ナナの手紙

ヤマシタ アキヒロ

第1話

  ナナの手紙



手紙なんて

時代遅れの

面倒なもの

書く人の

気が知れないよね


ナナはそう言って

友人のミカと

改札で別れた

「つづきはラインで」


それはミカの祖母が

田舎から送って来る

丁寧な手紙への

冷やかしであった


ミカも本当は

そんなお祖母ちゃんが

大好きなことは

顔を見れば分かった


だからナナも

安心して

古くさい人間を

笑うことが出来た


やがてラインが

一段落して

スタンプで

締めくくる

「また学校でね」


ナナがベッドに

横たわると

途端にもう一通

ラインが鳴った


ヒロトからだ

ナナは飛び起き

目を輝かせ

画面を見つめる


ヒロトはナナの

はじめての彼氏だ

付き合って

二ヶ月になる


胸をときめかせ

ラインを開くと

ゴメン、で始まる

無機質な文字


ゴメン

ナナとはやっぱり

合わないみたいだ

友だちから

やりなおそう


ナナはスマホを手に

茫然となった

これって、つまり

フラれた……


涙は

あとからあとから

にじむように

涌き上がる


食事のテーブルでも

母と二人きり

温かい料理に

箸が進まなかった


見かねた母は

しゃくり上げる

ナナに向かって

こう誘った


ナナ

今夜は久しぶりに

ママの部屋で

一緒に寝る?


ナナの家は

母子家庭

女手一つでママは

ナナを育て上げた


ナナは母の胸に

うずくまり

赤子のように

泣きじゃくる


ママは努めて

笑顔を作り

言い聞かせるように

こう言った


ナナ ごらん

あなたが小さい頃

ママに書いてくれた手紙

ほら ずっとあそこに

飾ってるのよ


見ると

箪笥の上の飾り棚には

たどたどしい文字で

書かれた手紙――


ママ

いつもありがとう

おりようり

とつてもおいしい

です

ナナより


「ママはね、ずっとあの手紙に

 励まされてきたのよ

 あなたのおかげで

 がんばってこれた」


ナナちゃん ありがとう……

そう言ってママは

もう一度強く

ナナを抱きしめる


ナナは自分が書いた

下手クソな文字に

思わずクスリと

笑ってしまった


そして頬を伝う

あたたかい涙を

もう一度母の胸に

こすりつけた


        (了)

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