第4話 ルルの呪い

「僕の一族の女性は全員巨乳なんだ。親戚が集まると、例外なく胸が大きくて異様な世界だよ」

 マヤが吹き出した

「真顔で何をいうんですか?」

「これは呪いだと思う」

 冗談でないことを悟ったのか、低い音調の声質に変わる

「どうしてそう思うのですか?」

「ざっくり例えると、10円玉を財布から取り出して机の上に置いたとき、繰り返して2回とも平等院でも不思議には思わないが、10回とも平等院だったら、何かがおかしいと思う。

 遺伝を疑うとしても、僕はどちらかといえば胸が小さい方が好きだし、身内も胸の大小に執着するような言動はないんだ」


「そう言われますと、確かにおかしいですね。

 ところで、さっき話して頂いた高校の方はどちらの分類でした?」

 マヤは察しのいい女だと思った。要は呪いに従って別れたのかということだ


「どうだったか、そういう関係にならなかったから、気にならなかったな」

「姉と同じ分類だったんですね」

「僕の統計だと、女性の胸を気にしている男は20%位だよ。

 でも女性にとってはかなり重要事項なんだろう」


「そうですね。ルル姉ずっと胸が小さいこと気にしています。

 私の母親は結構豊かなのに何故遺伝しなかったって、しばしば零します」


 マヤは腕を組んできた。表情を探るマヤは意外な言葉を発した

「どうです?私の胸は」

 僕は軽い溜息を吐き

「女性に胸の話はできないよ

 男以上に敏感な話題は、友好関係を簡単に壊すからね

 この話題をしたことに後悔した」

「篁さんはとても頼もしい方ですね。こんなことをしても、動揺していない」

「動揺しないということは

 そういう免疫があるというだけのことだ」


「で、私の質問の答えは?」

 マヤも動揺していないようだ

「マヤはお母さんの血を引き継いだってことか」

「まだ、伸び代があります。篁さんにとっては好みではないかも知れませんが、篁さんの”家”にとっては余計な心配をしないで済むでしょう」

「はっきり言うんだな。でも女性と胸の話はしたくない」


「じゃあ、免疫の話をして下さい。

 タダでとは言いません。代わりにルル姉の秘密を提供します」

「ごめん。ルルの秘密はマヤからは聞けないよ」


「篁さんは祟りとか呪いとか信じますか?」

「殆どは嘘だけど、0.3%位は実際に起きていると考えている」

「具体的に数値化されているのですね。とても説得力があります。

 実はルル姉が高校のとき、告白した人がデートの前に不慮の事故で亡くなったんです」


 黙って続きを聞くことにした。マヤは絡めた腕を解き、手を繋いできた

「やはり、姉が見込んだ人ですね。こんな話をしても少しも動揺していない」

「マヤは悪い女性だね。お姉さんの秘密を簡単に他人に話すものじゃないよ」

「他人ならばね」

「もう僕は他人じゃないんだな」

 マヤは静かに頷いた。今、マヤの定義を聞くつもりはない


「ルル姉、やっと気持ちに整理がついて、次の恋を始めようと思ったようです。

 でも、その人もデートに誘う前に事故にあってしまったのです。その人は大事に到らなかったのですが、ルル姉はすっかり参ってしまって、男性を避けるようになったんです」


 マヤの手を手繰り寄せた

「ルルの性格なら、自分が悪魔か何かだと思っているのかもしれないね」

「ルル姉、大学に行ってから、身なりとか気にするようになったから、聞いたら篁さんのこと話してくれたのです。ルル姉も誰にも話せず苦しかったのだと思います」

「そんなことがあったから、自分から誘いたくなかったのだろうな。

 学祭の時にでもルルを誘ってみるか」


「最初はルル姉を助けたいと思ったんです」

 マヤはそのまま沈黙して、繋いだ手に力を入れた


「ありがとう。正直な気持ち」

「私、もうどうしていいか分からないです」


「ルルが帰って来ちゃうから、手を繋ぐのは美術館まで我慢しようか」

「はい」

 そう言って、手の甲を撫でた後カップに手を戻した

「飲み物、取りに行こうか」

「はい」


 歩きながらマヤの質問に答えた

「”免疫”のその人は、あの事故で僕が助けた人」


 事故で助けたのは親戚の1歳違いの女の子だった。神社のお祭りで示し合わせた訳ではなく、偶然居合わせただけだった。

 神社の古木が何の前触れもなく、根元から倒れた。無我夢中で親戚の子に覆い被さった。そのまま倒れた木の枝に直撃されて気を失い、気が付くとそこは病院で、事故から3時間が経過していた。


 僕の目の前にいた女性が亡くなった話は、事故の数日後聞いた。一緒にいた女性も意識を戻していないという。彼女たちに手を伸ばせば状況から見て誰も命を落とすことはなかったのかもしれない。あのとき僕は、偶然居合わせた身内を助けることを咄嗟に選択したのだ。


 親戚の子は祖父同士が兄弟で再従兄妹はとこつまり6親等の血族に当たる。ちょうどタラちゃんとイクラちゃんの血縁関係である。日本の法律ではいとこ(3親等)より血が遠ければ結婚が可能なので、交際には何の問題もなかったが、高校時代は近親相姦とかロリコン揶揄された。


 揶揄というよりひがみであろう。胸の大きい美女が僕に子犬のようになついていたのだから。


 彼女は僕を追って同じ高校に入り、常に積極的な接触アプローチを受けて、根負けする形で交際に到ったのだ。”免疫”というのが積極的な接触アプローチである。


 ドリンクバーから帰ると、ルルが席に戻っていた。指で指図マヤを対面に座らせると椅子を叩いて隣に座れと促す


  「ルルの隣に座れるなんて光栄だな」

 座るとルルははっきりとした口調で告げた


「タカが秘密を話してくれるなら、さっきの誘い受けてもいい」

〈つづく〉

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ハロウィンの仮装 ひとえだ @hito-eda

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