第1話 クロジハンバーグ
さて、このレシピ帖を始めるにあたって、第一回目のテーマは何にするか、僕は色々と考えてしまった。どの料理も思い入れがあるし、確かにその中でもこれは良いな、と思うものも幾つかある。でも、それが何か絞り込むのが難しいのだった。考えてしまった僕は、月並みだが身近で頼れる二人に相談してみることにした。
「……って、ことなんだけど、どうしようかなと思って」
「クロジハンバーグでいいんじゃないですか?」
「ああ、おれもクロハンでいいとおもうぜ」
「クロジハンバーグはえらい人気だけど、なんでかな?」
「やっぱり、『どうぶつクエスト』でも一番最初に登場した料理ですし、クロジさんを代表する味じゃないかと思うんですよね……」
「シンプルに旨いし、ほどよく難しさもあるから学習用には良いと思うぜ……」
「僕もクロハンがいいかなと思ってたんだけど、みんな一緒なんだね! じゃあこれで行こう!」
と、言うわけでこのレシピを紹介することになった。ハンバーグとはいっても牛豚は使わず、鶏のもも肉のひき肉を使うので「つくね」に近い感じだが、ハンバーグ風のサイズに仕上げるのがこのレシピの特徴である。
「とりあえず、作り方を紹介していこうかな!」
「まず、材料を頼むぜ!」
材料
・鶏ももひき肉 400g
・れんこん 200g
・塩 3.6g (全体量の0.6%)
・黒胡椒 適量
・化学調味料 適量
「以上だよ!」
「シンプルですねぇ……」
「旨いからもっといろいろ使ってるのかと思ったぜ!」
「けっこう、何種類も試してみて、これがベストだったんだ、ショウガ入れたり、塩をお醤油に変えたり色々試したけど、結局これに帰着しちゃったんだ!」
「シンプル・イズ・ベストですねぇ!」
「で、まずつくり方なんだけど、鶏ももひき肉をボウルにいれて、分量の塩をまぶします。そうしたら、すりこ木か何かで突いて、粘りを十分に出してね!」
「なんで手ごねしねえんだよ?」
「手ごねすると、手の温度がひき肉に伝わって、これが悪影響を及ぼすんだ!」
「こねる意味はですねぇ、筋原線維タンパク質のミオシンとアクチンが混合されることで、アクトミオシンという物質になって、これが粘りのもとになるんですねぇ!」
「さすがクマイさん。フォローありがとう!」
「塩を入れるのもミオシンの溶出を加速させるためなんです!」
「うん、それで、手ごねするとひき肉の脂肪分が溶け出してしまい、アクトミオシンの形成を阻害するのと、溶けた脂肪分が生臭さを放つからなんだ!」
「いつもながら理屈っぽいぜ……」
どこまでこだわるかによるが、冷蔵庫であらかじめボウルに移したひき肉を冷やしておき、冷えた状態からすりこ木で突いてつぶしていく。肉は徐々に粘り気を増し、すりこ木で突くのが大変なくらいになってきた。
「じゃあ、ここでいったん肉は冷蔵庫にもどそうね!」
「季節によりますが、出来るだけ冷やした状態をキープしたいぜ……」
「じゃあ、次はレンコンのみじん切りだよ!」
「これは細かくした方がいいんですかねぇ?」
「いや、クマイさん、これは食感が大切だから、3から5mm角くらいの荒いみじん切りでいいよ!」
「細かくしすぎたら、せっかくのアクセントが無くなっちまうってわけだな!」
「最初にピーラーで皮をむいて、すこし酢水につけて、最後に真水で洗ってからみじん切りにしてね!」
しろうとなのでぎこちないが、兄貴とクマイさんが手分けしてレンコンをみじん切りにしていく。時々効率的な切り方などをアドバイスするうちに、レンコンのみじん切りが完成した。
「うっし、できたぜ!」
「じゃあ、冷蔵庫のひき肉を出して、黒胡椒を振って木べらで混ぜ合わせてね!化学調味料を振る場合はこのタイミングで」
「もちろん、レンコンのみじん切りを先に作っておいてもOKですからねぇ!」
「手順的にはそっちの方が自然かもね!とくに暑い季節はできるだけひき肉を冷やしておいてね!」
「焼くまでは熱が大敵だな!片栗粉とかのつなぎは要らねえのか?」
「十分にアクトミオシンが出来ればしっかりとした粘りが出るから、特につなぎは要らないよ!好みでいれたければ片栗粉でいいと思うよ」
木べらでレンコンのみじん切りを丁寧に混ぜていく。一気に入れると混ざりにくいので、三分の一くらいずつ混ぜていくのがポイントだ。この時も、熱が伝わらないようにするのがポイントである。ボウルの下に保冷剤を置いたりするのもいい考えだ。
「つぎは、成形工程に入るよ!」
「ここはさすがに手ですか?」
「熱が伝わらないように、これを使うよっ!!」
そういって、僕はドラえもんばりにエプロンのポケットに手を突っ込み、おもむろに軍手を取り出した。
「軍手じゃねえか!」
「現場作業するんですか?」
「これを利き手と反対側にして、その上にサランラップを載せるんだ。その上にゴムベラでタネをすくって、ゴムベラで成形するんだよ!」
「こうすると、手の熱が伝わりにくいんだな!」
「クロジさん……」
「ん、クマイさんどうしたの?」
