては、サラッとしたソース、たとえばペペロンチーノなんかのオイルパスタとか、ボンゴレ・ビアンコなんかはテフロンダイス、ボロネーゼ、いわゆるミートソーススパゲティなんかは金属ダイスのスパゲティが合うと言われているよ!」

「どのメーカーがどっちかは、書いてあるのか?」

「残念ながら書いてないので、水色のパッケージのイタリア産パスタは金属ダイス、国産のスパゲティはテフロンダイスくらいに覚えておいて、あとはネットで調べるのがいいよ!イタリア産でもテフロンダイスのスパゲティもあるからね!」


「それで、今回はどうするんでしょう?」

「まぁ、僕の好みもあるけど、金属ダイスのスパゲティのNo.11、太さ1.6㎜で作ることにします!」


「ところで、茹で始めてもう4分たってるけど、喋ってていいのか?」

「やばい!!!早くソースを仕上げるよっ!!」


 今回はクマイさんがアサリを大量に買ってきたので全部下処理済だったのが幸いした。殻付きのアサリを開かせるところからの工程だと完全に時間オーバーになるところだったので、今回はギリギリセーフだ。


「さっきのにんにくを炒めた油のあるフライパンで、玉ねぎを軽く炒めて、しんなりしたらアサリエキスと白ワイン、トマトソースを入れて沸かしていくよ!」

「だいたい、しんなりしてきたな!」

「じゃあ、アサリエキスと白ワイン、あと、レトルトのトマトソースを入れましょうねぇ!」

「トマトソースは自作しねえのか?」

「うーん、作ってもいいんだけど、価格と手間を考えた時に、市販の「基本のトマトソース」的な名前のソースの出来がけっこういいので、それを使ってるね!ただ、フレッシュ感だけは失われてるから、生のフルーツトマトを後でいれるよ!」


「ふつふつと、沸いてきましたねぇ……」

「そうしたら、刻んだフルーツトマトを入れて!」

「入れたぜ!」

「軽く火を通して、味を見て、塩味を調整して!」


 アサリは個体によって塩味が異なるので、最終調整が必ず必要となってくる。これは、どの料理をするにしても同じなので、ぜひ注意してほしい。ちょうどトマトに軽く火が通ったあたりで、タイマーが鳴った。


「じゃあ、茹で上がったスパゲティをフライパンにいれて!」

「おう!」

「このタイミングで、剝きアサリもいれるよっ!」

「はい!剥きアサリです!」


 火を弱火にしてスパゲティとソースを絡め、皿に盛っていく。できたスパゲティの上にカリカリにしたにんにくをトッピングして完成となる。


「じゃあ、試食しよう!」

「アサリのコハク酸の旨味と、トマトのグルタミン酸の旨味の相乗効果で本当に美味しいですねぇ!!」

「クマイさんらしい感想だね!」


「生のトマトがいい感じにだぜ!」

「試しに生のトマトを入れないで作ってみるとわかるけど、なんかナポリタンみたいになってちょっとB級感が出ちゃうので、ぜひフルーツトマトかプチトマトを入れてみてね!フレッシュな酸味が出てお店の味感がアップして美味しいよ!」


 ……と、いうことで今回は少し焦ったが、なんとかボンゴレ・ロッソが完成した。作りたい方はわちゃわちゃした本編でなく、以下のまとめを参考にしてほしい。



【作り方のまとめ】


材料(2人前)

・殻付きアサリ 200g

・白ワイン 50㎖

・スパゲッティ 200g

・玉ねぎ 1/4個

・フルーツトマト 1個

・にんにく 2片

・トマトソース(市販品) 100㎖

・オリーブオイル 適量

・ゆで汁または水 濃度を見て適量

・塩 味をみて適量


 大鍋にスパゲティを茹でるための湯を沸かす。


 湯を沸かしている間に玉ねぎを薄切りにスライスし、にんにくもスライスする。


 フライパンにオリーブオイルをひき、にんにくを炒める。にんにくは火を止めたりつけたりしながら余熱で火を入れていき、キツネ色になるまで炒め、キッチンペーパーの上にあけておく。


 オリーブオイルの残ったフライパンに殻付きアサリをいれ、白ワインをいれて蓋をし、強火で蒸す。アサリが開いたら一回取り出しておく。


 大鍋の湯がわいたらスパゲティをいれ、既定の時間でタイマーをかける。


 フライパンに玉ねぎを入れてしんなりとなるまで炒め、トマトソースを入れる。


 フルーツトマト(またはミニトマト)をダイス状に切り、フライパンのソースが沸いたら投入し、軽く火を通す。


 ソースの味を見て、塩味と濃度を調節する。塩やスパゲティのゆで汁を使って好みの塩味と粘度に調節する。


 スパゲティが茹で上がったらフライパンに入れ、弱火にしてソースと絡ませる。


 皿に盛り付け、炒めたにんにくをトッピングして完成。

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