第2話

 空間の歪みが直ると室内にワープしていた。

 昔の石の建物に見える。

 王冠を被った中年の男、そしてその周りにはたくさんの人がいた。

 王の付き人達だろう。


「おお! 転生者殿、やはりあの夢は女神様のお告げであったか」


 室内にいるみんながざわめく。

 中には女性同士で泣きながら抱き合って喜ぶ人もいる。

 これで国が救われるとか雲行きが怪しい事を言っている。


「えっと」

「失礼した。私はウインドベル王国の王、カンチガ・コミュニだ」


 握手をする。


「僕の名は、ナリユキです」

「私はピュアだよ」

「おお! 妖精を連れている! 古来からの言い伝えにある通り、妖精を引きつれし者は聖なる心を持っている!」


 王の周りにいた人も話し始める。


「妖精を肩に乗せている! 聖人君子に違いない!」

「転生者様は心がきれいなのね」

「妖精を引きつれし者、すべからく善人なり、子供でも知っている事だ」


「……んん?」


 ピュアが僕の肩に乗ったまま言った。


「妖精はあまりにも神聖で純粋で優しく清らかな存在だよ!」

「ええ!?」


 どの口が言うの?

 その自信はどこから来るんだ?


「妖精は自分に似た人にしか懐かないから私を連れているナリユキはかなりの善人だね」


 ピュアが胸を張った。

 突き出したバストに意識を持って行かれそうになるけど強引に思考に戻す。

 頑張った自分を褒めてあげたい。


 いやいや、待て待て。

 こいつ、かなり怠惰な性格だよね?

 僕は自分がそこまでいい人間とは思わない。

 妖精を連れている=聖なる心を持っている=聖人君子、これがそもそも間違っている。

 こいつかなり堕落してるから。


 それとだ、僕とピュアの違いが分かった。

 僕は自分の薄っぺらい性格を知っている。

 でもピュアは自分の事を真人間だと思っている。

 あの自信はどこから来るんだ?


 周りにいた王の付き人が更に話を続ける。


「ナリユキ様から凄まじい魔力を感じます。騎士様よりも、凄い」

「どれほどの鍛錬を重なればあれほどの魔力を得ることが出来るのか、我ら凡人には見当もつきませんな」

「ナリユキ様はきっと自分に厳しくて他人にはお優しいんだわ」

「これでこの国は救われるだろう」


 僕はピンと来た。

 魔力が高い=苦しい訓練を耐え抜く努力が出来る人間なんだろう。

 でもこれ、女神様に貰ったチートなんだよなあ。

 努力をショートカットしてるんだよなあ。

 

「すまぬ、滅びかけたこの国に希望が舞い降りたのだ。礼儀を忘れ舞い上がる皆を許してやって欲しい」

「……え? ほろび、かけ?」


 さっき王の取り巻きが雲行きの怪しい事を言っていた。 

 でもまさかの滅びかけなの!?


「おお、またもや失礼した。現状を説明させて欲しい」

「え、ええ、お願いします」


「この国は西にある大国、アイアンドラゴン帝国に7つの都市を占領されているのだ。残る都市はこの王都1つを残すのみ、この国は風前の灯だった、ナリユキ殿が転生する今この時までは!」

「「わあああああああああ!」」

「……ええ!」


「だが今、その未来が変わった! 転生者殿が! ここにいる!!」

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」


「転生者様! 奇跡をお見せください!」

「ナリユキ様! どうかこの国を救ってください!」

「ナリユキ様のご活躍にはこの国の未来がかかっています!」


 うわあ。

 責任が重すぎる。

 女神様の丸め込み方を思いだした。

 だから丸め込んで僕を送り込んだのか!


 てか呼ぶならもっとマシな状態で呼んで欲しい。

 なんで詰みかけ状態になるまで放置して投げつけるように転生させたんだ?

 ピュアが魔法の羽を発生させて宙に浮いた。

 そして両手を開いて叫ぶ。


「大丈夫だよ! だってここには聖なる存在である妖精と圧倒的な魔力を持ったナリユキがいるんだから!」


「「うおおおおおおおおおおお!」」

「「ピュア様ああああああああああ!」」

「「ナリユキ様あああああああああああ!」」


 やめてやめてやめて!

 まだ何もしてないから!

 出来るかどうか分からないし!