「クマの手で、器用に作りますねぇ……爪もあるのにラップも切れず……」
「クマイさん、そう言う発言はイエローカードね!(笑)」
「おっと、すみません(笑)」
などと言いながら全員で作業をすすめていく。餃子なんかもそうだが、みんなでワイワイ料理をするのはなかなか楽しい。
「おれも作れてきたぜ!」
「出来たら、バットに並べておいてもいいし、直接テフロン加工のフライパンに置いてしまってもいいよ!」
「成形ができたら、あとは焼くだけですねぇ!」
「まあ、焦らないで。最後にフライパンの上に並べたら、ゴムベラで丁寧に形を整えて、最後に火をつけていくよ!」
「期待が高まるぜ……」
フライパンをコンロに載せて、火をつける。鶏もも肉から脂が出るので、テフロン加工のフライパンならば油をひく必要は無い。火は弱めの中火で、フライパンに蓋をして焼くことで十分に火を通すようにしていく。
「いい匂いがしてきましたねぇ!」
「最初は8分焼いていくよ!固まってきたら、途中で焼き色を見てチェックしようね」
「なんか、腹が減ってきたぜ……」
頃合いをみて裏返し、今度は5分焼く。焦げ目を確認しながら焼いて行き、焦げ目がしっかりと着いたら火を止める。蓋をしたまましばらく置き、中まで火が通るようにする。
「連続で焼く場合は、面倒だけど焦げた脂があるから、一回一回フライパンを洗う方がいいと思うよ」
「とりあえず、食べてみようぜ!」
皿に取り、付け合わせの野菜を載せる。今日は和風な盛り付けで、備前の角皿にクロジハンバーグを載せ、小松菜のおひたし、きんぴらごぼう、南瓜の煮つけを取り合わせて盛り付けた。
「さあ、食べてみよう!」
「この旨味がたまらねえんだよな……賛否両論あるとおもうが、化学調味料を入れると旨味が強く出て食べ応えあるよな……」
「鶏もも肉だからジューシーですし、シャクシャクとしたレンコンの歯ごたえがたまらなく美味しいんですよ……」
「黒胡椒がアクセントになってるんだよ!この料理、けっこう御馳走感あるし、冷めても美味しいから、お正月にはおせちの一品にもいいと思うよ!」
「普段のおかずにも最高だし、ちょっとしたパーティーメニューにもなるな!」
「……で、実際にレシピとして活用するには僕たちの茶番は邪魔だと思うので、ラストに材料と手順をまとめる形式にしようと思うんだ!」
「それは便利ですねぇ……」
「料理してる最中に『クマの手で良く器用に……』とかいう下りは邪魔だろうしな!」
「ところで、この塩味の調整なんだが……」
「今回は0.6%にしたけど、この味付けだとわりと大人しいと言うか、やさしいご家庭の味みたいな感じになるね!」
「居酒屋さんみたいながっちりした味付けにはどうするんですか?」
「全体量の0.8%に塩を増やすと、ガッツリと旨味と塩味を感じて、お酒が進む感じになるよ!」
「おせちとかはハレの日だから強めの塩分で旨味を強く出してもいいかもな!」
「状況に応じて塩分を変えるのは料理の面白い所だから、ぜひいろいろ試してほしいね!」
なんだかんだ、第一回が終わった。これでいいのかわからないけれど、僕はこれからもレシピ公開を続けていきたいと思った。
「とりあえず、こんな感じで徐々にレシピを公開していくので、また次回もよろしくお願いしますね!」
【作り方のまとめ】
材料
・鶏ももひき肉 400g
・れんこん 200g (鶏もも肉の半分)
・塩 3.6g (全体量の0.6%)
・黒胡椒 適量
・化学調味料 適量
ピーラーでレンコンの皮をむき、酢水にさらす。酢水を真水で洗い落としてから、レンコンを3~5mmのみじん切りにする。細かすぎるとレンコンの食感が失われるので粗みじんが良い。
鶏ももひき肉は冷蔵庫にいれておく。出来ればボウルも冷やしておく。塩を加えてすりこ木などで突く。突いていると粘りが出てくるので、十分に粘りが出るまでしっかりと突く。季節によってはボウルの下に保冷剤を置いても良い。
鶏ももひき肉とレンコンのみじん切りをあわせ、黒胡椒と化学調味料を振る。レンコンのみじん切りは3回程度にわけていれ、木べらで十分に肉と混ぜ合わせ、タネを作る。
利き手と反対側の手に軍手をし、その上にサランラップをかける。ゴムベラで100g程度のタネを載せ、ゴムベラで成形する。成形したハンバーグはバットに取るか、直接冷えたフライパンに置いてしまう。
フライパンに火をつける。弱めの中火にし、蓋をして加熱する。8分程度加熱するが、5分を過ぎたら焼き目を時々確認し、焦げないように注意する。
焼き目がついたらハンバーグを裏返し、5分程度焼く。焼き目を確認しながら火を調節し、十分に焼き目がついたら火を止める。このとき、フライパンは蓋はしたままとする。
5分から10分程度、肉を休ませる。この間にも余熱で調理されるので、生焼けになることを防ぐ。(もし生焼けならば、電子レンジで加熱してリカバーできる)
付け合わせの野菜と共にさらに盛り付ける。
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