第4話 アサリの下処理

 さて、4回目のレシピを何にしようかと考えていたところ、丁度クマイさんが帰ってきた。


「クロジさん、ボク、大変な事を……」

「どうしたのクマイさん!」

「夜の7時過ぎにスーパーに行ったら、アサリが全然売れてないみたいで、50%引きになっていたんです。これは安い!と思って、思わず全部買ってきてしまったんです……」

「うわっ!ずいぶん買ってきたね!」

「どうしましょう……」


「大丈夫、大丈夫。じゃあ、アサリ特集ってことで、今回から和・洋・中のアサリ料理を紹介していこうか!今回は基本の下処理編ってことで!」

「助かります、うぅ……」

「クマイ!泣くな!」


「とりあえず、アサリを砂抜きしていくよ!」

「どうすればいいんだ?」

「まずは、海水に近い濃度の食塩水を作っていくよっ!」

「海水の食塩濃度は、だいたい3.5%ですよねぇ!」

「だいたい水道水500㎖にたいして、塩大さじ1杯(15g)くらいで海水程度になるので、この分量で作っていこう!」


 プラスチック製の1ℓ計量カップで水を計り、大さじ2杯の塩をいれて混ぜ、食塩水を作ると、僕はバットを取り出した。


「バットにアサリを敷きならべて、アサリの7~8割くらいまで水を入れるんだ!」

「いれたぜ!」

「そしたら、新聞紙とか、プラスチックのトレーとかを上に置いて暗くしてね!」

「これは、なんでなんですか?」

「暗い方がアサリが活発に活動するから、砂を吐きやすくなるよ!このまま一晩、放っておくので、また明日続きをやろう!」


                ★ ★ ★


 夜中に尿意をもよおしてふと起きたおれことクロイは、深夜なので迷惑にならないように静かにリビングを通って便所に向かい、所用をすませると洗面所で手を洗った。そのとき、ふとバットの中のアサリがどうなっているのか気になり、iPhoneのライトをつけると新聞紙をめくってバットの中のアサリをのぞきこんだ。


「うおっ!すごいな!」


 開けてみると、アサリは出水管と入水管と呼ばれる2つの穴があいた部分と、いわゆる「足」と呼ばれる部分をびろーんと伸ばしていた。夜になって行動が活発化してるのだろう。バットの水にはアサリが出したと思われる排せつ物がたまっていた。


「なるほど、コイツを吐き出させるんだな……」


 夢中になって観察していたところ、アサリの出水管からすごい勢いで海水が噴出され、おれの眼に直撃した。


「うわっ!」


 思わずリビングで大声をあげると、クロジとクマイが飛び出してきた。


「兄貴!どうしたの?」

「闇バイト強盗かと思って、クマよけスプレーを持ってきたんですが、大丈夫ですかねぇ?」


「……いや、すまねえ、夜中に便所に行ったついでにアサリを観察してたら、眼に塩水を浴びせられちまって……」

「このやり方だとアサリが凄く活発化するからね!」

「ところでクマイ、なんでクマよけスプレーなんか持ってるんだ!」

「いや、最近は物騒ですから、護身用にと思いまして……」

「クマがクマよけスプレーを持つようなご時世になったんだな……ところで、クロジは何を持ってるんだ?」

「あ、これは出刃包丁だよ!闇バイトが来たらポトフにしてやろうかと思って!」

「………………」


                ★ ★ ★


 翌朝、僕たちはアサリを塩水からあげると、たわしで表面をきれいに磨いた。


「けっこう、汚れがついてますねぇ……」

「地味に手間がかかるぜ……」

「美味しさのためだから頑張ってね!」


 洗ったアサリをフライパンに並べ、水を5~7㎜程度はって、蓋をして強火にかけていく。使う料理が決まっていれば、和食なら日本酒、洋食なら白ワイン、中華なら紹興酒を入れて煮ていくが、今回はあとでお酒を加えることにする。


「一気にいくよっ!」

「アサリさん、申し訳ありません……」

「一気に行く方がいいだろうな……」


 3分ほどたって、言ったんふたを開けて開いているものをフライパンからバットに取り出していく。


「なかなか開かない貝はまた蓋をしていくよっ!」

「開いた貝はボクたちで殻を外していきましょうねぇ!」

「意外と難しいな……」

「貝柱で貝殻と身がくっついているから、先端の細い調理ばさみで貝柱を切るといいよ!」

「なるほど、こうすると簡単にはずれるぜ……」

「クロイさん、クマの手で器用に料理ばさみつかいますねぇ……」


 残ったアサリも全部開いたので、火を止めてすべてのアサリを身と殻にわけた。


「スパゲッティとかも、殻は入れなくていいんですかねぇ?」

「お店で作るなら見栄えがするから殻はいれるけど、家庭だったら外した方が食べやすいよね!」

「確かにそうだな。手も汚れないしな」


 と、いうわけでアサリのむき身と、フライパンに残ったエキスができた。


「エキスは、結構濃厚ですねぇ!」

「ちょっと苦くないか?」

「濃すぎる場合は、調理の時に水を加えていくよ!水で薄めれば苦さをかんじなくなるからね!」

「で、ここからは次回以降なんです!」

「そうだね!むき身とエキスは別々で冷蔵庫で保管して使っていこう!冷凍もできるので、冷めたエキスとむき身を別々に冷凍しても大丈夫だよ!」

「冷凍の場合は、だいたい1カ月くらいで使ってくれよな!」


【作り方のまとめ】


材料

・アサリ 200g

・水 200㎖

・砂抜き用の食塩水(水500㎖に対して塩大さじ1)


 水500㎖に塩大さじ1をいれ、食塩水を作る。


 バットにアサリを並べ、アサリの7割くらいまで水につかる感じで食塩水を注ぐ。新聞紙やトレーなどで蓋をして1時間以上砂抜きする。


 たわしや歯ブラシなどでアサリを洗う。


 アサリをフライパンにならべ、水200㎖を注いで強火にかけ、ふたをする。


 3分くらいたったら開いているアサリを取り除く。開いていないものは引き続き火にかけ、開くまで加熱する。


 アサリの身とフライパンに残ったエキスをわけて、冷蔵庫で保存する。


 





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