「ちょ、ちょっと、あの、急に呼ばれてここに来て何も分からないんです」

「そのために妖精である私がいるから大丈夫だよ! ナリユキは私が導くよ!」


「「うおおおおおおおおおおお!」」

「「ピュア様ああああああああああ!」」


「やめ、ちょっと! ピュア、少し黙ろう」

「まずは魔装ゴーレムに乗る所からだよ」


「おお、すぐ近くに帝国の魔装ゴーレムが迫っている、時間が無いのであった」

「ええ! まさか本当に今日滅びる瀬戸際ですか!?」


「ナリユキ様を魔装ゴーレム『ナイツ』がある整備工房までご案内します」


 ダイバースーツのような服を着たイケメンが礼をする。


「騎士と錬金術師以外は持ち場に戻るのだ!」


 王の言葉で人が散っていく。

 石で出来た部屋を出ると夜で蛍光灯とは違う蛍のような優しい光が城を照らしていた。

 建物の文明レベルは中世、明かりは近世レベル、でもロボットを動かせるならある意味日本より技術力は高い気がする。


 夜を照らす灯りから魔力を感じる。

 魔法文明と科学文明は特性が違うのかもしれない。


 ロボットか、早く動かしてみたい。

 好奇心と不安が入り混じる中ダイバースーツのような服を着た騎士っぽくない騎士に導かれて大きな部屋に入る。


 大きく奥に長い部屋に入ると圧倒された。 

 部屋の横には体育座り状態の魔装ゴーレムが前後に向かい合ってそれが奥まで続いて並んでいた。

 その中央を奥に向かって歩く。

 魔装ゴーレムは白い西洋鎧のような姿をしていた。


 1機だけ立った鎧ロボの周りにはローブを着た人たちが魔法を使っていた。

 メンテナンス中に見える。

 立つと10メートル近くあるのか。

 迫力が凄い。


 イケメン騎士さんが体育座りをする鎧ロボの前で止まると僕に爽やかな笑顔を向けた。


「私の事はファインとお呼びください」

「はい、ファインさん、これに、乗ればいいんですか?」

「ええ、その前に魔道通信を開きます」


 何も無い空間に画面が発生して王とその配下が映る。


「これよりナリユキ殿にはナイツに搭乗して貰います!」


 ファインさんが説明するように言うとナイツの後ろに回り込む。

 よく見ると後ろの壁には盾と剣、杖がかけられていた。

 画面が僕とファインさんに付いてくる。


 後ろに回り込むとナイツの背中部分に大きな楕円の球体が露出していた。


「ナイツに搭乗する際はこのエッグ、エッグとはこの球体の名前です。エッグに手を当てます」

「こう、ですか?」

「はい、両手を当ててください」

「当てました」


「乗りたいと思ってください。最初は乗る、とか、搭乗すると言葉にした方がやりやすいでしょう」

「乗る」


 僕の手が引っ張っられるようにエッグに吸い込まれた。


「乗りこみ成功だね」

「ピュアも一緒に入れるのか」

「うん」


 エッグに入ると背もたれがあり横向きになっている。

 ナイツの外の様子が映し出される。

 王様達とファインさんの画面も出てきた。


 コクピット内部はニワトリの卵内部のような形をしていた。

 改めて画面を見るとエッグの内壁に画面を映し出すことが出来る仕組みになっている。


『立ったまま背もたれに寄りかかって下さい』


 言われた通りカニ歩きで背もたれに寄りかかる。


『足を固定してください』

 

 足マークに足を入れると足が固定された。


『ハンドルを握ってください』

「はい」


 下から突き出たバイクハンドルのような持ち手を掴む。

 するとエッグが回転して視線がナイツの前方にぐるんと向く。


 起動の時にたくさん魔力を吸われている感覚があった。

 でもその後は魔力をそこまで吸われない。


「質問していいですか?」

『どうぞ、あ』

「え?」


 停電したように画面が切れた。


『脱出してください』


『脱出してください』


『脱出してください』


 自動音声のような声が何度も聞こえた。

 エッグに触れて『出たい』と言うと外に出ることが出来た。


「大丈夫ですか?」

「大丈夫ですけど、何があったんでしょう?」

「ナイツが壊れたのかもしれません」


 どゆこと?

 僕何もしてないよね?

 いや、待て待て、僕が気付いていないだけで何かやらかした?


 このパターン、嫌だなあ。

 無かったことに出来ないかな?

 

「その、僕、何かやっちゃいましたかね?」

「分かりません、ただ」


 その瞬間遠くからカアン! カアン!と何度も耳障りな鐘の音が聞こえた。

 そして爆発のような音も聞こえる。


 王様が画面越しに言った。


『帝国が来た! ファイン、ナイツ10機とアイスキャットすべてで応戦するのだ!』

「はい! ナイツ9機とアイスキャットをすぐに起動しろ!」


「残りの1機はどうした?」

「分かりません! ナリユキ殿が乗り込んだ際に急に動かなくなったのです!」

「他の者を乗せて試したか?」


「試そうとしましたがエッグに入る事すら出来ません」

「ぐぬぬ、仕方がない、すぐに出撃だ!」

「「出撃します!」」


 みんながナイツに乗って出撃していく。

 僕がこのタイミングでナイツ1機を壊した!?

 しかも9機の内1機はメンテナンスしてたよね!?

 それも出すの!?


 ダラダラと汗が出てくる。

 みんなが出撃し、僕は残された。

 王様が色々と指示を出している。

 不安になってピュアと話をする。


「このまま滅びたら、まずいよね?」

「大丈夫だよ、今が見せ場になるから」

「お前、超ポジティブだよな」

「ナリユキなら大丈夫だよ」


 適当な言葉だと思う。 

 でも、褒められたように嬉しくなってしまう。

 ここまで純粋に褒められる事ってあんまりないよな。


 ローブを着た美少女が大きなバストを揺らして早歩きで歩いてくる。

 バストが凄い。


「ナリユキ、僕に付いて来て」


 美少女が僕の手を掴み、そして引いた。


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