第二話 "探索開始"

黒に塗装された壁紙から古臭い

匂いが少し溢れてくる。

4つの机が並んだ部屋の奥、一際豪華な

作業机を前にして、事務用椅子に背を預ける。


黒のコートに身を包み、紫のメッシュが

入った長髪を肩まで流したその男は、

1組織のトップを務めるには相応しい

風貌をしている。


何分たったかも忘れてしまいそうな憂鬱に

貧乏ゆすりをしながら毛先を弄っていると

突如、着信音が割り込んでくる。


それに気づいた男は、すかさずトランシーバー

を持ち出して連絡を繋げる。


『ただいま戻るぜー』


音質の悪い機械からぶっきらぼうに

言葉が飛んでくる。

男はトランシーバーを机に置き、

豪華な部屋を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


建物のホールと思われる場所に、仰々しい

開閉音が響く。

やけに巨大な玄関扉を押し開けて

少女と男が入ってくる。


男が足を踏み入れた時、ホールに

集まっていた者達が嬉しそうに声を上げる。


「日鞠さん!お疲れ様です!」


仕事仲間から労いの言葉をかけられ

手を振って返す。


「日鞠ナタ」


この組織ではいい意味で有名な男であるため

仲間からの信頼が厚い。


集まってきた群衆を掻き分けて

2人が奥の扉に向かおうとした時、

目的の扉が開いて、奥から人が出てくる。


男は賑やかな場所に似合わないような

コートを、鬱陶しそうに引きずりながら

2人の元へ近づいて行く。

手の届く距離まで近寄った男が、

体制を崩しながら少女に飛びかかる。


「よく帰ってきたな!リオウ!」


飛びついた勢いで床を数メートル引きずって

からスピードが落ち着いていく。


「リオウ」と呼ばれた少女は面倒臭そうに

手を払い除け逃げるように立ち上がる。

それを追いかけて立ち上がった男に

足払いをかけてから床に叩きつけ絞め落とす。


「俺は何もなしですか」


その横でゴーグルを回していた男は

2人の戦いを楽しそうに眺めながら軽口を

叩く。


「お前よりリオウの方が心配なのよ」


有り得ない方向に肩を曲げられている男は

特に気にしない様子で涼しげに返答する。

それを見たリオウは、その状態から

回転し男を蹴り飛ばす。


モミクチャになっている2人を引きずりながら

ナタは奥の扉を蹴り開ける。


「すいませんでしたねー。皆さん。」


冗談交じりに声を飛ばしそのまま

奥の部屋へ向かって歩き始める。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


3人が会議室の扉を開け中に入ると

奥からマーカーが凄い勢いで飛んでくる。


リオウとナタは首を傾けて避けるが

後ろから歩いてくる男の顔面に直撃する。


「リーダーロク。貴方がリーダーなら

それらしい行動をとって頂きたい」


捻れているが綺麗に整った黒髪に

伊達メガネを付けたスーツの男が

ロクに悪態をつく。


ロクと呼ばれた男は、弁解しようとするが

それよりも先に説教の言葉が続く。


「タイムオーバーです。TPOは守って頂きたい」


ひとしきり言いたいことを言い終えたのか

スーツを整えつつ元いた位置に戻る。


「まず、私の自己紹介をしましょう」

「名前は伊豆カゲリ。丁度1週間と2日前に

この組織に入りました」


簡潔に説明したカゲリは手に持っていた

資料を見始めたため、ロクが申し訳なさそうに

会話を続ける。


「俺と会うのは初めてだよね」

「そうですね。お会いできて光栄です」


「…仕事は慣れてきた?」

「万事順調です。お気遣い感謝します」


「……………………」


絶望的なほど続かない会話の

キャッチボールに対してロクが自分の

人間性を疑い始めた頃に、会話を始める。


「本日集まっていただいたのは、

御三方の実力を必要とする案件が

舞い込んできたからです」


その言葉を聞いた3人は少し顔を顰めて

話の続きを待つ。


「今回の事件は花見市の西側、未探索の

廃墟がある区域で発生しました」


「何でも、『気絶した4人の男が廃墟の

方向から飛んできた』とか」


カゲリは後ろのホワイトボードに廃墟の

写真を貼りながら話し続ける。


「そこの廃墟探索か」


事情を把握したナタが話しかけた言葉を

肯定し作戦の内容を話し始める。

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黎明メラン 熱気球 @ayato0227332

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