黎明メラン
熱気球
第一話 "廃墟の街"
ザッ、ザッ、と砂利を踏みしめる音が
辺りに響き渡る。
人々が生きて、生きて、生きて、ついに
使われなくなった廃墟の街。
音すらも飲み込まんとする静寂が、崩れ
消えた街と家に満ちていく。
そんな並々ならない雰囲気を纏う街に、
防護服やガスマスクなどの装備を着た
者達が、割れたコンクリートを踏みながら
入っていく。
その内の1人が隊列を外れ、崩れた一軒家
に向かって歩いていく。
家の中に入った男はガスマスクを外し
廃墟となった家の中の探索を始める。
少し時間が経ち、日が沈み出す。
男は隊列に戻るために、所々穴の空いた
階段を降りていく。
1階に到着した男は、取り逃したものが
無いか廃墟内を見回す。
ひとつの勉強机が目に入った時、その
勉強机から何かをぶつけたような音が鳴る。
叩き折れた角材を退かしながら勉強机
の中を覗こうとする。
瞬間ザッと埃の擦れる音が聞こえ、
勉強机の下から長い紫髪の少女が
白い翼の鳥を抱きしめながら這い出てきた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
辺り一面に砂ぼこりが舞う荒野。
先端が折れ曲がり、錆び付いた鉄骨に座り、
足をフラフラさせながら、暇そうに空を
見上げる。
ここは電気自動車の製造工場。
数ヶ月前に火災が発生し、見捨てられた
廃工場。
そこにあるはずのないガタガタと言う音が
耳障りなくらい辺を覆い尽くす。
少しの間何かを探す音が鳴ったあと、
音がやんですぐに1人の男が鉄骨に登ってくる。
「探索は終わりましたか」
先に鉄骨に座っていた紫髪を結んでいる少女が
ぶっきらぼうに言葉を放つ。
「悪ぃな、付き合わせちまって」
オールバックの額に焦げ茶色の
パイロットゴーグルを付けた男がヘラヘラと
返事をする。
「めぼしい物は大抵漁れたかな」
パンパンに膨らんだ黒いバックパックを肩に
担ぎながら、軽々しく鉄骨を登っていく。
少女の横に座りバックの中の物を物色し始める。
「そのバックパック、ここで見つけたんですか」
少女の呼び掛けにも応えず
バックパックの中に入れたスクラップや
歯車を顔に近づけてマジマジと見つめている。
「そろそろ日も落ちてくるので戻りましょう」
男に聞こえるように一言呟いたあと
鉄骨から飛び降りた。
重力に引っ張られ、風に押し出される。
少女の結んだ髪が風に揺れている。
ブワァッと砂ぼこりが舞い辺りに蔓延
していく中から、純白の羽根が土煙を貫き
槍のように飛び出す。
腕から翼を生やした少女は、さっきまで
座っていた鉄骨へ向かって急上昇していく。
翼が廃工場の屋上を超えたタイミングで
ゴーグルを掛け直した男が、ロープを掴んだ
少女に引っ張られる。
「毎回ありがとね、本当助かる」
軽口を叩く男を横目に、翼は前を見据えてから
勢いを増していく。
翼に引っ張られる男は、帰還を連絡するため
腰の装備に付けたロープに体を預けながら
少女から渡されていたトランシーバーを
使い無線を繋げる。
砂塵に溺れた廃工場の遙か上空で
巨大な白い翼が少しばかり意気揚々と
空の旅を続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます